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Luna・Dread ~虚手の騎士~  作者: 十立 章
一章 瞳に映るは嵐の爪痕
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一章Ⅴ 「刈り取る形」

 刀を手に取り、三人で研究施設の敷地内に潜り込んだ。

 思ったより静かだ。研究員は逃げた後なのだろうか……こちらに向かう途中は誰にも遭遇しなかったし、ここまでは手筈通りだろう。

 能力を使って、三人とも姿を消したまま正面玄関に向かった。自分自身が動くと、生物に対しては姿を消す能力が維持出来ない為、ローラースケートを履き、菜摘に手を引っ張られながら三人で手を繋ぎながら近づいた。

 辺りは特に不審な所はない……このまま、正面玄関を入って直ぐ左か右に曲がって……

 施設の中をイメージしていると、突然耳を破裂させるような音が弾ける。これは遠くではない……何が起きたか理解するより早く、目の前の視界が煙に奪われ、体は高温の熱に包まれーー

 飛んだ意識の中、微かに見えた景色は玄関を開けた瞬間、爆発に呑まれた光景だった。

 死んだ?

 この痛み……ああ、死んだらこんな感じかな。でも、訓練しただけあるな。意識がある。痛みが無くなっていく。

 体は恐怖に支配されながらも、爆発に吹き飛ばされる最中、爆発で負った怪我をルナの力で反射的に癒していた。

 何故? 不可解な事に頭を使いそうになるが、姿が見えるようになってしまったのと、菜摘と朔馬がバラバラに飛ばされたのに気づく……と、聞きなれない声。

「おいおい、情報は本物か……さて、と……どっちの女が姿を消せるんだ?」

 目の前に身の丈を超える鎌。

 その迫力を押し付けながら、男は眼光を飛ばしてくる。

 大島 美斗。

 男という事は、残像を具現化する能力。

 鎌男は考えている暇も与えず私を狙い、鎌を振り下ろしてきたーー間一髪で避けたものの態勢が悪い。

 ヤバい! 次は避けきれない!

 次の斬撃が繰り出されるも、靴のローラーをしまって立ち上がる前にーー鎌が向かってくる。

「空! 早く立て!」

 振りかぶられた鎌は頭上を滑空するよう外れていた。朔馬が何かした? とにかくこの隙に距離を取り、様子を伺うと朔馬が能力を使い小太刀を宙で操り大島を襲っていた。

 助かった! 朔馬ナイス! 襲ってくる前に刀を抜いて防げるようにしないとーー

 刀に能力を使い握りしめた。一瞬闘うか悩んだけど、臆したらやられる気がした。

「っああ!」

 朔馬は背中にしまう10本の小太刀の内4本抜き、振るう小太刀と飛ばしている小太刀の遠距離攻撃を合わせたコンビネーションで攻めている。たが、見ていてあまり優勢じゃない。

 鎌の残像が盾となり剣となる。

「くそっ!」

 小太刀を振るいながら、三本の斬撃を繰り出しているが、決定打が当たらない。

 しかも、相手は能力を使いながら、負った傷を癒すが、朔馬はどんどん傷を負うだけで癒せてない。

 これが経験の差なのか……

 わたしが加勢しないと朔馬がやられる……菜摘は銃を構えているが、撃ってもどっちに当たるか分からない状態だ。

 タイミングを見つけないと……死角から……

「やぁああ!」

 丁度死角から狙う小太刀の後に続いた。

 気合いを入れたわたしの一太刀は鎌男を切り裂いた。

 でも、浅い。だけど、次は……腕! まずは能力を奪う!

「てめぇ! 邪魔だ!」

 罵倒され、少し身体が強張った気がする。でも、わたしもやられまいと必死なのだ。一心不乱に剣を振り回す。

「っつ! ちぃいい! なんだよ、それはぁああ!」

 見事にわたしの刀が当たる。連続で。

 鎌男は何が起きているか分からないという様子だった。さながら、カマイタチに切り刻まれている感じだろう。

 わたしの振るう刀は見えないのだ。能力は物にも勿論有効だ。しかも物ならわたしは動ける。

 朔馬も上手くわたしの動きに合わせ、追撃する。これなら弱点の腕を切り落とせる。そうすれば残像が使えない。

 来た! この隙ならーー

「見えねぇんならっああ!」

 鬼気迫る怒号と共にわたしが振り下ろす瞬間、男は回った。

 コマのように鋭く鎌も回る。

「ぎゃっ!」

 赤いコマがわたしを引きちぎった。

 一瞬だった。ぼとりと地面に落ち、カランカランと刀が地面に転がる。

 激痛が走ると共に肘から先が引きちぎられていた。

 痛い痛い痛い痛い痛い! 痛ったい!

