陰陽師、北へ 01
太平洋を右手に見ながら電車は北上を続ける。
穏やかに白く波を揺らす海岸線と、その向こうに何かを探したくなる水平線は北上するにつれて次第に白く霞み出し、目的の町へと入る頃にはまるで雲の中を走っているかのように、波打ち際の向こうは霧に沈んでいた。
霧に包まれた駅に降りると、季節はとうに夏も間近だというのに肌寒い。上着を調達しなければ凍えてしまいそうだ。しかも海沿いの駅という訳では無いのに、街は海の匂いを帯びていた。
「海が見えないのに潮の匂いがするね……」
霧に煙っておぼろげに浮かぶ低い街並みを見ながら若葉が呟いた。
「海から霧が登ってくるんだろうね。この霧から潮の匂いがしてる」
その隣で場違いなほどにスタイルの良さが際立つスーツを着た小鳥遊が鼻をヒクつかせながらそれに応えた。
「さて。八戸には到着したものの何処からどうやって調べましょうかね」
言葉は頼りないが鼻息だけは荒い若葉がホームでふんすと腕を組む。
「さすがの若葉ちゃんにも分かんないかぁ。ならばアタシに任せなさい」
「さすが1課のスカーレット・ヨハンソン」
「私達は文字通り右も左も分からない知らない町に来ております」
ほんの少しだけ“お仕事モード”に移行する小鳥遊に、若葉が真面目に応じる。
「はい」
「こんな町で情報を仕入れるにはどうするか」
「はい」
「タクシーに乗って地元の美味しい店を聞きましょう」
「早くも食欲全開ですか」
「食べない娘は大きくなれないんだぞ?」
「食べた栄養素がお腹に行かないで胸に行くのはお露さんか乳牛くらいです」
そんな若葉に対し、ちっちっちと指を振って余裕の小鳥遊。
「地元を常に走り回っている彼らは有力な情報源なのです。同業者のネットワークで美味しい情報から眉を顰める怪しい場所の情報までも網羅しているのですよ」
「警察屋さんには頼らないんですか?」
「怪しいだけじゃ警察は動かないからね。だから私達が欲しがる情報は持っていないと思う」
「あー、ヤクザの事務所は知っていても心霊スポットまでは知らないって事ですね」
「そゆこと。地元警察が『ブラッド』の存在を把握しているとは思えないしね。でも流通や人の往来は確実に起こっている筈だから、一般市民の方が情報を持っている可能性が高いと思うの」
「なるほど」
「ついでに1日観光案内なんかも頼んじゃえば、いつもより余計に饒舌になってくれると思わない?」
「サーセンただの巨乳だとばかり思ってました」
「分かれば宜しい」
書き溜めた部分まで金曜18時に予約掲載設定中。