一章III 「不安な作戦前」
作戦の決行は明後日から五日後に決行されるとの事だった。何しろ敵がこちらの動きに勘付き始めたらしい。
ミーティングの後、わたしは恐怖で胸の鼓動が高まり、落ち着かせる為、支部の近くの公園で風に当たっていた。わたしも能力者だから簡単に死なないけど、殺されないとは限らない。
能力者……
しかも、戦い慣れしてる相手だから、余計に恐怖を感じる。これが、生き物の本能的な恐怖……かもしれない。
「………………ってば…………おおぉぉぉいっ! 空ってば!」
「きゃあああ!」
びっくりした! 何! 誰!
後ろを見ると、見慣れた顔だったが、充だったら一生喋らない事を誓う所だった。
「ーーちょっ、朔馬? 脅かさないでよ。こんなイタズラする人と思ってなかったよ」
「……ご、ごめん。何度、呼んでも気づかなかったもので。少し配慮に欠けてたな」
わたしが深く息を吐いて落ち着こうとしていると「あまりに考えこんでいたから気になったんだ」と朔馬は探していたと言う。
「ほら、心配だったんだ。初めての能力者相手の任務があまりにも危険な内容だったから…………何か、励ませないかと思って」
「……やっぱ凄いね、朔馬は…………わたしを心配する程落ち着けるなんて」
そう言うと、朔馬は悄然と顔を俯かせ「……そんなことないさ。俺だって恐い。だから、心配だったんだ」
そっか、少し悪い事を言った気持ちになるな。嫌味のつもりじゃないんだけど、戦闘向きの能力に対して、授かった天性を妬んだような言い方みたいだったし。
でも、朔馬はそんな風に思わないか。
「……俺も恐いからさ。なんか紛らわせられないかって考えてさ…………で、チャンスに思うようにしたんだ。この作戦に参加する事になって成功すれば、特務に認められるのがグッと早くなるんじゃないかって思ってさ」
「……確かにそうかもね、結構な貢献にはなるよね」
「だよな! 空だって過激派に目を付けられてるとは言え、遥郷さん達が何とかするって言ってたし、重要な能力とも言ってただろ。これは絶対チャンスなんだって!」
「え、ええ……チャンスかもしれないね…………」
本当にそうかもしれない。
だけど、このテンションに少しついていけなかった。
普段は少しクールなイメージなんだけど、やっぱり平常心ではいられないんだろう……無理した空元気に見える。でも、恐怖に打ち勝とうとしてるのに邪魔はしちゃいけないな。
「だね。絶対そうだよ。朔馬になら出来るよ」
「馬鹿! 空にも出来るって」
「え! いやいや、ないない!」
「いやいや、あるある」
「……無理だって」
「無理じゃないって……二人で頑張ろうぜ。遥郷さんもいるし、何かあったら俺が空を守るし」
「え?」
なんか、しれっとカッコいい事言われた気がする……
誰を守るって? わたし?
ーーと、何か戸惑いながらも表情は恥ずかしげもなく。
「ん…………あ、うーんと、そういう下心はないから……ほら、空の事は知ってるし」
「知ってるって何?」なんか、そんなハッキリ言われると嫌だな。意識した事なかったのに、思わせぶり……みたいな感じにしてさ。
「……言いにくいけど、ほら…………えと、あ、あれだろ…………空ってブラコンだろ」
「はぁ? まっ! そそそ、そんな事ないから!」
「え、いや、言いにくいけど…………相当ブラコンだと思うぞ」
「な、言いにくいならストレートに言うな! それにブラコンじゃないから!」
「そっか…………悪かった。ーーでも、あれだろ?」
「そうだ。悪すぎるのだ! ってあれって何?」
「ほら、いつも見てるし…………あ、いやこれは止めとく。これは無粋だわ」
「え、何? なんなのか、気になるよ! 悪口じゃ無かったら許すから言ってよ」
「いや、悪口じゃないなら…………いや、やっぱ止めとく」
それから、朔馬はこの後の任務や寮に帰ってもあれについては話してくれ無かった。