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疾走者の不変世界(リフレインソング)  作者: 絵之色
第一章 君に囚われた心
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03.偶然の出会い

 買い物を終えメイドさんと別れると空はもうすっかり暗くなってきた。

 暗くなってきた空には星がよく見えて満天の星空がとても綺麗で眩い。

 一つ一つが別々の輝きを放っていて瞬く間に消えていってはまた輝きだす、その繰り返しだ。


「本当にドイツの空ってキレイだなー……日本とは大違い」


 ただ静かに星々は翔太の周りを照らしていた。

 翔太はぼうっと空を眺めながら自分の足を進めて、手に持っている買い物袋をもう一度両手で持ち直しながら街中を歩いていく。


「海外だから銃刀法違反とかないって不安感もあったけど、どこの国でも優しい人は優しいもんな、優しい世界万歳! ……ん?」


すると謎の集団が一ヶ所に集まっているところを見えてきた。

 翔太は思わず建物の物陰ぴったりくっつくように隠れる。あ……もしかして、これって漫画である組織の怪しいやり取りがあるシーンとか!?


「って、小声小声モード……!!」


 きっと誰だってあんな集団なんて見たら隠れたり固まってしまうものだと思う。

 こう見えてビビリな男なため今にでも話しかけたら殴られそうな雰囲気の集団に突っ込んでいける勇気は持ち合わせていない。

 よく目を凝らしてみると何か話し合っているようだった。

 じっと見ていると謎の集団は皆、白の服を着ている人が多い。

 しかも左腕の方に腕章している人が目立つが、一体なんだっていうんだろう。


「なんだか盗み聞きしてるみたいで嫌だな……ん? なんか別れるみたいだな」


 何を話しているかはあまり聞き取れないが、集団は2人の男を残してどこかとへ走っていってしまった。翔太は集団が一人になったのを好機だと思い、感謝した。

 翔太は暴力を振るわれる前にすぐにでもその場から立ち去ろうとするその直後だった。


「ぎゃああああああああああああ!!」


 翔太は聞こえてきた絶叫に驚く。


「いったい、なに……!?」


 俺はその出来事に目を見開いて見ているしかできなかった。

 そして俺は目撃してしまった、もう今までの日常に戻れないと悟ってしまう瞬間を。穢れない雪の白よりも真っ白な少女が無邪気な子供のように笑いながら人を殺す瞬間。

 そう、それはまさに突然現れた白き少女が集団の男たちを蹂躙する……その瞬間に立ち会ってしまったのだ。

 1人の男の背後から石畳で作られた地面の一部が、起き上がる。鰐が大きな口で餌を食べるようにガブ、ガブっと、地面に食い殺された。


「っひ!!」


 うまく地面は男を食いきれなかったのか、それともビビリの俺の当てつけか……男は靴を履いた踵の部分だけ残った。血痕は紙の端から絵の具がはみ出してしまった後のように血が飛び散っている。

畳に飛び散った血がそこの一箇所だけこびりついて、よけい生々しさを感じさせた。


「嘘、だろ……? 人が地面に食われた!?」


 声を抑えながら恐々する。こんな非現実染みたホラーゲームなんて、購入者が俺なら絶対にいらない……なぜならこれが、俺の現実に起こってしまったことだからだ。


「あはははははは!!」


 少女の愉快気な笑い声が夜のアーテムシュタットに響く。

 純粋で、狂気的で、どこまでも真っ白な、恐ろしい少女は道路の真ん中で裸足で立っていた。


『く、くそぉ! よくも……!!』

「貴方も、私と遊んでくれるのね! ふふ、遊びましょうっ」

『は!? て、う、うわぁあああ!! 助けてぇええええ!!』

「ふふふふふっ、あはは、あははははは!!」


 もう一人の男は英語で叫びながら立っている地面が急に液状に変わって、地面がゆっくりゆっくりと飲み込んでいく、二人が死んだ姿を眺めながら少女は笑みを零した。キャミソールタイプの白いワンピースのような服を少女は着ていた。

 ストラップの所から黒いラインが胸元で二本の線が2回くらいひし形にクロスしている。股の所の部分まで一直線に入っている。その白い素足を大胆に見せつけるようなそれはまるで性行為をするため用の服だという印象を抱く。

