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Luna・Dread ~虚手の騎士~  作者: 十立 章
一章 瞳に映るは嵐の爪痕
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一章Ⅰ 「睦まじい兄妹」

 空は気づいたら弟の話をしていた。

 空は菜摘と一緒に菜摘の兄、溝崎知和がウイルスの発症をしてないか様子を見に来ていたのだが、悪い癖が出た。


 知和が空に弟の話を聞かせてくれないかと言ったのが発端だった。最初は最近の状況を話し、その内に共通の話題である姉弟の話をした後の流れだった。


 知和はコミュニケーションの入りとして話題を振ったが、今はどうしているのかと聞くと空は弟が捕まってる話、そこからは捕まる時までのいろんな話まで続けてしまった。知和は空に対して辛い思い出を聞いてしまって失敗だと思っていた。


「ーーえっと……ごめんなさい。暗い話をしてしまって」

「いや、こっちこそ申し訳ない。気が利かなくって」


 うーん、つい話しちゃった……暗くなっちゃったな。

 境遇が似てるから、つい話しちゃう……そんなに気にしなくていいんだけどな。とにかく話題を変えて明るくしよう……


「そんな暗い顔しなくていいよ。どちらかと言うとそういうの話すのは、気にしない方だって言ってたし。ねえ?」

「うん。気にしないで下さいね」


 なっちゃんナイスだ。

 これで、知和さんもちょっと安心したみたい……かな?


「俺達は急に政府の奴らが押しかけて来て菜摘を連れて行かれたから、それより辛い事なんて頭になかったよ。でも、同じ境遇だったら俺も御影さんの様にするだろうな」

 ちょっと苦笑いをしながら知和さんは自分たちの事を話すと、横に並んでいるサングラスの女性がちょっかいを出した。


「まぁ、シスコンのあなたは絶対やるでしょうね。というか、急に来られた割に菜摘ちゃんが捕まるのに時間がかかったって自慢してなかったっけ」

「お、おい! わざわざシスコンとか言わなくて良いんじゃないか? 悪い印象を与えないでくれ」

「えぇー? うそだぁー。シスコンとか悪い印象持ってない癖に。それにすぐだだ漏れるから否定とかしても無駄だよ」

「だだ漏れるってなんだよ! 更に悪い印象付けるな!」


 ケラケラ笑いながらサングラスの女性は笑っている。知和さんはなっちゃんに目を合わせて否定しないか様子を見たが愛想笑いで返された。そして、次にわたしへ草食動物のように弱々しく見てくる。


