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ギルドinバーミィーシティ ~翡翠~  作者: 星見つむぎ
第1章 『青年』 in バーミィーシティ
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第6話 交渉――というかドタバタ

「――ん、何だか騒がしいと思ったらお前らか。

で、そっちのは……」



 扉の開く音に視線を向けると、そこにいたのは一人の男性だった。

 その姿を見て、彼は少し違和感を感じる。



 背中に背負っている大剣。顔に走る大きな傷。

 いかにも歴戦の戦士のような風貌なのに、服装は白いシャツに黒いダブリエだ。


 

 多分、アゼリアさん達とは知り合いなんだろう。ギルドの人なのかな。でも――ならなんでそんな格好……?



 彼はそのまま男性の頭上へと目を走らせて――そのまま硬直した。



 一方の男性は、彼が混乱しているのに気付いていないのだろう。

 あぁ、と何かに気付いたように声をあげる。



「そいつ、もう起きたのか。意外と早かったな」

「……マスター、とりあえず意外とじゃねぇと思う」

「そうか?」



 男性――このギルドのマスターであろうその人は、カクタスにそう言われてから、三人の様子がおかしい事に気付いた。

 怪訝そうに眉をしかめて、どうした? と聞いてくる。



「何だよ三人とも――『スライムが人間の形になって襲ってきた』みたいな顔しやがって。

特にそっちの……迷子の坊主なんて顕著じゃねぇか。俺の顔に何かついてんのか?」

 


 不思議そうにしながら、マスターは彼について話題を振った。

 振られた方の彼は――――ひっ、と明らかに怯える。



「? 何だよ、何かおかしい事あるか?」

「い、いや……頭の上に――」

「頭の上?」



 視線がいっきにマスターの頭上に向かう。

 マスターは頭の上に手を伸ばして――それからやっと、そこにいた石像・・の存在に気付いたようだった。

 ぱちり、と石像――先ほどの鷹の石像の眼が開く。



『我が居っては何か問題でも? 若造よ』



「――や、やっぱり喋ってたあああ!?」

「お、落ち着いてくれ。Mr.ホーク……いや、あの石像はむしろ喋らない方が危険で――」

『それはどういう意味だ小娘!』

「てかっ、何でご隠居頭の上に乗っけてんだよマスター!!」

『ご隠居とは無礼な! 大体我はまだ――』

「いや、首の筋肉を鍛えようと思ってな? 時々ホークに頼んで乗ってもらってんだ」

「鍛えるどころかヘタすりゃ首折れるだろ! まさか四十肩の解消に――とか言い出すんじゃねぇよな!?」

「……四十肩とか言うな、年がばれる。しかも40はまだだ」

「俺らの前で今更年齢とかどういう事だよ!? つーか、んな事やっても悪化するだけだろ!!」

 


 怯えだす彼をアゼリアが宥め、一方ではマスターの行動にツッコむカクタス、それに鷹の石像を交えてのセッションが激化。

 ぎゃーぎゃーと、そんな擬音が出そうな程ロビーは一気に騒がしくなった。


 …………だから、気付かなかったのだろう。

 どたばたと、誰かが階段を降りて来ているのを。



「だーかーら! まず石像を乗っけるってとこが―――」



「うるさーい!!」

 ばたん、と音を立てて、階段に続く部屋のドアが開いた。

 


 軋んだ音がしたから、きっとどこかにヒビでも入っているに違いない。

 その声で、リビングは一気に静かになる。



 あ、ロビーとあの階段、つながってたんだ。



 場違いな思いと共に、彼は開いたドアの向こうに居る人物を見る。

 


 そこに居たのは――――少女だった。



 13、いや14才ぐらいだろうか。ヒールのあるブーツを履いているが、あまり効果はなさそうだ。ぱたぱたと、彼女の背中にある尻尾・・が揺れている。



「げ……カタリア」

「何よ、その反応」



 カクタスの台詞に、少女――カタリアは顔をしかめた。だって機嫌悪そうじゃねぇか……というカクタスの小声を聴いて、カタリアはぎっとカクタスを睨み付ける。

 一方の彼はというと、衝撃的(?)な登場よりも、カタリアの姿――とくに頭についているものに驚きを隠せずにいた。



「…………猫?」



 彼は思わずそう呟いてしまって、カタリアに鋭い視線を向けられた。

 その鋭さに、彼は思わず視線を下げてしまう。


 ……カタリアの頭。そこについているのは間違いなく猫の耳だった。

 尻尾も猫のようだし――と彼は混乱した頭で思う。



 ついに、幻影でも見えてきたのかな……。だって、猫の耳がある人間なんて聞いた事ないし、それに、鷹の石像が喋るって……いや、でも僕が忘れているだけでそういう種族があるのか? でも――