 裾の部分が長いのもそうだが、しかも外だというのにも関わらず上着を掛けず素足であることに驚く暇もない。


「……なんなんだ、あの子は」


少女の髪はむしろ透明のガラス細工のように月の光が当たって輝いていた。

 夜空の青が少女の髪をより明確に輝かせ、透明だと言ってしまいたくなるほどの澄んだ白色。瞳の色すらも水晶か何かでできているのではないかと思うほど無機質で、実は眼球が本物ではないと言われたらそうかもしれないと頷きたくなるほど彼女の純度の高い白さは異質な不気味さを放っていた。

 実際にこんな人間がいるだなんて誰も思わない……白よりも、透明のようにも近いその存在に畏怖にも似た、恐怖を覚えるのは。


「……に、逃げなきゃ」


 横たわる死体の上で踊るように笑う彼女が、今踏み出したら自分を殺すぞと脅されているようで口から漏れる言葉で前へ踏み出そうにも、足が動けなかった。


「ねえ……ねえ? あそぼ? ふふふふ」

「嘘だ……なんで、」


 地面に食い殺された男たちの後ろで立っていた白い少女は男の返り血一つも浴びていない。現実であるはずの今の情景に思考が追い付けない。

 なぜ地面が男たちを殺せたのか、白い少女がなぜ笑っているのか、俺の頭が理解することを拒否する。ただ解るのは、もし、気にせず真っ直ぐあの男に話しかけてしまっていたら俺も一緒に食われていたことだけ。

他の人、みんな殺されるのかな。


 ――ダメ、だ。そんなのダメだ……!!


 頭の中で今まで見てきた作品たちのキャラたちが叫んでいる。

 逃げたら、他の誰かが殺される、と。

 でもそれと同じくらいに逃げろ、と俺の本能が叫んでいた。

 恐怖に囚われた足が誰かの命の危機に踏み出せないなんて。

 踏み出すことが、できないなんて。

 

「……動けよ、なんで動けないんだよっ!!」

『おい!? どうした!?』

「っ!!」


 一人の黒服の男が来て、ぞろぞろと五人くらいの白服の男たちがやってくる。

 男達は地面に転がっている謎の血痕と肉片を見てざわめきだす。


 ――はやく、はやく逃げろ、はやく逃げろよ、逃げてくれよっ。


 俺は必死に口元を抑えて男達に立ち去るように心で叫ぶ。

 だがそんな俺の祈りも空しく、ガタイのいい黒服の男が少女に向かって叫んだ。


『お前がやったのか!? まさか……!!』

「うふふ、遊んでくれる?」

『お前ら、戦闘準備! 気張れよぉ!!』


 黒服の男が英語で叫んだ。

 白服の集団は女に向かって銃の発砲を始める。

 しかし少女は宙を浮きながら銃弾に向かって軽々と弾丸全て避けきった。

 いいや少女の周りを通り過ぎって行ったと言っても多言ではない。

 黒服の男の後ろにいる白服の男二人の首が飛んだ。


『マジか!?』

「アハハハハハ! 遊びましょう? 遊びましょう? ねえっ」

『くそ!!』


 ずっと笑みを浮かべる少女に男達を苛立たせた、その笑みはどこまでも純粋のもののように見える俺は目は間違いないと感じる。

 無邪気で純粋な笑いだからこそ、狂気さを耳に残す。


 ――ギシャアアアアアアアア!!


「っるさ……!! って、今度は何……!?」


 今までに聞いたことのない耳鳴りがしそうなほどの大きな奇声。

 思わず目を瞑って両耳を塞いでしまった翔太は、目の前の少女だけでなく違う存在にも驚愕することになる。

 見たことのない赤い肉塊の塊と一緒に桃色のねばついた触手が少女の隣に急に沸き始める。少女は触手に頬を撫でられているところをみると触手だけじゃないく肉塊もきっと彼女に敵意が無いようだった。

