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陰陽師、北へ 04

 普通の夕食を腹に詰め込んだ後でレンタカーを手配してもらい、昼間訪れた海岸添いの道を目指し夜霧を切り裂いて進む小鳥遊と若葉。

 昼に封鎖されていた場所に『工事中』の看板は無く、道路封鎖も解かれていた。

「封鎖、されてませんね」

助手席の若葉が夜霧の向こうでうねりを上げる海へ意識を向けながら呟く。


 灰黒色の闇を灯台の灯りとヘッドライトが貫く。慎重に…とは形容しがたい速度で上下の激しい海岸沿いの道を飛ばす小鳥遊。

「あ、駐車場がある。行ってみるね」

海側の岩場を拓いて観光駐車場にしたという体の場所だろう。ソフトクリームの飾りを立てた、売店らしき建物が脇に建っている。

「あ、車が停まってますね」

さほど広くない駐車場に乗り入れると、がらんとした駐車場の奥に青いスポーツカーが停まっていた。

「デートかな。邪魔しちゃ悪いね。ちょっと離れて停めよっか」

ぎしぎしと車が横に揺れている。2人から見えない運転席側のむこうでなにかが蠢いている気配がする。

「お露さん……これって」

岩場にどうどうと打ち付ける波の音と潮の匂いに紛れ、下品に咀嚼する音と生臭い鉄の匂いに若葉が気付いた時、既に小鳥遊は流れるように車を降りていた。

「警察です!見える位置に手を上げてゆっくりとこっちに来なさい!」

そして明らかに官給品とは違う銃を構え声を上げる小鳥遊。

 その声に咀嚼音がピタリと止んだ。

 ややあってスポーツカーの屋根にどん、と掌らしきものが置かれ、ぬるりとそれ(点)が姿を現した。


 魚人――とりあえずそう形容させて欲しい。それ以外に例えたくないし思い出したくない。そんな容姿の()()()がそこに居た。


 人の頭を横に潰して鼻を削ぎ、瞼も虹彩も感情の片鱗すらも無い小さな目は人の面影が垣間見え、より嫌悪感を湧き上がらせる。

 首があるべき場所には、(エラ)だと思っておいた方がマシという()()が並び不定期にぱくぱくと捲れあがっている。

 ぬるぬる、ぶよぶよに見えるだらしない四肢は、その筋肉が不規則に身に付いている為にそう見えるだけで、小さな鱗が密集した肌は触れるだけで気が狂いそうなほどにぶつぶつとしている。

 そんな異形が、2匹。停まっている車の陰から。口元から血の赤に染まるとろりとした粘液を滴らせながら姿を見せ、遺体の口から空気が漏れるような、げぇという不快な泣き声をあげた。

「な、何こいつ!?」

鈍くさそうな形容とは裏腹に、地表を泳ぐように素早く左右へと展開した魚人2体が小鳥遊を挟撃する姿勢を取る。その動きに若葉が声を上げた。

「お願いっ!」

「はいっ!」

「ぷっ!」

言うが早いか白燐の軌跡を描いてそれぞれの肩から2匹の式神、サンと天色が飛翔した。

 サンの爪が魚人を袈裟斬りに断ち、天色の尻尾が胸から上を吹き飛ばす。崩れ落ちる2匹の魚人の傷口が再生する事も増殖する事も無いのを確認し、魚人がしゃがみ込んでいた車の陰へと小鳥遊が回り込む。

 そこには、血溜りに浮かぶ肉片が散らばっていた。食い散らかった手や足といった()()の数から、その犠牲者は2人であった事が伺える。

「夜は通行止めを解いてエサを誘い込んでいる…ってとこかしらね、若葉ちゃん……若葉ちゃん?」

「もうっ!やっぱりこいつだし!」

一方の若葉はというと、魚人の死骸をじっくり覗き込んでいたかと思うとすっくと立ちあがり、その骸に向かって腹を立てていた。

「こいつら知っているの?若葉ちゃんっ」

「はい。『深きもの(ディープワン)』です」

「深きもの?妖怪?」

「いえ、モンスターです」

「メイドインジャパンじゃないって事?」

「はい。ティンダロスの猟犬の同類って言えば分かります?」

「あぁ、()()()の……って事は!?」

「そうですよ。例のアイツらです!魚臭いとか港町とか海産物って時点で嫌な予感はしてたんですよ!まったくもう!」

「…そんなにヤバい奴なの?」

「いえ、一般人からみれば十分脅威ですけど、立ち位置的に言えばショッカー戦闘員です」

「サンちゃんと天色の一撃で飛び散ってたもんね」

「海底に眠る旧支配者を神と崇める信者でもあって、その復活と世界征服の為に活動する奴らなんです」

「まんま悪の秘密結社だね」

「でも、その秘密結社の幹部とボスが本気でヤバいんです。この流れだと絶対に出てきます!出ない訳が無いもん!」


「秘密結社かぁ……ますます怪しいね!もう『ブラッド』も秘密結社関連で確定じゃね?」

「でも、繋がっていると仮定すると『ブラッド』を拡散させて何を目論んでいるのか。その目的が分からないんですよね…現状で一つだけはっきりといえるのは、この町は『深きもの』の侵略を受けているという事だけです」

「昼間は閉鎖されていたこの道の先…何かが有るんだろうけど、闇雲に突っ込むのは危険かもね。別の手を考えましょ」

「そうですね。どこまで侵略が進んでいるのかもわかりませんし、それに相手の得意なフィールドにわざわざ突撃してやる必要はありませんから」

若葉はそこまで言って何かに気付いたようにボソリと呟いた。

「……紫苑さんと相志さんなら騎兵隊よろしく嬉々として突撃してるんでしょうけど」

「でしょうね…」

2人の脳裏には死屍累々たる『深きもの』達の中で高笑いする紫苑の姿が浮かんでいた。


「ひとまず内陸に戻りましょう。増援が来るかもしれません」

「そうだね」

「ところでその銃どうしたんですか?」

「こっち来る前にかっちゃんに貰った」

「恋人にP99送るカレシとかステキですね」

「本当は化物相手ならってデザートイーグル勧められたんだけど、重いし取り回しが悪くて却下した」

「あれは危険です!あれを持つと厨二心が刺激されて二丁拳銃したくなる呪いに罹るんですよ!」

「それは若葉ちゃんだけかな」

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