 うーん、こっちに困った顔で見られても困るんだが。違うんだ、って顔されても……

 それにしても、このサングラスの人は誰だろう。というか少し怪しいし、怖いし。家の中なのに帽子まで被ってるもん。ツバが長いからサングラスがより不気味だ。


「で、兄さん。その女の人は誰?」

えー、と言って答えかける知和にサングラスの女性が割って入った。


「彼女」


 ぶっ、と吹く知和さんに一瞬なっちゃんが睨んだ気がする。というのは、気のせいだろうか……今は微笑んでいる。


「そ、そそっかぁ……兄さんに彼女が居たって不思議じゃな、なないしね。それは良いことだ」

「あれれー?  もしかして動揺してない? それともヤキモチ妬いてるのん?」


「動揺してないし」

「いや待て、この人は彼女じゃないし」


「動揺してないし」

 え? なんだろう。この触れてはいけない感じ。動揺してると言いたいけど……


「まーま、安心してよ。お兄ちゃんは取らないからさ。あたしには好きな人がいるからさー」

「な! 取るとか取られるとか関係ないですし。そんなの好きにして下さい」


「じゃ、キスでもする? チワワくん」

 と言って、知和さんの顎をくいっと持った。

「はぁ! 何言ってんの? 人前で。あなた軽すぎでしょ!」

「やぁやぁ、ムキになってぇー本気にしたの?」

「な、人をからかわないで下さい!」


「ーーあのさ、首が痛いんだけど」

 うん、それはやりすぎ。顎に添えるというか、顎を持ち上げ過ぎて痛いでしょ。喧嘩を売っているみたい。


「ごめん、ごめーん。ーーで、あたしのことだっけ? 改めて自己紹介するよ。あたしは『林まなこ』こんな感じだけど、仲良くしてくれると嬉しいな」

 わたしは笑顔で返したけど、流石になっちゃんは明らかに顔が引きつった愛想笑いだ。無理もないね。


「まぁ、悪い奴じゃないから。ちょっと、お調子者だけど仲良くやってほしい」

 そうしてわたし達二人を見るけど、なっちゃんはそっぽを向いて無視をしている。明らかに知和さんはしょんぼりしている。


 そもそも、なっちゃんが決められた時にしか来れないのに、なんで女の人を呼んでいるのだろう。会える回数が少ないのに。


「林さんは今日、知和さんに呼ばれて来たんですか?」

「いやぁ、来る時間まで居たんだけど、妹が来るから出て欲しいって言うからさー。嫌って言ったの。だってぇ見てみたいじゃん? 可愛い妹さんを」


 キッと鋭くなっちゃんが知和さんを睨む。更にしょんぼりしていて見ているのも辛い。それになっちゃんはもう林さんに隠すつもりはないらしい。愛想を取り繕わないし、もうこの人は嫌われたな。


「まぁまぁ、仕方ないよ。可愛い妹に会ってみたいて言われたら、わたしだって良いかなって思うよ。わたしの弟が良いように言われたりしたら、って思うとね。二人になりたかったんだろうけど、そんな顔しないで、ね?」

「--菜摘、ごめんな。勝手な事して」


 わたしには頷いてくれたけど、相変わらず知和さんには厳しい。軽く返事はしても素っ気ない。目も合わせないし。怒ってるなぁ……多分。


「ふーん、じゃあそろそろあたしが余計な事言っちゃうし、出て行ってあげる。ーーそうだな、一人じゃつまらないし空って子も一緒に来てくれない?」


「……へぇ?」


 急に林さんが誘うから素っ頓狂な声が出てしまった。二人きりにしようとする計らいなのは分かるけど、まさかこのタイミングなの? ……う、林さんがサングラスをずらしながらウィンクしてくる……それ、しょぼしょぼして上手く出来てないし……


 元々は二人で過ごす時間は作ってあげたかったけど……うん、まぁ今断ると出るタイミングなくなりそうだから行こうかな……でも、大丈夫かな…………?

 ただ、実際サングラスの人と一緒になると怖い訳で、別々に出た方が良かったと後悔した。 公園に行くと誘われ、言われるがままついて行く。それに話しかけづらい風貌なので、あまり会話をせず公園に向かった。


 うーん、でも残ったら残ったで出て行くタイミングなくなりそう……な気はするんだよね。今となってはどうしようもないけど。

「ねぇ、あなたもこっち来なよ」


 公園に着くと林さんはジャングルジムの頂上をあっという間に登っていた。被っていたキャップとサングラスを上からわたしの足元に投げ捨ててくると「あ〜すっきりーーー! 疲れたわぁー」と大きなため息のような声を出した。


 すっごく気持ち良さそう。

 ーーでも、素顔を見ると綺麗な人だな……


 ちょっとドキッとする……仁王立ちする様が絵になるし。さっきまで、怖いのとお調子者のイメージしかなかったからあまりに綺麗でビックリだ。それになんか賢そうな感じがする。わたしより背が高くて綺麗なスタイルをしてるから不思議と賢そうに見える。素顔は見ると少し幼い感じだけど、端麗? って感じかな……整っている。いくつなんだろう。読めないな……

 でも、それより何よりずっと気になっていた。会ってからずっと。


 そう……左手が一番印象的なんだ。


 左手を大事に、大事に、しているかのように包帯がぐるぐる巻きになっている。サングラスをかけてた時は相乗して怖い印象だったけど。


「ーーどうしたの? じっと見て…………あぁ、あの月を見てるの? 赤くて綺麗に光ってるね〜」

 確かに言われた通り目が離れなかった。紅い月と闇夜に浮かぶ彼女の姿は神秘的だった。背中まで届く長い黒髪が風になびき、艶やかさもあり先ほどの怖い雰囲気は嘘のように感じた。


