柊 桃
始めまして、貧弱駄眼鏡です。
風邪をすぐ引きます。
以上です。
感情のない冷たい石の壁の感触を背中に感じ、薄暗いこの空間に未だ理解が追いつかず、僕はただ冷や汗を流した。
「どうなってんだよこれぇ…!!」
だんだん暗闇に目が慣れてきた。格子窓から指す光でぼんやりと見える空間をぐるりと見渡す。す
広さは、平均的な大人が五人横になれる程、むしろ下手なアパートよりも広さはある。
しかし、もちろんドアなんてものは無い。それどころか、唯一月明かりが差し込む窓は高く、鉄格子がハメられていた。嵌め殺しというやつだ。
「まって、まてまてまて…!」
落ち着いた頭で考えをまとめるが、最悪の事態、それも一つしか思いつかない。
________結論から言おう。
こんなに住み心地の悪い空間はぼくのへやではない。ていうか現代日本ではおそらく需要がない。
紛れも無く、ここは、牢獄。
僕はどういう訳か、牢獄にいた。
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その日は、東京の今年一番の暑さと、天気予報のお姉さんが言っていたが、今年一番などと宣ったお姉さんにドロップキックの一つでも見舞ってやりたい。
それもそうだろう。八月半ばの東京の人口密度を嘗めてはいけない。それこそどこかの大佐のように、「ゴミのようだ!!」と叫びたくなるほどの多さ。人ーー人ーー人ーー。
そんな中を直射日光がさす中歩いているのだ、今年一番どころか生まれて初めてなんじゃないかと疑いたいくらい。お日様働きすぎ、ニート見習え。
「いやあづぃぃ…!さすがにこれはしぬぅ…!」
頭がぼわぼわする。これが熱中症という奴なのだろうか。
水分をとっても、汗で全部垂れ流しな気がする。ダメだこれ。
暑さに浮かされた頭でそんなことをおぼろげに思いながら歩いていたら、向かいから来た人とぶつかってしまった。
「いてっ!」
「あっ、す、すみません!前見てなくて…」
いきなり低姿勢で陳謝しながらあわてて見るとそこには、同年代だろう端正な顔立ちをした少年がいた。ここらでは有名な私立校の制服に身を包んでいる。
「あ、いや。こちらも悪かった。…あ、これ、落ちたよ。」
そう言って差し出されたの、紛れもなく僕ーーー柊 桃の学生証だった。
「え、あっ、ありがとう」
「いや、いいんだ。それじゃあ俺は行くよ。」
コミュ症全力展開しながらお礼を言ったのだが、少年はそそくさと人混みの中に紛れて見えなくなった。イケメソはコミュ障とは会話しないのですねわかります。
「は〜あ…。僕もあんだけイケメソだったらニートやってないんだけどなぁ。」
学生証をパーカー(・・・・)のポケットにしまい、イケメソインパクトで減った体力を取り返すべく、目的地へと歩き出す。
僕は、世でいうニートというやつだ。17歳という歳ながら、高校は中退。両親は幼い頃に離婚し、母親に引き取られたものの、海外での仕事が多忙な母はほぼ家にいない。実質一人暮らしのようなものである。
そんな中で、ちょっとしたイジメが起きた。理由はなんてことない、容姿をからかわれて、それがエスカレートしてパシリにされた。イジメっ子達が僕をターゲットにしたのも頷ける。なんせ僕は、母から継いだ猫のような顔つきから、昔から女の子に間違えられるほどだったんだから。
「まぁ、物の見事にニートやってるんだよね、僕…って、だれに向かって話してるんだろ…ハハ…。」
近くを通った親子が、陰オーラ満載のぼくを見せまいと娘さんの目をおおった。チクショウ。
1人でブツブツ呟きながら歩いていた僕は、目的地ーーーー古本屋「ディアボロ」に着いた。いつも思うが、この店名で古本屋とはいかがなものなのかと思う。
店の中に入ると、もはや顔なじみの店主、朝霧湊がいた。
「よぉ桃やん。どーした、そんな死にそうな顔して。」
そう言って、朝霧さんはペットボトルに入った黒い炭酸飲料を差し出した。ありがたく頂戴することにして、喉に流し込む。炭酸が喉で弾けて、体が冷えるのが心地よい。
「そういう湊さんだって、いつもながら強面ですね。お客さん来てるんですか?」
湊さんは、身長180cmとかなり大柄で、本屋とは思えないほど焼けた肌の下には、細マッチョという言葉がふさわしい筋肉が付いている。スキンヘッドでサングラスなのでよく分からないが、年齢は推測で30代後半だろうか。まだまだ現役臭がする、僕が話せる数少ない大人だ。
