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Luna・Dread ~虚手の騎士~  作者: 十立 章
一章 瞳に映るは嵐の爪痕
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一章Ⅷ 「弱者の挑戦」

 花がたくさん出て来る前に突っ込んだ。でも、遥郷さんの様に速くない。向こうも凌ぐために花の刃で迎え撃つ。もちろん躱し切るなんて出来ない。毛頭ない。切り裂かれながら刀の間合いに入る。


 よし、刀を振りかざしたが気づいてないーーいける!

 坂嶺の意表を突かれた表情がチラッと映る。

 右肩から刀身が入りそのまま胴へ……いや、浅い。


 感がいい。殺気を感じたのか、完全に決まる前に少し下がられた。

 刀を返し突きに切り替える。隙は与えないーーーーうっ、胴を突けたが、浅い! かすめただけ……なんで? 大島の時と全然違う。


 諦めちゃ……いや、

「……っ……!」

 後ろから少しやられた。だけど痛さに構うほどでもなく、振り返って刀で花弁を打ち落とす事はできた。それでも刃の渦に巻き込まれる前に、間際を突いて飛び込んで距離を取る。


 気をつけないと……刃の渦に入ったら終わりだ。囲まれる前に斬り伏せて……そして、隙を狙わないと。

「そう、そんな様子じゃあなたも終わりね」

 一気に間合いを詰められた。拳。拳。拳。ひたすら打撃で攻めてくる。思わぬ戦法に気圧されたけど、刀で防げばいい。


 顔に拳が来る。その拳の前に刀を盾にする。しかし、動きがハッキリ見えてるのか拳は刀をそれる。それるからには拳は当たらない。


 これで大丈夫だ。間合いを再度詰められ、顔に一旦フェイント、そしてボディに来る。これも合わせて防ぎ、坂嶺の拳もすんでで刀からそれる。刀は見えてないけど、手の動きで危険だと感じて刀から外せているんだろう。かなり用心している。だからわたしでもこの拳をまともに食らわず済むのだろう。


 だけど、何度も執拗に格闘戦で攻めてくる。ーールナの温存かもしれない。なんで? もしかすると、さっきのは大技で意外と消費したかもしれない。あるいは木村さんの時に消耗し過ぎたとか。後の事も考えているんだろう。


 いけるかもしれない。


 ーーそう思ったけど、簡単じゃなかった。むしろ難しい。いや無理じゃないか? 防御は出来ても、攻撃が上手く当たらない。当たっても浅くて怯んでくれない。というか、押されてる。見えないから防げてると思うけど、たまに当たった時の衝撃がヤバい。フラついてしまう。当たった時が一番、集中力が必要だ。態勢を崩した瞬間に一気に殴り伏せられそうだ。本当に? 嘘でしょ? こっちは刀で向こうは素手でしょ? しかも見えない刀。動きと刀身を予測してここまで出来る? これがプロと素人の差? いやいや。ダメだ。そういや、木村さんが言ってたっけ……格闘戦も得意って。でも、これはあんまりじゃ。

わたしが弱すぎるって事か。


 ーーしっかりしろ。向こうは能力を使う気はないんだ。そこに油断はあるんだ。こっちは一回でいいから怯ませて菜摘を助ければいい。むしろ粘ればいい。花だけは使わないでよ……後は遥郷さんが来れば。


 来れば……


「かはっ……!」

 やられた。腹部をえぐりこまれた。きつい……だけどなんとか……構えは出来ている……打ち込める。こっから刀が当たれば‼


「……っちぃ!」坂嶺は斬られ声を漏らす。

 感触はある……深い。ーーん? 腕? 腕で防がれて、か……斬り落とせない?

 うわっ、貧弱だ。打ち負けた。


「……ゃっ!」

 腕を強く叩きつけられ、手から刀が離れてしまう。そして、腹部を強く蹴飛ばされ吹っ飛ばされた。

 ああ……今の打たせて斬り伏せるつもりだったのに。ヤバいな。ヤバいヤバい。ダメダメだ。これじゃ……やられる!


「返すよ」坂嶺は言いながら、腕から刀を抜く。そして、すぐさま振りかぶった。

「……ぁぁぁああ!」避ける事も出来ず、投げた刀を浴びてしまう。


 胸を貫かれ、崩れ落ちるように膝をついた。


 距離をすぐに詰めて来ず、足元から少しづつ花びらが集まってくる。動きを止める気だ。

 足を刻まれ、苦痛の声が漏れる。苦痛どころか意識が飛びそうだ。意識が遠のきそうになりながらも何とか坂嶺を見る。もうすでに目の前だ。やばいーーーー


「ぐあっ!」

 肺を貫いていた刀を一気に引き抜かれた。遅れてどくどくと血が溢れ出し、激痛が体を支配する。もうどこが痛くて、どこがどうなってるか分からない。痛みに汚染されたような感覚。ただ、やられた箇所を思い出しながら再生を続ける。

 だけど、すぐに目の前に再生を絶つ一閃が見えた。


 ーー目の前が真っ暗になる。ああ、斬られたんだなと、遅れて気づく。

 そして感覚がない。痛みもない。

 さっきまでミンチにされたらこんな感じか、と気持ち悪い想像してしまいそうな痛みだったのに。


 でも、何かおかしい。


 意外と意識がしっかりしている。遅れて足の先に何か当たる感じが……感覚がある? しかもなんか、ザラザラというか、ツルツルというか、少し冷たい。


 体の感覚に気づくと、目を開けられる事を知り、視界が蘇る。下を見ていた。一面黄褐色の色。それはもぞもぞ蠢いている。床じゃなくてどうやら自分の足だ。足に何かがまとわりついている。


「ヤバい。気持ち悪い」

 もう多分、天国かなとか思ってたので、軽口も自然に出た。だが、今自分がどこにいるか引き戻す声が聞こえた。


「なんでここに? って、感じの顔だね」


 聞きなれない声。知らなくはない声。適当で、いい加減で、拍子抜けする声。そんなのは充に当てはまるんだけど、女性の声だ。

 ふと、声をかけられ誘われたかのように顔を上げた。


「まぁ、そんな顔しなくてもあたしはいつもこんな感じだから。いつの間にかいるのさ」


 目の前に黒い髪が宙に舞い、ゆっくり背中に集まる。声とは裏腹に立っているだけで見惚れる佇まい。細くて高い背格好から勇ましさも溢れる。そして何より左手がおぞましい。


「さーて、一緒に舞い踊ろうかぁ!」


 誰もが眼に焼き付ける、包帯ぐるぐる巻きの人差し指を突きつけ戦線布告。


「そう……生きてたんだ…………東林瞳」


『まなこ』と名乗った女に坂嶺はぼそりと『東林 瞳』と名前を呼んだ。

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