 少女は不気味に、触手に語りかける。


「うふふ、いい子いい子。貴方も■■■■よね? なら、いかなきゃ」

『おいおいマジか、不明物がモネーレを連れてくるなんて……どんな厄日だよ今日は!?』


 男は焦った声で少女と触手と肉塊を見る。


「モネーレ? ……なんだそれ?」


 いまいち理解が追い付かないでいると肉塊は徐々に集まり形を変えていく。

 肉塊は黒色に変わり、猿ぐらいの頭に2つの大きな青い目玉がつき、妊婦のように膨れた腹をしていて足と予想できる部分からは蔓のようなものが生えている。

 触手も赤くなり、血と思わせる鉄臭い臭いを周囲にばら撒く。

 自分が知る動物と呼ぶには冒涜的で、怪物という言葉がぴったりだった。

 まるで既存作品にも出てきたとしてもここまでグロテスクなものはいないと思う。


「ふふふ! あはははは、さぁ……■■■を味わって?」

『おい、エファン、こっちに今すぐこっちに来い!! 暴走中の不明物にモネーレも出てきた!! こっちも数人やられた! 救援を頼む!!』


 なぜ少女の言葉が日本語に聞こえてくるのか、理解に苦しむ。

 しかし黒服の彼は目の前の怪物を倒そうとしているのがはっきりと伝わってくる。


「なんの、映画やアニメの世界だよ……嘘だろ」


 翔太のその言葉に呼応したように少女の周りの地面の一部が蛇のように黒く蠢く。

 地面の一部が抉り出されるように起き上がりその一つ一つが槍のように鋭くなっていく……その一本一本がまるで鋼鉄でできた槍のようだ。


『何!?』


 黒服の男は周囲の地面から湧いた槍に全方位から隙間なく首目掛けて突き刺さる。


『ガッ! ぁ……ッ!!』

『ブークリエ!!』


 隣で銃を構えていた男は、その黒服の男の名前を叫んだ。

 鉄骨のような槍は男の首から顔にかけて包み込む。男の身体は宙に浮くと槍は男の頭を包んでいた部分が花が開花するように一枚一枚開き始める。


「ヒィ……!!」


 男の首がぽとりと静かに槍の芯から落ちた。 

 まるで咲き誇った花びらからこぼれる水滴のように、男の血が地面に滴り落ちた。男の首は地面に転がり、首の周りが鉄骨の槍で突き刺された痕が生々しい。

 それを見てしまった一人の白服の男が顔を歪め、口元に手を当てる。


「っうぷ、っ」


 俺は今まで見たことの無い光景に吐き気を覚える。

 翔太は嘔吐しないようにすぐ口を手で押さえて唾を飲み込む。迎撃する男達は白の女に一切歯が立たず、現実でありえない手口で殺されていく。


『……うぅ、げぇ!』

『おい、今吐くな!! 殺され……!?』


 ゆっくりと槍は引き抜かれ身体が地面に落ちるのを呆然とする男達。

 一人の男が口元に両手に口元を当てながら、銃を構える手を一瞬緩んでしまった。

 さらに、槍は真っ直ぐに吐きそうになった男の隣に立っている白服の男を狙い心臓を迷いなく貫き、地面を赤く染め上げる。


「う、うわぁあああああ!!」


 その槍は勢いよく引き抜かれ、胸元の血を吹き出しながらすぐと倒れるのを目のあたりにする。

 その槍の動作は翔太の心をさらに苛めた。


「……逃げ、ないと……逃げないと殺される!!」


 翔太はようやく(すく)む足をなんとか後ろへ下がらせ、身を(ひるがえ)して走り出す。

 紙袋なんて投げ捨てて必死で逃げる。

 殺されていく男達の絶叫が響くのを目をつむって無視ながら。


 「どこにいくの?」


 少女は男たちを虐殺していた槍は翔太に目標を変える。槍の速度は速く、グングンと翔太の元へ向かっていく。


「嘘だろ!?」


 俺の声が聞こえた集団の一人が、大声で他の男たちに叫ぶ。


『何!? 一般人がいるぞ!?』

『今は無理だろ、こっちは盾役がやられたんだぞ!? それどころじゃ……!』

「マチナサイ! キミ!!」


 翔太は一人の集団の人物がたどたどしい日本語で叫ぶのを無視する。後ろを振り返りながらも必死に追いつかれないように走った。だがあっという間に翔太に追いついてしまう。翔太の両足の脹脛(ふくらはぎ)を貫かれた。