 ーーダ、ダメだ! ちがっ……

 痛みに構ってちゃ。

 回転を終えた大島が睨みを利かす。

「空!」

 朔馬が次の攻撃を仕掛ける大島に飛び込んで、切り落とされたわたしの腕を拾った。

 一つ投げ、後、一つを投げようとするーー

「ぐああっ!」

 投げる事が出来ず、朔馬も切り落とされた。

 右手を失い、次はダメだと思った瞬間、銃声が鳴り響く。

 菜摘だ。

 その隙をついて、朔馬は能力でわたしの腕を菜摘の足元へ飛ばした。

 ダメだ……やばい。痛みが尋常じゃない。それなのに……

 朔馬は右手を失ってるのに、隙をついたあと斬り合ってるーーしかも、小太刀を五本操れるようになってる。

「空! 早く腕を出して!」

 菜摘の所へいって切り落とされた腕を切り口に合わせてもらった。これでルナの力で再生出来るが時間がかかる。

 まずは姿を消す事に集中した。

 菜摘と一緒に姿を消すと、追撃も考え少し今いた位置から場所を変えた。腕が繋がってきたのを感じると、なんとか痛みが引いてきて少し考えられるようになってきた。

 ーーそうだ、朔馬は?

 なんて精神力なんだ。腕を引きちぎられながらも逆に押し始めている。大島は残りの腕を狙っているようだが、少しも当たらない。というか……

 これは朔馬が少し勝ってるように見える。

 段々慣れてきたのか、腕以外の傷は切られても直ぐ治っている。しかも、今は小太刀を7本操っている。たしか調子よくても5本しか操れないのに火事場の馬鹿力ってやつ?

 後は腕を拾って再生できれば……

 わたしももうちょっとで治りそうだから踏ん張って!

 …………え?

 ーー何?

 やばくない……? 今、何が起こったの?

 血?

 赤い火の粉のような血のフラッシュで目が眩む……

 朔馬?

 朔馬……やられたの?

 ーーいや、違う。大島の血だ。

「だぁあああああ!」

 痛みに逆らうように叫んでいる。

 あの血は朔馬がやったのではなく、自分で切り裂いていた。朔馬は驚きもあっただろうけど、それよりほんの少しの時間、視界を奪われ怯んだ。

 その隙が大島に取って十分の時間だった。

 小刀を抜き、地面に落とした。

 連鎖するよう、残像を実体化させ、何度も地面を突き刺す。

 その刃の先は朔馬の腕を突き刺し続け、ボロボロに使い物に出来なくした。

 ーー腕の再生を奪われてしまった。

 マズイ、これは朔馬の左手を奪われたら能力が使えなくなってしまう。

「空、まだなの? 朔馬あれだとヤバイんじゃ……」

 わたしの能力から離れ、菜摘は銃で援護しながら訴えかける。もう少しなんだけど、やはり大怪我は時間がかかるみたいだ。

 朔馬も少しづつ血を失い、動きが悪くなってきてる。

「菜摘、待たせてごめん! 突っ込むから手を貸して!」

 合図してまずは靴のローラーを用意し、すぐに能力で姿を消した。わたしの手を握った菜摘は大島目掛けて投げ、わたしを滑らせた。

 わたしは見えない弾丸のように大島目掛けて滑っていく。

 よし、いい感じ。

 刀を前に突き出し、勢いよく突っ込む。

「があああああっ!」

 大島は気づけず、身体を貫かれながら吹っ飛ぶ。すぐさまわたしは追撃を狙い、ローラーをしまって見えない刀を振るう。

 よし、今度も押してる。何とか、再生力を超えて斬り刻まないと。

 ーー何? ……これ?