「ねぇ、赤い月なんて今まで白い綺麗な月を見てきたあたし達にとっては不気味よね。あの月で全てが変わった。あなたの弟もウイルスに侵され捕まったし、寿命がウイルスのせいで半分になる訳じゃん。ホント最悪。やっぱあの赤い月を恨むよね?」


「えぇ」と返事と同時に表情が強張っていく。赤い月のせいで家族は崩壊し弟を実験台にされたその辛さが蘇ってくる。


 赤い月。


 月が赤くなってから、未知のウイルスに世界は侵された。ルナウイルスと呼ばれ、発症した者のほとんどは日光を浴びると身を焼かれるような苦しみに襲われ、やがて40〜50代になると死んでしまう病気だ。50代を超えた人が発症すると、早くて2.3年で死んでしまうという恐怖のウイルス。しかし、すでに地球上のどこでもすぐに見つかるウイルスとなり、人類を脅かしている。そして、このウイルスは独特な特徴があり、現在の発症リスクは0.0001%の確率で発症するらしく、免疫力の低さや合併症などの因果関係がなく、因子的によるもので発症すると結論付けられ、発症者は限られているとされている。


 ここまで分かっていながら、現在はその発症因子の特定はおろか予防や完治方法は確立しておらず、不治の病となっている。


「あなたは弟を実験台にされて正直まともな精神でいられるのは難しいと思う。想像を絶する苦しみを抱えていると思う。それでいてあなたもルナウイルスを発症しているのでしょう? 菜摘ちゃんと一緒にいるってことは」


 弟が実験台になっている事を知っている……うーん、どうしてだろう?

 自分がルナウイルス感染者って事は話してはいけない。


 ましてや、なっちゃんが話すこともないと思う。知和さんが知っている事を話したかもしれない。いつ発症するか、観察されている身だから一般人より知っている事はある。


 それとも、一般的には隔離されることは常識だから、噂で実験台にされている話しはよく聞く。噂を鵜呑みにして……かな? 実際はそうなのだが、やはり誰も話さないよう努めてはいる。だけど、わたしと弟の違いは少しでもわたしたち姉弟の話をすれば、推測できてしまう……それで弟が実験台になってるって言ったのだろうか? ーーなんか変に引っかかるな……


「それは……答えにくい質問ですね。わたし達は政府にルナウイルスについて話さないように言われていますから。一般常識でさえも……すみません」

「そう、まぁいいや」


 非人道的な扱いを政府がしている。

 そう不審に思われることに、皆、神経を使っているのだ。

 わたしは数少ない日光を浴びても平気な感染者。政府はその人間がルナウイルスを撲滅する大事なサンプルだとして徹底的に管理をしている。だから、中には優遇されるものがいれば、非人道的な扱いを受ける者もいる。


 その事実を知られないよう、実験を繰り返し、ルナウイルスのワクチンを開発している。それは仕方の無い事なんだろう。と、割り切るしかない。

 ルナ感染者の中には致死的な怪我さえ治す驚異的な回復力があり日中では焼かれるような苦しみに遭うことはない。政府はその性質を利用しようとしているが、上手くいかない。


 それどころか、寿命を驚異的に縮めてしまうデメリットをどうにも出来ず、予防策ほどではないが、発症者を隔離する政策をして、名目上として拡散を防ぐ、その政策を行い結果として国民を安心させる事しか出来なかった。


 だから、わたしも弟も状況は違うけど、政府に監視されている。隔離する事は徹底的だが、その理由が驚異的な回復能力だけではない……政府は厳密に感染者を隔離するよう政策を行い、情報も操作している。

「でもさ」と少し会話に間が空いたころに林さんが口を開く。ジャングルジムの上で足をブラブラさせながら、夜空を見上げた。


「政府のウイルス担当者は大変なんじゃない? そういう仕事をしてるんでしょ? ……ってそれも答えられない、か…… まぁ、こんなの言うのは悪いけど、感染者なら楽な人生じゃないだろうね。政府が政府だし」


 陽気に足を振っているのは変わらない。声のトーンも暗くなく、いつもの感じだ。とはいえこの人のいつものトーンはどちらかというと明るい。だから、少しは落として喋れないものかと思う。本当に悪気がないつもり?