「うあああああああああああ!!」


 貫かれた脚から血が勢いよく噴出する。

 俺はただ買い物を済ませて帰ろうとしていただけだって言うのに、なんでこんな目に。


「……ッ!!」

「……お願い、逃げないで? だって■■も、そうでしょう?」


 少女から微かに声が聞こえたが、うまく聞き取れなかった。

 その声はどことなく甘ったるく愛しい者に向けるかのような優しい声。

 だが俺は惨殺された黒服の男達の死体を見たことと、自分自身の足を貫かれた痛みに震える。


「……っ、まだ、まだこんなところで死にたくないっ!! まだ俺の知らないことがたくさんある……たくさんあるのに、あるのに! こんなところで死ななきゃいけないのかよ……!!」


 血が足から流れていることで冷静な判断が取れない。拳を握りしめて自分の動かすことができない足をただ、睨むしかなかった。

そこに予想していなかった方向から銃声が鳴り響く。


「え?」


 静かな夜の中に響く銃声は、謎の集団たちが放った銃声よりも鮮明に聞こえた。

 そう聞こえたのは、きっと俺が死ぬかもしれない瞬間だったからというのもあったのだろう。俺は驚きゆっくりと身体を仰向けにして背後を見る。

 見上げたその先には、見知らぬ女性が化け物たちがいる方へ歩いていく姿だった。

 夜空の月に照らされた長い黒髪を靡かせ、裾の長い黒のロングコート着た彼女は二丁の拳銃を持って化物の前に立つ。

 その時、俺は直感した。

 この人は、俺を救いに来てくれた救いの女神なんだって。


「目標を確認、対象を処理します」


 女性の声が空間に木霊する。

 心の奥底からある不安という泥を洗い流す清流の声色に心が救われる。

 悲しいくらいに綺麗な声に、安堵して。


司令塔マスター、オーダーを」


 彼女は耳に手を当てながら誰かと連絡を取っている。

 誰かをマスターって呼ぶとか、いよいよ本当にアニメのキャラクターが登場したんじゃないだろうななんて茶々を今の俺がすることなんて出来なかった。


「了解」

「……………っ」


 突然現れた女性に俺は思考が停止したまま、ただ言葉が詰るばかりで思わず言葉が漏れるもその時の彼女の後ろ姿が目に焼き付いて離れなかった。


「……あ、の」


 彼女に問いかけようとしたその時、また少女は呟く。


「……………そう、そうなの。貴方■■なのね?」

「?」


 少女の言葉にまたノイズが混じる。

 俺はロングコートの女性を見上げたまま何も言えずにいると白い少女が先に動く。少女は右手を前へと伸ばすと鉄骨のような槍達が一ヶ所に集まって、一匹の大きな竜を作り上げていく。作りあげれていくその姿は中国などでよく見られる尾が長い龍ではなく、ゲームやRPGにでもよく出てくるドラゴンなどに近い。

 少女に作り上げられたそれは二つの細い腕と翼が生えた黒いドラゴンは吠える。


「喜びなさい、死を呼んだのは貴方よ」


 女性はそう囁くと、怪物を守ように立つドラゴンに向かって銃を撃つ。


「マキシム、援護を」


 女性は誰かの名前を呼ぶと違う建物の屋上から、少しだけなにか光ったように見えた。暗がりでよく見えないため一瞬だったが、そこに彼女の仲間が居るのだと認識する。

 そこで新たに槍で産まれた竜の咆哮が響き渡った。実在しないそれは、本当にゲームやテレビで出てくるドラゴンが現実に出現したかのようだった。


「ギュルアアアアアアアアアアア!」

「これより、目標を殲滅します―――――解析、開始」


 女性はそう宣言すると周囲に淡い輝きを放たれたように感じた。二丁拳銃を持った女性は、少女の手によって生み出されたドラゴンを前に両腕を重ねるように構える。訳の分からない展開に頭がついていけない俺は、呆然と目の前へで繰り広げられる戦闘をただ見ているしかできなかった。

