2.こまったこまった。
日も沈み、月が煌々と輝く夜。騎士隊長フェガリは、護衛を任されている姫ティエラの部屋にいた。
「姫様、そろそろおやすみの時間です」
「嫌よ。まだ本を読みたいの」
「ですが」
「嫌」
「…………姫様」
「嫌なものは嫌。寝ないわよ」
「……この時間におやすみにならなければ、明日の朝起きられませんよ」
「寝なければいいのよ」
「お身体に障ります故……」
「嫌」
フェガリの言葉を悉く無視し、ティエラは本を離さない。見かねて同じく部屋にいたメイド、エーリスが助け船を出した。
「ほら、姫様。フェガリもこう言ってます。今日はもうおやすみになってくださいまし」
「……」
エーリスはティエラが幼い頃から勤めているメイドだ。故に彼女の言葉にはティエラも逆らえない。「わかったわ」と大人しく本を置いた。
「早起きして読む分にはいいでしょう?」
「そりゃあ、まぁ。でもきちんと朝食を終えてから、ですよ」
「はぁい」
幼子のような口調になりつつも、ティエラはベッドに横になった。そうして目を閉じる。
それを見てから、エーリスとフェガリは姫の部屋を後にした。
「……全く、いい加減姫様に好かれなよあんたは」
「はぁ……」
とはいえどうしていいのかさっぱりとわからない。フェガリはその大きな体躯を所在なげに丸めた。
「それでも騎士隊長かねあんたは。もっと威厳とか何か無いもんか。それでよく騎士隊まとめられるねぇ」
フェガリは乾いた笑いを返すだけ。騎士隊の前では当然、相応の態度でもって過ごしているが、それをティエラの前に出すと恐らく泣かれる、より嫌われるとフェガリは思っていた。
なのでどうしても腰が低くなり、ティエラの顔色を窺うような態度になってしまうのだ。
「まぁ、あんたも頑張んなよ」
「はぁ……」