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陰陽師、北へ 03

 市場の建物を出て駐車場の前でキョロキョロしていると、先程のタクシー運転手の方から若葉たち2人へと声を掛けてきた。おかえりなさい、どうでした?と満面の笑顔で二人を出迎える。

「この後はどうされますか?」

「海岸線をドライブしてみたいんですけど」

小鳥遊がそれに応える。対人交渉はお露に全部任せよう、というスタンスの若葉。

「海の方は霧がひどいよ?」

「横を向けば海があるって雰囲気を味わいたいんです。そこをただ流すだけって、結構な贅沢だと思いません?」

それでも一応頷くくらいはしておこう、とウンウン頷く若葉。

「じゃあ少し北側から見て行きましょうか。ここは海岸の殆どが港なんだけど、海自の護衛艦も停泊する港があるんですよ」

「本当ですか!?」

その一言で一気にテンションが上がる若葉。

 そして、艦艇の一隻も停泊していない事を確認し終え、一気にテンション下降した若葉を乗せたまま、運転手の饒舌と潮騒を左に聞きながら、観光地の海岸線とは思えない松林を貫く細い道路を進んでゆくと、霧の中で道路を塞ぐ『工事中』の看板が目に入った。

 違和感を隠せない運転手が車両止めの直前に車を停めると、やや遅れて俯き加減の誘導員が誘導灯を持って霧の向こうから現れた。

「あれ、工事ですか?」

運転手が窓から顔を出し誘導員へと声を掛ける。

「はい。引き返して、ください」

俯いたままでたどたどしく話す誘導員。納得のいかない運転手が眉を顰めている。その様子を見て小鳥遊が窓を開けて誘導員へ声を掛けた。上目遣いで胸元を強調するのも忘れていない。

「私達、海岸線の景色を見たくって来たんです。やっぱり通れない感じですか?」

だが誘導員は小鳥遊を一瞥しただけで、再び顔が見えないまでに俯いて答えた。

「この、霧で?」

「えぇ。霧の向こうで潮騒だけが響く。これってファンタジックな経験だと思いません?」

「とに、かくとおせ、ない」

誘導員の語気が僅かに荒くなる。口調もたどたどしい。

「徒歩もダメ?」

「おか、えり、ください」

小鳥遊も異常を感じたのだろう。それ以上食い下がる事はいなかった。

「じゃ、仕方ないわね」

窓を閉め、運転手に「引き返しましょう」と促す小鳥遊。

「工事があるって聞いてなかったんだけどなぁ……すいませんね、お客さん」

申し訳なさそうに謝りながらどうにかUターンして元来た道を引き返す運転手。その後2人は早々にホテルへとチェックインした。

 それまでずっと無言を貫いていた若葉だったが、ホテルの部屋に入った所で漸く口を開いた。

「気持ち悪かったです…」

「うん。怪しい男だったよね」

霧でよく見えなかったとはいえ顔も見ず、また見せまいとするような振舞いには小鳥遊も不思議な違和感を覚えていた。だが若葉はゆっくりと首を振り、小鳥遊の考えを否定した。

「あの人、人じゃ有り得ない位に穢れてました。下手に刺激しないよう、浄化は抑えてましたけど…」

「ますます怪しいね。陽が落ちたらまた行こう、若葉ちゃん」

「はい」

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