 女性が細身のドラゴンに弾丸をぶち込む。女性の銃から放った弾丸はあまり効いていないようで、ドラゴンは翼を羽ばたかせる。

羽ばたかせたその翼から羽根が棘のように鋭く女性を襲う。


「……ッ!」


 襲い掛かる羽根は女性の頬や身体を掠めた。

 女性はそれをものともせずにドラゴンよりも怪物の急所、弱点となる場所を探すように銃を構えながら近くに居る翔太を庇いつつドラゴンと怪物の次の攻撃まで態勢を整える。


「え……!? なんで俺を庇って……!?」


 そんな戦闘の真っ只中、翔太は女性がドラゴンを銃撃しているうちにまた新たな現象が翔太の視界に映った。一部の壁や地面が削れていっている……しかもそれが彼女が弾丸を撃つ毎に比例して、だ。


「なんなんだ!? 地面が……!?」


翔太は足の痛みを耐えながら、薄れそうになる意識を手を握り締めて何とか保つ。彼女が放つ弾丸に比例して地面が削られて行っている。

 いったいどういうことなんだ、彼女が銃を打つたびに固い地面が削られていく。なぜ? 彼女は、特殊な能力を持ってるとでもいうのか。そんな、ありえない。だって、そんなのゲームや漫画、アニメの中の話だ。そんなのが、現実に起こるだなんてありえない。

 未知でありえない世界が、今そこにある。そう思うと、どこか歓喜を覚える時分がいた。


「あ、ははは」


 こんなところで、喜んでいる状況じゃないのに、どうしてだ。

 どうして、この人を見ていると気分が高揚としてくるんだ。こんなにも脚が痛いのに。痛くてたまらにっていうのに……どうしてなんだ。

 俺の頭の中はどこか変になったのだろうか。

 翔太は脚の痛みと戦いながら、目に涙が滲む。


「ギュァアアアアアアアアアアアアア!!」


 唐突に怪物は絶叫したと思えば、左目から黒い血が流れていた。

 すると、女性は一言呟く。


「了解」


 女性は竜の前で弾丸を銃に装填し、怪物の右目に照準を合わせると放たれた弾丸は吸い込まれるように怪物の右目に貫通した。するとドラゴンは悲鳴にも似た絶叫を上げながら黒い砂となって消えていく。ドラゴンが消えた広場で、赤く散らばった死体たちの上で白の少女の笑い声が響き渡る。


「あははははははははは! 楽しかったわぁ、さようなら」


 少女はすうっと空気に溶けていくように消えていく。少女が生み出したドラゴンが消えていくのを最後に翔太の前で戦闘していた女性は二兆拳銃を下ろす。


「戦闘終了、次の続行すべき任務へ移ります」


 二つの黒い二丁拳銃を持ったまま女性は、片耳に手を当てながら囁いた。

 すると、女性は焦った表情で俺の方へと振り向く。


「――――――っ!」

「え?」

 

 銃声音が響いて、俺の頬をスレスレで彼女は発砲した。


「ギュルアアアッ!!」


 肉塊の化け物の絶叫が小さく響くと俺は背後に振り替えっていた。

 さっきの肉塊が俺を後ろから襲おうとしていたのか、彼女のおかげで難を逃れた。しかし、肉塊の液体が振り向いた俺の顔にべったりと当たる。

 翔太は驚いて、顔に付いた血を指で触れる。

 黒い液体、いやおそらくは肉塊の血だ。でも、血にしてはどこか違うような……?

 とにかく、翔太は目の前で繰り広げられる異常ともいえた光景が終わったことに安堵し息を漏らす。

 

「……あ、の」


 助けてくれた女性にお礼を言おうと思って、彼女の方へと振り向く。

 すべては終わった、そう、思っていたはずなのに。

 女性はなぜか俺に額に擦り付けるように右手に持った銃を(あて)がう。

 無言で向けられる銃口よりも月色の瞳に心が凍った。

 けれど、その時の俺はなぜか同時に美しいと思った。


「運命に抗うのは無謀だと知りなさい、化物クリーチャー


 また銃声は鳴った。静かに、ただ残酷に。

 俺の生はこれで終わったのだと、悟る前に死んだ。

 彼女は救いの女神ではなかった。


 ――そのときの俺は、信じられなかった、知らなかったんだ。


 これから俺に降りかかる数え切れない出来事を、知らないままで過ごすことなどできないのだと。

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