「でさ、上に来てくれないの? 寂しいなぁー」

 ポンポンと座っている横のジャングルジムの鉄棒を叩いている。


「え、いや……いかないです。恥ずかしいですし」

「え? 何、あたし痛い子ってわけー?」

「あ、そうじゃないです……すみません。…………わたしがシャイなだけなんで」


「じゃあ、今から克服するってことで! 来て欲しぃーなぁー」

「だから、嫌ですって。頼まれてもいかないです」


 友達とか仲が良くて和気あいあいと話す感じなら、登ったかもしれないが、この歳では少し抵抗を感じてしまう。ましては自由奔放で人の目を気にしない人と横にいて、挙句高いところにいては人の目が集まるだろうし、嫌だ。今は公園に誰もいないけどそういう問題じゃない。


「むぅ」と言って頬を膨らませると「おりゃー」と急に叫んだ。

 と同時にドン、とわたしの横で土煙をあげて落ちてきた。


「いじわるだねー。ちょっとは仲良くしてよー」

 なんだこの人は。急に人懐っこく接してくるし。や、やめろー! めっちゃほおずりしてくるぅー!


「そんな嫌な顔しないでよー眉間にしわ寄せるほどじゃないでしょー」

「やめて下さいー! くすぐったいですからー!」

「あ・ば・れ・る・なーーー! 大人しくあたしにすりすりさせろー!」


 意外と力が強い。もう諦めた。もう好きなだけ頬ずりするがいい。身が削れようが焼かれようが、もういい……てか、本当に燃えるんじゃないか。熱い。だけど、この人すごい良い笑顔してるな。気持ち悪い。


「て! あっつい!」


「いや、それわたしのセリフです!」

「……まぁまぁ。ーーそれじゃあたしの気が済んだし、もう帰っちゃう? まだそんな時間立ってないかな?」


「……え、えぇ。もう少し時間潰したほうがいいかもしれないですね」

 はあー、なんてことを言ってしまったんだ。いや、もう少しあの二人を一緒にさせてあげたいけど。この人といるのはもう疲れた。


「じゃ、少し体でも動かそうかな。なんかなまって気持ち悪いし。付き合って……「わないです」ないか……それにしても即答はひどいよぉ。ちょっとぐらいはさ……ね?」

「ね? じゃないですよ。嫌です。しないです」


「ちぇー」と言いながら、とぼとぼ歩いていたが、急にスイッチが入り雲梯やら鉄棒やらで子供の遊び方とは違うアクロバティックな使い方をしていた。鉄棒の上で側転してる……体操選手かよ。

