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Blood 04

 広めの室内には、ついさっき血を抜かれた犠牲者の他にもまだ何体もの遺体が吊り下げてあった。この部屋は血抜き作業と死体の保存に使われているようだ。

 適当なドアを見つけたので開け、中に入ってみる。

 そこには学校給食を作る大きな鍋にも似た機械がずらりと並んでいた。

 適当な一つに近付く。簡単に開けられそうだったので中を開けてみた。中には液体の入ったガラス瓶が何本もセットされており、ガラス瓶の中では薄黄色の液体と赤い沈殿物がそれぞれ層を作っていた。その中の1本を手に取って眺める若葉。

「これって…」 

「おぉ、なんか給食センターみたいな部屋だね」

声に振り返ると、小鳥遊と天色が部屋の入口に立っていた。

「お露さんっ」

若葉は手に持っていたガラス瓶を小鳥遊へと放り投げた。

「んっ?っとぉ」

上手にキャッチし、中身を眺める小鳥遊。

「若葉ちゃん、これって…!」

2層に分離した液体を見て、小鳥遊も理解したようだった。

「はい。『ブラッド』は麻薬なんかじゃなく…“混血児”の血液だったんです。きっと()()は交配や出産を経ず、血液成分を直接体内に注入する事で人間を強制的に『深きもの』の混血半魚人“混血児”へと変化させられる事に気付いたのでしょう。そして、それを日本で実行した。健康飲料やサプリとして広め、それを利用し続ける事で限りなく混血に近くなった人間が“目覚めの呼び声”としてこの町を“幻視”する。その声に誘われて加工場へ訪れた人達は、仕上げとして血液をストレートで摂取させる事で“混血児”として完成させられ――収穫される」

「まさか『ブラッド』は本物の血液だったとはね。そんでもって死体はご飯にってか?」

「恐らく、そうでしょうね…」

「…胸糞悪いねぇ。こんな事を仕掛ける敵ってどこの誰なの?」

「紫苑さんはオーガスト・ダーレスに対し『ラングレー』と言っていましたよね」

「言ってたね。日産?惣流?」

静かに首を振る若葉。

「バージニア州ラングレーの事ですよ」

「?」

「CIAです」

「CIAってアメリカ!?アメリカが相手だったの!?何で?同盟国じゃん」

CIA(中央情報局)はアメリカの都合が良くなるよう外国内で工作活動を行う組織です。同盟国かどうかは関係無いんです。紫苑さんはダーレスがCIAだという事を即座に看破していました。それは多分アメリカが表と裏社会の覇権だけでは飽き足らず、闇の世界においても覇権を握ろうとしている、という事ではないでしょうか」

「そんな事の為に、一般市民を巻き込んで麻薬バラ撒いて?奴らの狙いは日本じゃなくて葛葉でしょ?だったら何故前回のダーレスみたいに本丸を直接攻めてこないの?まるで悪の秘密結社みたいに静かーに地方都市の水面下から無関係な一般市民を標的にしてくるだなんて」

「ダーレスは良い意味でアメリカそのものでした。自信に満ち溢れ己の強さに微塵の疑いも無い。圧倒的な力で正面から打ち倒し強さを誇示したがる。あと、ダーレスは自分の事を『蘇った』と言っていました。それはきっとダーレス自身も信仰の力により“現実化”したのでしょうが、そこにはアメリカという国、国民が潜在的に抱える願望が多分にミキシングされていたのではないでしょうか」

「強い国アメリカ、アメリカン・ファーストって奴ね。確かにそんな感じしたわ」

「ですが、今回の件は明らかに路線が違います。これはきっと…“作者”の趣味じゃないでしょうか」

「若葉ちゃん、今はそういう――」

若葉は静かに、だが力強く、首を横に振った。

「違います。私が“作者”と呼んだのは妖怪が大好きで筆が遅い我らが“作者”の方じゃなく、『深きもの』が出てくる小説『インスマスの影』の作者です。クトゥルフ神話体系の生みの親にしてコズミックホラーという概念を生み出した男――」


(ハワード)(フィリップス)・ラヴクラフトの事です」


 若葉がその名を口にした直後、二人の横の壁が炸裂し、そこから何かが飛び出して若葉と小鳥遊に巻き付いた。

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