「うるせぇ、相変わらず赤字だよ。…ところで、今日もクイズ用のの本探しか?若いのに雑学ばっか読んでると、ネクラって言われて彼女できねぇぞー?」
「彼女どころか友達いないんですがねぇ!湊さん分かっててやってますよね!?」
ニヤニヤしながらからかってくるサングラスハゲを指さして突っ込むが、当の本人はニヤニヤしている。野郎…爆ぜてしまえ。
「まぁまぁ。しかし凄いねぇ…その年で学校行ってねぇかと思えば、知識魔って来たもんだ。…てかこの前買っていった服の歴史って、クイズですら出ないだろ…」
「へぇへぇ、どうせ仰る通り僕は知識魔ですよーだ。知識が欲しくてたまりませーんだ。…ていうか、この前買ったのはクトゥルフ神話の本。服の記事はその前だし。」
そう、湊さんの言う通り僕は自他ともに認める知識魔だ。否定はしない。知識と名のつくものなら片端から脳に焼き付けておきたい、という思いが周りには知識魔と思われているのも自覚している。
「空戦、海戦、農業、デザイン、機械、工業、数学、天文…この世界にはまだまだ僕の知らない知識があると思うと、ゾクゾクしますよ!」
「うっへ、こりゃ変態だ。そーんな知識魔変態童貞の桃やんに朗報だ、いーい古本が入ったぞ。」
「童貞って要りました?ねぇ、要りました?」
半泣きになりながら聞いたが、湊さんは店の奥に本を取りに行ってしまった。
古本屋なんてやっているだけあって、湊さんもかなりの知識人だ。どこぞの大学でしかやらないレベルの知識やサバイバル知識も持っているので、今度聞いてみようと前から思っている。
店の奥から、湊さんが戻ってきた。その手にはボロボロになった洋書のようなものを持っている。
「これなんだけどな、いかにも、って感じの古文字で書かれてるんだが、俺には解読出来なくてな。中身も気になるから、桃やんに解読願おうと思ってとっといたんだ。…読めそうか?」
湊さんが聞いてきたが、僕はもう本に夢中だった。
英語やイタリア語など、偏ってはいるもののかなりの国の言語を知っている僕は、こういうジャンルの解読が得意で、なおかつ好きだった。好きだった、のだが…
「なんだよこれ、文法の法則なんてあったもんじゃない…めちゃくちゃで、まるで…まるで崩したパズルみたいじゃないか…!」
それに、ところどころ読めるところだけでも、3カ国後も使われている。それが事典のようなページ数で積み重なっているのだ、とても読めたものではない。
「むぅ…桃やんでも読めないか…。桃やんならひょっとしたら、と思ったんだがなぁ。」
「うぅ、気になる…この厚さでこの複雑な書き方、かなりの情報何じゃないかと思うんだけど…」
やはり、文法に法則性は見つからない。持てる知識のほとんどを使っても、どんな読み方もあと1歩の所でめちゃくちゃになってしまう。
「そうだ、良かったら持って帰っていいぞ。その代わり、結果が分かったら報告、頼んだぞ…!」
サングラス越しの目がキラキラしている。とはいえ、やはり湊さん。落ち着いて読む時間をくれたようだ。
「恩に着ます!…それじゃすみません、借りて帰りますね。」
湊さんと拳を合わせて、僕は炎天下のアスファルトを駆ける。
手にした本の重みは、普段なら毛嫌いする人混みも暑さも、すっかり忘れさせていた。
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東京駅から徒歩で10分ほどの高層マンションの一室が、桃と母が生活する自宅となっていた。4LDKの自宅は、母が海外から買ってきたお土産やテレビなどがあるものの、生活感を感じさせない内装となっていた。
ーーーー桃の、自室を除いては。
桃の部屋は、8畳ほどの広さだ。しかし、天井ほどの本棚が二つとデスクトップPC1台、ベッドが置いてあるので本来の広さを感じられない。
部屋につくなり、デスクの上にスペースをあけ、ボールペンとノートを取り出す。
本を立てるためのスタンドに本をたて、何冊かの参考本を取り出したあと、先ほどの本の一ページ目を開く。
「法則性は…ない。読める言語は…一ページで3カ国語以上。これじゃあ解読は不可能だ…」
そう、本来なら(・・・・)不可能だ。しかし、
「法則性がないなら、不規則に解読すればいい…!」
そう、そこに法則がないというのが法則、膨大な知識をもつ桃にしかできない暴論だが、できれば全てそれでいい。
「一行目、『アラビア語』を、『漢文』の読み方で…二行目は、一行目の画数の合計の素因数分解…、これだけじゃだめだ…これじゃあ文にはならない…!」
考えろ・考えろ…考えろ考えろ考えろ…!!!!
