4.たいへんたいへん。
「よーフェガリ。お前姫の許嫁になったんだって?」
国王達に呼び出されてから数日、詰所で騎士隊長の仕事をしているフェガリに、そう声を掛けてきたのは同期でもある騎士ピスケスだった。
「もう知れ渡っているのか」
「というか国王が広めてた」
曰く、『フェガリと姫をくっつけることにした。これでこの国も安泰だな!』と大声で触れ回っているらしい。それを聞いてフェガリは頭を抱えた。
「何をしてるんだ国王様は……!」
「嬉しいんだろ。やっと姫様のお相手が決まって」
「とはいえ姫様は承諾していないからな。許嫁と言っていいものかどうか」
「国王様の命令なら余程のことが無ければ覆らんだろう」
「だがなぁ……」
「いいじゃねぇか。お前だって姫の事好きなんだから」
「…………」
確かに自分はティエラの事が好きだ。故にティエラと結婚出来るというのは嬉しい事。しかし、他の人が無理矢理まとめる縁談に意味はあるのだろうか。フェガリは悩む。
どうせなら自分自身をきちんと見てもらって、それから好きになってもらえればいいのに、とそんな風に思っていた。
とはいえティエラは自分に対して嫌悪感しか抱いていない。ちょっとやそっとではその評価はひっくり返らないだろう。
どうしたものか、とフェガリが思い悩んでいた、その時だった。
「た、大変だ!姫様が攫われた!!」
そんな叫び声が聞こえてきた。
「姫様が攫われたというのは本当か!」
慌てて詰所から出て来たフェガリに騎士の一人が言う。
「はっ、報告致します!先程魔王が現れ、魔法で我らを足止めしたかと思いきや、そのまま姫様を攫ってゆきました!!」
「……っ」
魔法を掛けられたのでは致し方ない。それでも何も出来ないままティエラを攫われたというのは騎士隊にとってひどい屈辱だった。
「……全騎士に告ぐ!これより姫様を救出する為に魔王城に向かう!すぐに隊を編成せよ!!」
「はっ!!」
フェガリの号令によって、皆が集まり、隊列を組んだ。
「……魔王ぶっ潰す」
ぽつりと呟かれたフェガリの言葉。何が何でもティエラを取り戻す。その気迫に逆らう者はいなかった。