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Blood 06

 上機嫌の笑顔を見せながらすすいと若葉から離れるラヴクラフト。

 怪物の子を孕む――さすがの若葉も顔から血の気が引いていた。

「クトゥルフの子をって…正気ですか…」

その様子を見た小鳥遊が声を上げる。

「ちょっと若葉ちゃん!?そこの長っちょろいの!若葉ちゃんに何したのよっ!」

しかしラヴクラフトは小鳥遊の声も無視して若葉との会話を続けている。

「正気かと問われれば狂気に墜ちていると答えた方がよいのだろうね――私はこの世に再び立ったその時から静かに狂っている。私は笛を鳴らす者(パイドパイパー)!その歩みは恐怖の舞踏!かくあらんと読者に願われし者!そしてこの次元に(クトゥルフ)の子を受肉させ、支配神とする――それこそ私がここに居る理由であり我が読者の望む新世界の秩序!」

そして若葉は気が付いた。もしかして(ラヴクラフト)にとっては世界など自分の執筆作品に過ぎず、だからこそその中で『彼のホラー』を追い求めているのではないか。純粋に、ただひたすらに“恐怖”を求める狂人として生まれ変わったのか。

 ――冗談じゃない。

「花嫁だったらシュブ・ニグラスでいいじゃないですか!出自も一緒だから互いに気が合うと思いますよ!彼女って安産型だし経験豊富だし!そもそも何で私なんですか?!運命の赤い糸が見えたとかキチガイレベルな理屈なんか言い出したら塵塚怪王で全力ファイナルブロー叩き込んでやりますからね!」

思わず素でラヴクラフトに罵声を浴びせる若葉。頭部の傷から血が噴き出かねない勢いだ。

「出身とか気が合うとかは関係無い。神が現世に受肉するためには、君が持つその魔導力が必要なのだ」

だがそんな若葉に気圧される様子もないラヴクラフト。

「魔導…力?」

「あぁ…君たち陰陽師は巫力と呼ぶのだったか。そもそも君たちは魔導力――巫力を何だと思っているのだ?」

縦長い顔の眉間に皺が寄り、学者然とした雰囲気を放ち始めるラヴクラフト。

「強大であればある程高等な術式を単独行使できる、とは聞いています」

若葉の答えを聞いたラヴクラフトは数度頷き、

「間違ってもいないが正解でもない」

と評価した後、

「巫力とは即ち神――あぁ、この“神”とは人知を超えた超高位次元の存在という意味で“神”と呼ばせてもらうが…日本は多神教の国だから受け容れは容易いのか。その代わり唯一の支配者を冒涜するおぞましい存在が居る、という設定にも恐怖を感じないという、面倒な民族ではあるのだがね」

早口に、そして上機嫌で講義を始めた。

「魔導力、つまり巫力とは神の力を受け止める容器の大きさなのだ。それは即ち神を降ろす器の大きさ、とも呼べる。巫力が小さければ、どれだけ高位の神から恩寵を授かったとしても受け取れる量は微々たるもの。だが、神が注ぐ恩寵を余さず全て受け取れる膨大な巫力があれば、その人間は神にも匹敵する力を行使出来る」

講義に熱が入り出したのか、細長い両腕でのジェスチャーが大きくなってくる。

そしてさも“ここテストに出ます”と言わんばかりに細長い指を立て、ぐいと鮮血に濡れる若葉の顔をじっとを見つめながら、一気にまくし立てた。

「ミス若葉。生まれながらにして貴女程までに強大な巫力を持った女性は史上たった1人しか現れていない――大天使(ガブリエル)の計略に嵌り、YHVHの子を現世に送り出し聖母とされた女性――ナザレの大工ヨセフの妻マリアのみ。つまり貴女は高次元の存在をこの世界に迎える事の出来る、ただ一人の女性。“神の母”となるべくして生まれた女神であり“妬む神”の時代を終わらせ新しい世界を作り出す事の出来る唯一の存在。次元の覇者となりたい野辺の神や悪魔から常に狙われ続ける存在なのです」

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