脳が割るほど、詰め込んだ知識を絞り出して考えろ…!
脳裏に浮かぶのは、断片的な知識。
ーーーー暗号法…?
「もしかしてこれ…ワンタイムパッド……?」
ワンタイムパットとは、暗号法の一つで、いわば「使い捨てのパスワード」のようなものだ。乱数を一度で捨て、また意図的に意味の違う文を埋め込むことによって、暗号の強度を上げる効果がある。
「だけど、足りない…!ワンタイムパットなら、『乱数表』が無いと解けないんじゃないのか…?」
やっと見えた希望の観測が閉ざされかけたその時、一行目の文字に目が吸い寄せられた。
「『ワレハチシキヲキワメシモノ』…?」
ーーーー我は知識を極めしもの。
やっと苦労して解読したーーーーと、思わされていた。一行目は間違えると、作者は確信して、なおかつ間違えれば必ずこの文になるように仕組まれていた。
僕は、一気に冷静になるのを感じた。
つまり、作者はこう言いたいのだ。
「『解けるもんなら解いてみろ』だって…?」
1文目に挑発文を隠すほどの自信。
そして、その自信を生み出す知識に、自分の中の何かが繋がる音がした。
「こいつは、弱者だ。」
得心を得た。
そう。作者は頭が良い。それゆえに、自分の知識に自信を持ち、その知識を本にまとめ、手に取ったものを嘲笑う。
知識に自信を持つのはいい、しかしそれを挑発的に見せびらかすのは、やってはいけない。なぜならーーーー
「そういう奴に限って、簡単なミスをする。」
そう言うと桃は、そっと、自分に言い聞かせるようにして心を落ち着かせる。
さっきよりクリアにわかるようになった、大好きな本の感覚を指で受けながら、ゆっくりとページをめくっていく。
1枚、2枚、3枚……
57枚目をめくった時、自分が笑っていることに気がついた。
その理由は、自分がよくわかっていた。
つまり、『知識戦に勝った』事実だ。
丁寧にマーカーで色をつけたのは、57枚目のページの七行目、そしてーーーー
「この文は、一ページ目の二行目と一致する…!!」
暗号法とは、伝えるために、秘匿する方法。
伝えるべき時に伝え、その後は伝えてはいけないという、いわば使い捨て。それがワンタイムパット。
冷静さを取り戻した頭は、自分の持ち得る全ての知識を総動員して、一文字一文字を解読、変換、推測、挿入を繰り返す。
たった一つ、作者が慢心に溺れ犯したミス。絶対無敵の暗号法を、自ら穴だらけにしたミス。それはーーーーーーーー
「再利用不可に、同じ乱数はあってはいけなかったんだよ…自称『知識を極めしもの』さん。」
その後は、僕も良く覚えていない。
額の汗を拭い、解読した文を読み進めーーーーーーーー
一冊全てを翻訳して読み解いた頃には、時刻は既に翌日の朝だった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー結局、不眠のまま一夜を明かしてしまったが、むしろ開放感しかないや。
妙に晴れやかな自分の気持ちが、眠気をぶん殴ったかのように忘れさせてくれる。
昨夜、読み解いた文を自分なりにまとめて分かったことがある。
まず、この本は教典のようなものだということ。
教典とはいえ、これはタダの自慢本。知識を見せびらかす為の、そして自分の知識が最高だと見せびらかす為の本だが、それでも常人には理解できないレベルだ。桃とて、たまたまワンタイムパットを知っていなければ理解できない作りになっていた。
しかし、問題も生じた。
それは、この本のあとがきだ。
後書きには、こう示されていた。
『現し世にある知識では、我には勝てない。』
『もう一度云う、我は知識を極めしもの。』
この2文だ、『現し世にある知識』ということは『現し世』とは違う世界があり、そこにも知識があると言う事。
そして、最後の一文。
「『強き欲が導くだろう』…何これ厨二病臭い…。」
思わず減らず口が出てしまったが、これくらいは許されるだろう。
「あんだけ必死になって求めた答えがタダの厨二病本て…クソゲー延々やらされてその挙句セーブデータ消えたくらいつらひ…」
完璧に、完膚なきまでに心も体もへろへろになった桃を、猛烈な睡魔が襲った。
