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Blood 03

「動くなっ!」

 首の傷を更に広げ、効率よく血抜きができるよう処理をし終えたばかりの混血児。その背中へと小鳥遊が銃を向ける。

「傷害の現行犯で逮捕します!刃物を床に置いて手を上げなさい!」

普通の人間の倍はある手。その指先には獣のように鋭い鉤爪が。指の間には水掻きであろう膜がみえる。益々以て人間との違いを実感する。

「刃物を床に置きなさい!」

相手を“異物”と捉えざるを得ない小鳥遊の耳に、踏み潰された蛙のような声が届く。

「仕事ノ邪魔ァ…スルナよ…」

包丁を握ったままゆっくりと小鳥遊の方へと向き直る“混血児”。

「…オ前、イイ女ダナ」

そして蛙のようなヘの字口を歪ませ――おそらく口角を上げて、笑ったのだろう。

「食オウと思ったが、気ガ変ワった」

すると胴付長靴を脱ぎ捨てた。鱗を纏ったような全身が露わになる。

「ヤラセてくれたら殺さないでヤってもイイ」

「…青魚のアレルギーなの。死んでも御免よ」

「そウ言うな。正気じゃイラれない程可愛がってヤる」

わざとらしく両手の指を広げて一歩踏み出す“混血児”。

「動かないで!」

言葉は通じても倫理観は通じないと判断した小鳥遊は容赦なく大腿に一発撃ち込んだ。乾燥した破裂音が鈍く響く。

 たしかに銃弾は混血児の足に食い込んだ。出血もある。だが打たれた本人は横に広がった大きい口を更に横へ広げ、ニタリと笑い――首を傾げた。

「…そうイエばお前、ナぜ平然とシてイラレる?」

小鳥遊としては『何故撃たれても平然としていられるのか』を問い質したいところであった。

「リアル魚くんと思えば耐えられるわ」

「そウじゃナイ。お前――ナニ者だ?」

臭いを嗅ごうというのか、ずい、と顔を前に突き出して更に近寄ってくる“混血児”。

「実はこう見えてアタシ、セーラー戦士なの――天色!」

小鳥遊の背に貼り付いていた天色が混血児へと躍りかかった。突き出した顔を下から上に跳ね上げる、天色のしっぽによる一撃が混血児の頭部を抉り取った。フワリと揺れる様に床へ倒れ込む混血児。

「銃で撃たれても平然としてるなんて、ホントにバケモノね…」

平静を装ってはいたが内心では心臓バクバクだった小鳥遊。背後から近づいて来た若葉の足音に敏感な反応をみせたが、その姿を確認して安堵の息を吐く。

「大丈夫でしたか?」

「元々は人間だったって言ってたから躊躇とか罪悪感とか気になったけど…」

「けど?」

「下衆野郎だったから寧ろスッキリしたわ」

「それなら良かったです」

若葉は逆さ吊りにされた成りたての混血児を示してサンに聞いた。

「サン、その人はどう?」

「手遅れです…既に魂が離れています」

定位置である若葉の肩の上からサンが答えた。

「…天色、建物の中を探査して、敵の位置と数を教えてちょうだい」

小鳥遊の頭の上に立ち、前足で自分の頭をコネコネする仕草をみせて天色が答えた。

「従業員っぽい反応がこの階の奥に3でぷ。他はお客ばかりぷ」

「ありがと。じゃあお露さんは天色を連れて()()()の排除をお願いします。天色たちはドアを開けられないので」

「分かった。大丈夫だとは思うけど、なる早で戻るから」

奥に向かった小鳥遊の姿が見えなくなったのを確認し、若葉は来た廊下を戻り“混血児”と化した『ブラッド』利用者達が転がる部屋へとやって来た。

「サン――どう?」

ぴょんと肩から降り、静かに眠る“混血児”へと変化したばかりの人達をじっと見つめては首を振るサン

「穢れを祓うことは可能ですが、肉体が耐えられないと思います…」

つまり、救えないという事か。

「分かった…楽にしてあげて」

「…はい」

ピンと立てたしっぽの先に青い浄火が灯る。静かに眠る混血児に近付くサン。尻尾を振ると、混血児が青い炎に包まれ、砂の彫刻がポロポロと崩れるように、肉体が静かに崩れ落ちはじめた。

「血を抜かれて殺されるよりはマシだよね…」

室内に横たわる全ての混血児たちを浄火で包み終えると、若葉は短く黙祷を捧げた後、加工場の奥へと戻っていった。

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