 しばらくは林選手の公園での演技を見ることになったのだった。




 林と空の計らいで溝崎兄妹は大切な時間を過ごすが、知和は色々苦しかった日の事を思い出していた。ただ、空と一緒にいた菜摘の様子を見て、少し安心していた。


「あの時より元気になって良かった。本当何もしてやれずにごめんな」

「もう……謝らないでよ。いつも同じ事ばっかり言うし。私はお兄ちゃんがこうしていつまでも健康で居てくれるだけで嬉しいんだから。それに……」


 少し言い淀んで続けた。目線を合わせて話をするのが少し心痛むようだった。


「すごく心配かけたと思う。再開した時はほら私……荒んでいて……あの時は生きられるかどうか、実験台にさせられるかも知れない恐怖で押し潰されそうだったから」


 いつも知和は菜摘の辛い環境に心を痛めていた。妹の本音を聞いて、いつも優しい表情がより一層柔らかになる。


「何を今更……苦しい時は八つ当たりだったりなんだったりしろよ。妹なんだし。それで今日は謝りに来ただけ? 辛い事があったら何でも話せよ」


「……いやなんかね。急に謝りたくなっただけ……ありがとう。それに心配しなくても、今は仲間や同期の人に励まされて上手くやってるよ。ほんと、悪運は強いみたい」

「そっか、それは良かった。ーー同期って御影さん以外にいるのか?」


「いるよ。具体的な人数とか、名前は言えないけど」

「その中に男はいるのか」

 さっきの優しい笑顔が消え真顔で聞いている。殺意の様なものがにじみ出ているのを菜摘は感じ、面倒に思った。


「ーーまぁ、もちろんいる。でも、特別な人とかいないから」

「お、おう……」

 聞こうとした事を先に言われ戸惑うも、安心した様子で嬉しそうにする知和。菜摘は兄がすぐ心配する事を分かっていた。


「それにしても、そろそろ妹離れしないとさっきのサングラスの人と良い関係に慣れないよ」

「い、妹離れって……ふ、これが普通だよ。それにあの馬鹿は絶対ないよ」

「へぇーそうなんだ……サングラス着けてたからハッキリ分からないけど、結構キレイで良い人と思ったんだけどね」


「まぁ、美人なのは否定しないが……俺はあういうタイプはな…………それに……」

 と言いかけたが、失言と思い黙り込んだ。菜摘の表情が何となく怒っているとも取れる。さっきは、何もない事を林が喋っていたが、気になった菜摘が鎌をかけてきたように感じた。


「この事は本人に聞いてくれ。俺との進展は無いって言う理由ぐらいは教えてくれるよ」

 目が笑ってない表情の菜摘を見た知和は目を逸らすしかなかった。正面以外を見ていると突然組んでいた足に痛みが走った。それになんか重みがある。不思議に思って足を見るとその上に菜摘の頭があった。


「ーーお、おま、どうしたんだよ」

「うるさい」

「って! いてて! 痛いって!」

 菜摘は兄の組んでいる足に自分の後頭部をごりごりこすりつけていた。


「かわいい妹が兄にじゃれているんだから、喜びながらおとなしくしてろ」

「骨を狙われておとなしく出来るか! 痛てぇっつうの!」


「……仕方ないな」と言い、体の向きを変え、顔を腹に引っ付け抱きついた。

「これなら文句ない……?」


「ちょー嬉しいぜ! 嬉しくてキュン死しちゃうん☆」

 その声を聞き、ガバッと起き上がる。菜摘の鼓動がマックスビートで動き出す。


「ハロー! まなこ様のおかえりだぜ!」

「な、なななななn……い、いつの間に! いつから!」


「昨日から」


「じゃないだろ! て、昨日からいたの? って、そうじゃなくていつ戻ったの!」

「謝ってたから出てくるタイミング難しかったよ。ま、われながらベストなタイミングで出てこれたけど」


「な、ななな、その何も見てないですよね?  ……はっ! これは兄のセクハラです!」

「動揺しすぎて言ってる事むちゃくちゃだねぇ……ばっちりラブラブしてたの見たし」

「ちょ、ま、ちが……ラブラブ言うな! はぁ…………恥ずかしくて死にそう」

 深いため息をつくも、まだ胸の高鳴りが止まない。そして、また急にスピードが上がる。


「くーちゃんもまさかここにいるの!」

「くーちゃん? 空って子の事? 空ぁああー。呼んでるよー」


「て、呼ぶな! 来てないならそれでいいんだよ!」

 顔が赤く、高揚している菜摘を見てまなこは楽しんでいる。

溜息交じりに「……お、お願いします。この事は空にも誰にも言わないで下さい」


「分かってますよ。ブラコンさん。何の為に空っちを外で待たせてるか」

「な、ブ、ブラコン言うな! 間違ってないけど、誰にも言うな! は、ちがっ、シスコンだ。兄が! 兄、兄!」

「間違いないのか。へぇー」

 菜摘は顔を赤らめ、兄の首を締めている。強烈な照れ隠しにもう何も声を発さず、知和は受け止めている。


「とりあえず、ラブラブ兄妹を隠したいなら普通にしてなよ。……あれ? なんか、声がしない?」

「林さーん、やっぱり入っちゃだめなのー?」


 遠くから声がすると、「は」とか「はぎゃ」とか言ったのか変な声が漏れ、同時に鈍い音と息の根が止むような声があがった。

「証拠は消した……来てもいいよー」


「いや、消す必要ないじゃん……」

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