「湊さんに報告は…寝てからでいっか…。とりあえ、ず。寝よう…。」
襲う睡魔に抗えず、だんだんと重くなる瞼の隙間に、不思議な光景を見た気がした。
本を中心に、魔法陣のようなものが展開されていた。
ようなもの、というだけあってその光は不規則に明滅していた。本の読みすぎで目がチカチカしてるのだろうか、と、それ位のもの。
しかし、睡魔の狭間に居る桃には気づけなかった。
本の表紙、何も書かれていないその表紙に、文字が浮かび出ていたこと。
『ディアボリック』
仏語で、『悪魔のような』という意味合いのそこが。
『知識魔』の桃にとっては。
ーーーー理想の、世界だったということに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして状況は、現在へと遡る。
目が覚めた時、まず驚いたのは珍しくクシャミが出た事だ。
本の為に、湿度温度日光を完璧に調整した自室では、初めてのことだった。
次に、背中に硬さと冷たさを感じたことだ。
幾度と無く本を読み明かし、倒れ込むように寝たことはあったがそれはいつもベッドに向かって。デスクやましてや床になど寝たことは無かった。
寝ぼけながらに、よほど疲れていたんだろうと考える。
しかし、じわじわと目が暗闇になれるにつれて、その状況の異常さに気づいてしまった。
「どういう事だよこれぇ…!」
牢獄ーーーー主に、罪を犯した人物を捕らえ、隔離しておくために使う部屋。
明らかに、異常であり異質な部屋に一人でいる。それも、一切の予備知識と状況、そして先ほどから聞こえる、水音というオマケ付きで。
「まて、まてまてまてまて…!僕はどうしてこんな所にいるんだ!?あの本を読み終えて、萎えて、それで…!」
ーーーー魔法陣が開くという、いかにもファンタジックで厨二チックな光景を見た。
「えぇ!?おい、うそだろ!冗談にも程があるよねぇ!?異世界転生!?こんなのラノベでしか見たことないよワッツ!?」
おかしい、おかしい、おかしい。
さっきから頭の中ではその四文字がぐるぐると回っている。落ち着こうと試みるも、異常事態すぎて脳が落ち着いてくれなかった。
「しかも、しかもだよ!いきなり牢獄状態スタートって、ニートになんてことしてくれたんだ!」
「うるさい…黙って。」
「んっきゃぁぁぁぁあああああ!!!」
不意にかけられた声に、思わず絶叫して膝から崩れ落ちてしまった。今鏡を見たら、おそらく人様には見せられない感じにキモイだろう。いや、見られてるけども。
「『悪魔』、目覚めてしまった…ニア、報告しに行かなくちゃならない。」
ニア、と言うのだろうか。鉄の檻ごしに立っていたのは、意外にも少女だった。歳は16歳ほどだろうか、艶のある黒髪をポニーテールにしていて、表情はどことなく暗い感じだが、それがかえって大人しそうな喋り方とマッチしている。
「え、悪魔ってそんな物騒な。どこに湧いたの?」
ニアは、ゆったりとうでをあげて、桃を指さす。
「そこ…。」
「うしろ!?まさかの出待ち!?」
思わぬ返答に身の安全を確保するべく格子の方へと飛び退いたが、後ろには誰もいない。あるのは石壁のみだ。
「違う…。」
フルフルと首を振って、ニアは無表情のまま再度、桃を指さして言った。
「あなたが、悪魔。正確には、敵国の、間者だって、おじい様が言ってた。」
敵国の間者。目の前にいる少女はそう言った。
つまり、この国とは別にもう一つの国があり、何らかの理由で戦いをしていて、僕はそこのスパイだと思われている…と。
つまりは、勘違いで牢に繋がれているわけだ。
「複雑な気分なんだけどごめん。とりあえずよく分からないけど歓迎されていないことは伝わってきたよ…。」
やるせない気持ちが物凄く溜まって、早くもHPがつきそうだった。
「それ、勘違いなんだ。悪いけど説明したいから大人の人呼んできてくれないかな…?」
「ダメ。ニア、怒られる。」
「へ…?」
ニアの口から、怒られる、と出た意味がわからず困惑する桃。
と、暗い空間の向こうから老人の呼ぶ声が聞こえた。どうやらニアが帰ってこないのを心配して捜索しているらしい。
