弁財天の社 02
港と海岸線を分ける様に細く陸地を伸ばす、海に浮かぶ小島。
その島全てが神域なのだろう。海から這い上がろうとする『深きもの』達が纏うどろりとした暗い瘴気の中で島全域が輝いて見える。
島の頂にある社殿は既に焼け落ちているようだが、島に住む神使なのであろう何千――いや何万羽もの海鳥が『深きもの』の侵攻を食い止めようと玉砕上等の奮戦を繰り広げている様子が遠くからでも伺えた。 まるで古代の攻城戦のようである。
だが島の岩壁は、最早その半ばまで『深きもの』が群がっており、制圧されるのも時間の問題と言える状態だった。
「こ、こりゃ爆撃機とか呼ばなきゃダメなんじゃないの?!」
フロントグラス越しに見える瘴気の海と『深きもの』の軍勢を見た小鳥遊が、思わず車のアクセルを緩める。
「サン、天色、キミ達の方が速そうだし、いけるね?」
若葉の問いに2匹の式神が頷いた。
「任せてください!」
「ズタボロにしてやるでぷ」
2匹の答えに満足そうな笑みを浮かべ、助手席の窓を開ける。
「お願い!」
若葉の願いに応えるべく、サンと天色が銀色の尾を引いて夜の闇を裂いて飛んでゆく。
「大丈夫なの?あんな大群に2匹だけで」
その様子に些か不安を覚える小鳥遊が車を走らせながら若葉に聞いた。
「大丈夫ですって――まぁ見ていてください」
若葉がそう言っている間に、島の上空に3つの巨大な火の玉が現れた。
「あれはサンの『狐火』ですね」
「でかっ!」
空中に浮かんだままのサンが尻尾を振り下ろす。それに合わせ火の玉が『深きもの』の軍勢へと向かって降り注いだ。しかし炎は爆発せず地面にそのまま吸い込まれるようにして消えていった。
「浄化の炎ですから爆発しないんです。でも触れた穢れと穢れから生まれたモノは跡形も無く蒸発しちゃいます」
「可愛い顔して凄いのね…」
「そこに天色が突っ込みますよ――ほら」
小鳥遊が目を向けると、島の麓を銀色の流れ星のような光が駆け巡っているのが見えた。
「天色の『ギガドリルブレイク』です。身体に旋風を纏わせて高速で移動しながら切り刻む技です」
「ギガ…」
「やっぱりドリルってロマンですよね」
「…その辺は触れないでおくわ」
延々と降り注ぐ火球と群れの中を駆け巡る銀光。サンと天色の浄化技により『深きもの』の肉体が塵も残さず消滅してゆく。
そして若葉と小鳥遊が島の前に車を停める頃には島に群がる『深きもの』は全滅していた。
二人が車を降りると満足そうな様子で2匹の式神が帰ってきた。
「完了しました」
「楽しかったでぷ」
2人の前にちょんとお座りして報告する2匹の式神。
「うん。ありがとね、2人とも」
若葉がしゃがんで式神たちの頭を撫でる。サンと天色は嬉しそうに目を細めながら若葉の手の感触を楽しみ、またそれぞれの肩へと戻っていった。
「さて、あいつらが何を狙っていたのか、調べに行きますか」
小鳥遊が天色からの全力スリスリを受けながら言った。
「ですね。『深きもの』が邪魔なもの――つまり私達に有利になるものがあるって事ですもんね」
もはや砂浜に残る足跡しかその痕跡を残さぬ迄に屠られ浄化された『深きもの』達。若葉と小鳥遊は人外達が包囲していた神社へと向かった。