小話
※このページにはもともと「登場人物紹介(五十音順)」が置いてあったのですが、先ほど初めて割り込み転送機能とやらに気づいたので人物紹介は第一話分として差し替えさせて頂きました。
となるとこちらの頁は重複になってしまいますので削除しようと思ったら運営サイドの「ちょ、消すなよ……!サーバに負担がかかるんだからぜったいに消すなよ……!」と い う 圧 が す ご い ( 真 顔 )
根っからの小心者なので削除はせずに内容を編集して駄文を投下することにしましたが、もともと書くつもりもなかった蛇足ですので読まれなくても展開に支障はございません。
時系列的にはたぶん4章の終盤から5章の頭らへん。
ある日の昼下がり。初夏の爽やかな日差しが入り込むグレイル家の温室で、ランドルフ・アルスターは婚約者と長閑にお茶を嗜んでいた。
と言ってもその場に会話はほとんどない。女性の扱いに長けたカイル・ヒューズと違いランドルフは気の利いた会話ひとつできないし、一回りほど年の離れた便宜上の婚約者にしても大抵はおどおどとこちらの様子を伺ってくるだけである。
婚約者の名はコンスタンス・グレイル。榛の髪に若草色の瞳。どこにでもいるような平凡な少女。けれど―――
◇◇◇
「え!?」
ふいに静寂を破る素っ頓狂な声がしたので、ランドルフは陶器の茶器の縁から口を離し、目の前の婚約者に視線を向けた。
「まさか……そんな……!」
コンスタンス・グレイルは、何故か斜め上辺りの何もない空間に目を向けたまま、見る見るうちに青褪めていく。
ランドルフが首を傾げて成り行きを見守っていると、溌剌とした緑の双眸がかっと見開かれた。
「閣下!」
「どうした」
その勢いにわずかに仰け反れば、コンスタンスは至って真面目な表情でこう訊いてきた。
「ジョン・ドゥ伯爵の肖像画は日に日にその生え際が薄くなっていくという話は本当ですか……!」
「嘘だな」
むしろなぜそれが事実だと思ったのか知りたい。
そう答えた瞬間、コンスタンス・グレイルの瞳が愕然と見開かれた。そして、すぐさま恨めしそうに虚空をじっとりと睨みつけると、「嘘つきは泥棒の始まりなんですけどー!?」と詰め寄り出した。
その様子をランドルフが何の気もなしに眺めていれば、コンスタンスは誰もいない壁に向かって、「ん?」「……んん?」「いや、だ、だって、そんなの―――」と会話を繰り広げ、目に見えて狼狽えていく。果敢にも何度か言い返していたようだが、結局言い負かされてしまったらしく、最終的にしょんぼりと肩を落としてしまっていた。その傍らで悪女のように笑う誰かさんの姿が目に浮かぶ。
しばらく不貞腐れながら紅茶を啜っていた少女だったが、ふいに視線を上げると何かに耳を傾けるような仕草を見せた。懐疑的な視線が次第に「うん?」と和らいでいき、ふむふむ、と何度か頷く。
そしてそのまま―――弾けるような笑い声を上げた。
ランドルフは、思わず、目を瞬かせる。
コンスタンス・グレイルは、ぱっと顔を輝かせながら、また勢い込んで口を開いてきた。
「閣下!知ってましたか、実は―――!」
―――くるくると目まぐるしく輝きを変える若草色の大きな瞳。
その一生懸命な表情に、何故だかわからないが大声で笑い出したくなるような気持ちが湧きあがってきて―――死神閣下は困ったようにその眉尻をわずかに下げた。