「おじい様よんでる。ニア怒られるから帰らなきゃ。」
「えっと、それも怒られるの?どうして?」
「おじい様、この牢に近づくなって言った。『じょうほう』を抜かれる、危ないって。でもニア、お話したくて勝手にきた。だから見つかったら怒られる。」
なるほど、お忍びで会いに来たから大人も呼べないし長居も出来ない訳か。
「これ、あなたの近くに落ちてた。おじい様が没収したけど、泥棒はダメだから、返す。」
そう言ってニアが渡してきたのは、さっきまで解読していた例の本。しかしいまは表紙に、『ディアボリック』と記されていた。
「バイバイ、『悪魔』さん」
ニアが暗闇に消えたーーーー正確には牢から出て行ったーーーーあとも、僕は混乱が止まらなかった。
「ほんとに、どうなってんのコレェ…、、、」
今のところ与えられた情報は、立ち位置最悪でスタートしたとしか思えない。
それと、よく分からないがここはやはり異世界なのだろうということ。
「そうとでも思わなきゃ、『日本語』喋る国で戦争紛いのことなんか起こって無いだろうしねぇ…」
敵国の間者と疑われたということは、紛れも無くどこか2カ国が戦っているのだろう。その捕虜という訳だ。
「このままの流れだと、『拷問』からの『デッドエンド』しか見えないよもう…助けて神様…」
最悪もいいところの状況に心がもたない。と、俯く桃。
その視界に、自分が持ち得る唯一のこの世界の『知識』になり得る可能性がうつりこんだ。
「『ディアボリック』か…はは、ほんとに『悪魔のような』お話だわ…」
そう言って捲ったページに、ぼくは思わず目を見張った。
「中身が変わってる…!」
異世界に来る前に見た本に書かれていたような暗号文はそこには無い。そこに書かれていたのは、歴史書だった。
********世界は、五つの大陸からなっている。
1の大陸は、地の島『ドグマレ』この島には、鉱山と農業の知識に秀でた『人間』が住んでいる。
2の大陸は、火の島『イフルス』 この島には、薬学と工業の知識に秀で、高い運動能力を持つ『火妖精』が住んでいる。
3の大陸は、風の島『ティアマット』この島には、魔法と精霊学の知識に秀で、魔法に対する順応性がたかい『風妖精』が住んでいる。
4の大陸は、闇の島『ディアボロ』この島には、魔学と神学の知識に秀で、破壊と暴力を生き甲斐とする『魔族』が住んでいる。
5の大陸は、光の島『ホーリネス』この島には、全ての知識に秀で、次の神候補の末裔『天使』が住んでいる。
五つの島は、均等に、かつ温和に平和を保っていた。
しかし、数百年に1度、魔族に生まれる破壊と暴力の結晶「悪魔」の誕生によって、『ディアボロ』から理由のない攻撃を受けた4国は、次第に泥沼と化す戦争、『聖戦』を始めることになる。
知識を独占し、己が種族のためだけに使うことにより、各種族の知識の差は歴然と開き、それが戦争を加速させていった…
唯一全能である、『ホーリック』と『バハムート』を除いては。
『バハムート』は、自身の知識があっては戦争がつまらないと感じ。
『ホーリック』は、自身の知識があっては戦争が加速すると感じ。
ホーリックとバハムートは、全能故に同じ心をもち、それゆえに違う考えをもち。来るべき時が来るまで自分たちの力と体、そして知識を封印することにした。
来るべき時すなわち…*********
「『終戦』か『滅亡』か…」
そこまで読んで、桃はただ一つ、ただ一つ深いため息をついて。
心底楽しそうに(・・・・・・・)言った。
「たのまれなくても分かった、これは戦争を終わらせるフラグだ…!だったら終わらせてやる、全ては僕の知らない『知識』の為に!」
悪魔の気まぐれによって起された戦争を納め、自身を目覚めさせるという無理難題を突き付けられただけ、それだけの事。もとよりそこまで気にしていなかった(・・・・・・・・・)桃には、異世界やどうのなどと言うことは桃には関係が無くなった。
知識魔と呼ばれる少年はーーーー「天才」である少年はーーーー
自身の知識を欲する欲求のため、悪魔と天使に、気まぐれで挑む事にした。