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7.めでたしめでたし?



魔王城から国へ帰るまでの道中、フェガリはティエラの面倒をよく見た。それは許嫁であるからというだけでは勿論無い。

けれどティエラにとっては『許嫁だから仕方なくしている』というようにしか思えなかった。

ティエラはこの日々の中で、魔王に攫われた自分を助けに来てくれたフェガリのことを憎からず思うようになっていた。

城にいた頃は自分の趣味の邪魔をする嫌な存在だった。故に冷たく当たっていた。なので正直な話、わざわざ助けに来てくれるなどとは思っていなかった。

しかしその予想を裏切ってフェガリは来てくれた。それも魔王相手に一つも怯えた様子の無い剣技でティエラを助け出したのだ。

それからもずっとフェガリは優しかった。普段城暮らしでこのような旅路には慣れないだろうと、様々な事柄に便宜を図った。

寒い地では毛布や湯たんぽ等を優先的にティエラに回し、食事もティエラに上等なものを用意した。それでいて自分はあまり食べなかったり、ティエラのものに遙かに劣るようなものばかりを食べていた。

夜も隊が襲われないようにと番を進んでやったし、大きな国を経由する時はティエラが気に入るような本を探し求めたり、共に街を歩いたりと常にティエラの側にいたのだ。

その優しさが『許嫁であるから』という理由から成っていると思っているティエラにとっては辛いことだった。

この旅の中で、ティエラには確かに恋心が芽生えていた。だがそれを口にするのは気が引ける。

あれほど冷たい態度を取っていたのに、今更どの口で好意を告げればいいのかと。自分は嫌われているに違いないと、言い出せずにいたのだった。


◆◆◆


「ティエラ!フェガリ!無事であったか!」

「ティエラちゃん!」

何日もかけて魔王城から帰って来た二人を国王と王妃は出迎えた。

「父様、母様……!」

わ、と抱き合い無事を確認する三人を見て、フェガリはやっと胸を撫で下ろした。これでお役御免だと。

「フェガリ、よくぞティエラを無事に連れ帰って来てくれた」

「いえ、騎士隊長として当然でございます」

跪くフェガリ。決して慢心しないその様子に国王も王妃も感心する。

「ティエラちゃん、お礼は言った?」

王妃に言われ、ティエラはフェガリの方を向いて小さく「……助かったわ、ありがと」と呟く。まだ素直にはなれないが、それでもティエラが感謝の意を述べたのは大きな一歩のつもりだった。

「フェガリ、お前には何でも褒美を取らせよう。勿論騎士隊にも」

「……大変、有り難いお言葉です」

「何がいいかしら?ティエラちゃんと大きな結婚式する?その日を国民の祝日にしちゃう?銅像とか建てちゃう?」

「…………」

明るく言う王妃。それはいい、と国王も頷くがフェガリの表情は固かった。そしてゆっくり息を吐いた。

「……何でも、いいのでしょうか」

「ああ、何でもいいぞ」

「それでは、……姫様との婚約を解消させてください」

フェガリの言葉に皆が凍った。祝賀ムードとも言える空気の中、そんな事を言われるなど、誰も思わなかったのだ。

冷たい沈黙が満ちる空間。それを砕いたのは国王だった。

「……理由を問うてもよいか」

「はっ。私めは騎士隊長でありながら、また、姫様を護衛する立場にありながら、魔王に姫様を攫われてしまいました。その落ち度、この首一つで贖えるとは到底思っておりません」

「…………」

「このような者が姫様の許嫁であってよいはずが無い。故に、婚約を解消させていただきたいのです」

「……だが、ティエラを助け、無事に戻って来た。その点については評価せぬのか」

「本来ならば姫様を攫われた時点で私は職務を全う出来なかったとして解雇されていてもおかしくはありません。にも関わらず、姫様を救出に向かわせていただいた事感謝しております。ですが、やはりこの罪は姫様を無事に連れ帰った程度で赦されるものではないのです」

皆、黙ってフェガリの言葉を聞いていた。何と言っていいのかわからないというように王妃はフェガリと国王を見比べる。国王もどうしたものかというようにフェガリを見つめていた。

そこに割って入ったのは、当事者であるティエラだった。

「……だったら、責任取りなさいよ」

「は……?」

「私が攫われた責任取って結婚しなさいよ!」

ティエラの発言に誰も何も言えなかった。それをいいことにティエラは言葉を続ける。

「だって、責任取って辞めるって、それはつまり逃げるってことでしょ?そんなの赦さないわ。本当に責任を取るつもりがあるなら私に添い遂げてこそじゃないの?ねぇ父様、母様」

急に話を振られ、国王と王妃は困ったように顔を見合わせた。と、同時にティエラの心変わりは一体どうしたことかと心配した。

あんなに三次元には興味が無いような、特にフェガリに対しては冷たい態度ばかりだったのに、何故今更許嫁でありたいと言うのだろうかと。

それはフェガリも同様だった。今まであんなに嫌がっていたのに、と。

フェガリからしてみれば、今回の一件を理由に婚約を破棄することでティエラも自由になれると思っての申し出だった。それがまさか本人から拒否されると思わず困惑していた。

「……お言葉ですが姫様。姫様にはもっと相応しい者がいるかと思います。その者を探す方がよろしいのではないでしょうか」

「……嫌」

「え」

「嫌なものは嫌……」

俯き、小さな声で言うティエラに、王妃は気付いたようだった。

「ティエラちゃん。貴女、フェガリの事はどう思ってるの?」

「…………好き」

「!?」

唐突なティエラの言葉にフェガリも国王も目を丸くした。少し前までの態度とは全く違うティエラの様子にどうしていいのかわからず呆然とするだけ。

ティエラは好きだと言った事で吹っ切れたのか、フェガリを正面から見つめた。

「……貴方だって、背、高いし。礼儀正しいし、優しかったし、強かったし、頭もいいと思うし、顔も、その、かっこいいと思う、わ」

「…………」

「だから、……側にいなさい」

「私、でよろしいんですか……?」

「貴方じゃないと嫌……。……例え、貴方が私を嫌いでも私は貴方じゃないと……」

「何を仰るんですか?私はずっと姫様の事をお慕いしておりました!」

「え……」

「ですから、……私の方が嫌われているものだとばかり……」

「それは、その、ごめんなさい……。でも今は違うの。本当に貴方の事が好きよ」

「……姫様……。……私も、お慕いしております」

ようやく想いが通じ合い、笑みを交わす二人。すっかり蚊帳の外にいた国王と王妃が言った。

「……えー、褒美、どうする?」

「大きな結婚式でいいかしら?」

どこか照れたような国王と、にこにこ笑顔の王妃。そんな二人にティエラとフィガリはようやくその存在を思い出したようだった。

「も、申し訳ありません国王様……。先の言葉を撤回させていただければと思います……」

「当たり前じゃ」

「よかったわねぇティエラちゃん」

「……うん」

頬を赤らめ、微笑む若い二人。ようやく落ち着くところに落ち着いたらしいと、国王も王妃も喜ぶのだった。




後日、国を挙げての盛大な結婚式が行われたのは言うまでもない。





終.

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