 この人……なんなの? ダメだ。

 ズタボロで

 血塗れで

 肉がむき出し

 皮膚が剥がれ

 それでも……

 再生を超えられない……

 こっちがおかしくなりそうだ。

 斬っても、斬っても、向こうも小太刀で切り返してくる。

 止めてよ……吐きそうだ。

 頭が狂ってしまう。

「がっ!」

 ーーしまった! 今のはまともに……

 ヤバイ! マズイ……態勢を整えられ……

 集中しなくちゃ……これは死ぬか生きるかの……戦いだ。

 朔馬も腕の血を止め、二人がかりで大島を攻めてるけど、こっちが不利になってる。

 宙に舞う小太刀が減ってる……3本か……しかも、私の剣が防がれている……当たら……ない。

「おいおい、どうした! どうした! 動きが鈍いぞ! 見えない刀も意味ねえな!」

 弾かれる! 嘘、見えてるの? ちがっ、動きが単純で見切られてるんだ。

「さぁ、しまいだ!」

 片手にもつ小太刀を投げ捨て、大島は両の手で大鎌を豪快に振り回す。

 回転が凄まじく、取り付いていたわたし達は引き剥がされ態勢を崩した。

 その瞬間、肉片が飛び跳ねた。

「朔馬ぁっっ!」

 菜摘の叫ぶ声が聞こえる。わたしは反撃し、突っ込むも蹴り飛ばされた。

 朔馬の右手も左手も血まみれでさきがない。あの攻撃で左手も引きちぎられた。左も失い、剣を振るうことが出来ない。

 だけど、そんな状態なのに朔馬の目の前には鎌を振りかぶる大島が……振り下ろす。

 鎌は鋭く朔馬を……

 串刺しに……

 そして、大きな金属音が鳴り響く。

 乾いた音が耳をつん裂くーー「遅くなったな」

「おいでなすったか」

 大島の鎌を弾き、刀を向けている男の姿。

 ぽつりと朔馬に詫びている。

 そう、朔馬は助かった。

「さて、君の残像を超えないとな」

 言うより早く、激しい金属音が鳴り響く。その打ち合いはわたし達の比じゃなかった。斬撃の速さが恐ろしい。全く見えない。

 その速さが鎌の振るう力も弾き返し、残像の隙間を掻い潜る。

 大島の体はみるみる刻まれていく。ただの一太刀の刀で……

 残像の盾も物ともしない圧倒的なスピード。その業の主は知る限りただ一人だ。

 遥郷勇。

「空っ! 来いっ!」

 わたしはその声に反応し、靴のローラーを用意する。遥郷さんの後ろに回り背中をつかんだ。

 遥郷さんが消えた瞬間、大島は大きく距離を取るが、遥郷さんはわたしがしがみつくのも関係なく一気に距離を詰める。

「くっそ、あんたが見えないのは反則だろっ!」

 攻撃の手段を捨てても防ぐ術も無く、切られる方向にただ無駄に鎌を振り回している。

 しかし残像もあり、簡単には刃が通らない。だが、すぐに反応しまた別の方向から斬りこむ。

 その繰り返し。

 やがて大島の体から赤い光が現れる。

 ルナの消耗に気付いた大島は斬り刻まれながらも腰に手をかけた。

 何? ーー何かが落ちた?

「目を閉じろ!」

 ーー目の前に閃光が放たれた。

 そして、連続で轟音が鳴り響く。

 フラッシュバン? ……か。

 残像で幾つも具現化したのか、耳が使い物にならなくなるまで轟音とまぶしい光に包まれた。轟音が鳴り止むまで時間を思ったより奪われてしまった。

「逃げたようだな……」

 辺りを見渡すも、やはりわたし達以外の姿はない。警戒をしながらも聞こえなくなった耳の回復に集中した。

「大丈夫ですか? 遥郷さん……」

 すごく間が空き、何度か声をかけると、口の動きに気付いて返したようだった。

「…………耳をやられた。しばらくは何も聞こえない……それより、朔馬は?」

 そうだ、朔馬だ。

 両腕を切られ、ボロボロにやられてしまった。わたしに力がなかったばっかりに……

 朔馬の状態を思い出し辺りを一生懸命見渡した。

 ーーーーいた。

 ……良かった。なんとか大丈夫そうだ。

 その場で腕が使えないので起き上がれないようだが、こっちの声に気づきさきのない片腕を振っている。

 その姿を見て、安堵と自戒の気持ちが湧いてくる。自分たちが助かってホッとしたけど、自分に力がなくて仲間が傷つき、いや死に掛ける所まで追い詰められてしまっている。

 あの時……大島が振り下ろす時……どんなに恐ろしかっただろうか。想像するだけで壊れてしまいそうだ。

 ーー本当に朔馬の力に頼ってしまった。あんなに死にそうになるまで……

 だけど、朔馬は必死に自分の力の限界まで戦い、持ち堪えた。わたしが致命的なダメージを負ったのに、わたしがこうして無事なのも朔馬のおかげだ。

 朔馬には感謝しかない。命の恩人だ。ほんと、皆んな助かって良かった……

 朔馬を見て安心したら、急に酷い倦怠感がのし掛かってきた。命懸けの戦いから解放され、一気に全身の力が抜けてしまった。しばらく動けそうにない。

 そんな様子を見て遥郷さんはまず、朔馬の方へ向かっていった。わたしはただ見てる事しか出来なかった。

 腕を拾い上げ、朔馬の腕と重ね合わせていた。そして、暫く経つと様子を伺い朔馬だけこの場から離れていった。遠くからだから分かりにくかったけど、赤い光がチラッと見えた気がする。恐らくルナを使い過ぎたのだろう。回復も能力ももう、殆ど使えない。撤退したんだ。

 そうだ。限界まで戦ったのだ。小太刀を7本同時に操って戦うなんて今までやった事ない。ルナの消費も凄く早いはずだ。

 たまにルナの感染者を捕まえる時に能力を発現した感染者だった時に戦う事があったけど、そんなの数が少ないし。それに相手も経験が浅かった。今回は経験浅い相手と比べものにならない強敵と戦ったのだ。

 さっき、そんな相手と戦ったんだ。朔馬は渡りあった事が凄すぎる。ただ、わたしもこうすれば良かったとか、あの時油断しなければ腕を切られなかったとか、思ってしまう。そう……あの姿を見ると胸が苦しくなる。

「空、大丈夫? ……苦しい所ある?」

 ふと、声を掛けられ振り向くと、菜摘が心配してくれていた。

 凄く力が抜けてるから、かぶりを振って返事した。とにかく、無事である事だけ体で表すことしか出来なかった。

そんな様子を見た遥郷さんが、告げるのも辛そうに口を開いた。

「……御影、次いけそうか……無理だったら少し作戦を変えないといけない」

そう……まだ終わっていない。敵は後一人いた。

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