 くるくると思考を回転させる彼に、カタリアの呆れたような溜息が聞こえた。

 竦む彼の耳に、カタリアの声が届く。


 

「……おしいけど、違う。『猫人』、獣人の一種で、どちらかというと人間に近い方。――まぁ、後は説明しなくても分かるでしょ?」

「……え?」



 彼は慌てて顔を上げる。

 カタリアは少し不機嫌そうだったが、怒っているようではなさそうだ。



「……アンタ、記憶喪失なんだって? こいつに聞いたわ」

「こいつって……」

『物扱いするでない猫娘!』 



 カタリアの台詞にくってかかる鷹の石像――Mr.ホークに、カクタスは脱力したようにため息を吐く。

 それを無視して、カタリアは彼へと歩み寄った。

 彼は後ずさりそうになるが、カタリアがそれを気にする様子はない。


 ぴた、と彼の目の前で止まったカタリアは、しばらく何かを言いかけて逡巡した。



 ……沈黙が、部屋に流れる。



「……まぁ、アンタが頑張りたいように頑張りなさい。以上」

「…………へ? が、頑張るって……?」



 ぼそっと唐突に呟かれた一言に、彼は思わず返した。だが、既にカタリアは踵を返して階段へと戻ってしまっている。

 するり、と尻尾がドアの向こうに消えた。



「……今のは、一応、激励だな」



 カクタスがそう小さく呟く。

 呆然としていた彼は『激励』と言われてからやっと、カタリアの言った事の意図に気が付いた。



 ――あ、そっか。

 応援してくれたんだ、カタリアさん。



 やっと状況を理解し始めた彼の横で、カクタスは呆れたようにため息を吐く。アゼリアは苦笑しながらも、まぁまぁとカクタスを宥めていた。



「ったく、でも普通に頑張れって言えばいいだろうに……」

「まぁ、カタリア先輩にしては……な?」

「というか、頑張れって何の話だ?」



 取り残されていたマスターの一言に、今度はカクタスとアゼリアが固まった。

 ――どうやら、話を切り出すタイミングを間違えたらしい。



「あ~っと、実はマスター。話があるんだけどよ……」



 カクタスがそう切り出して、彼にアイコンタクトを送る。

 突然振られた方の彼は、カクタスの視線に自分が何をすべきか理解して――

 ――彼の思考は、真っ白にそまった。



 ――しまった。

 何て切り出すか、考えてなかった!!



 テンパった彼は、何とか言葉を紡ごうと口を開く。

 だが、必死に考えても言葉が出てこない。



「え、えっと、あの――突然で申し訳ないのですが……」

「? 何だ?」



 どうしよう。

 何か、何か言わなきゃ、えっと、えっと―――



「――僕を、ギルドメンバーに入れて下さい!!」

 


 彼は、頭を下げた。

 ――言ってしまってから、彼の背筋がひゅっと冷たくなる。



 しまった。急すぎただろうか。あ、そのまえに記憶の事言わなきゃ……というか、ギルドメンバーに入る前にテストがあるって今さっきカクタスさんが言ってたよな? それならまず試験を受けさせて下さいって言った方が良かった? 

 ――あぁ、ミスったかもしれない。



 ぐるぐると考えながら、彼はマスターの様子をちらりと見る。

 マスターは驚いたように目を丸くしていたが、彼の視線に気づいて――豪快に、笑った。



「なんだ、そんな事か! あまりに空気が重くなったもんだから、てっきりこの店に何か憑いてるとかそういうもんだと!」

「え、そ……そんな事? それに、僕記憶が――」

「それは知ってる。カタリアが言ってただろう? それに、お前がレブナントだってこともな」



 さらり、と本当に何でもない事のようにマスターは告げる。半ば無理だと思っていた彼は少し呆然としてしまったが、その後に続いた言葉に更に驚愕した。



「だって、こいつが言っていたし」



 そう言って、マスターはいつの間にか床に置いていた鷹の石像を指差した。

 カクタスとアゼリア、それに彼の視線が一気にMr.ホークに向かう。



「分かってたん……ですか?」

『…………当たり前であろう。我は主を守護せしガーゴイル。魔族と人の区別も付かぬようでは守護者の役目など果たせぬ!』

「え、じゃあ何で……」



 沈黙の後、開き直った鷹の石像に、彼は只々動揺する。



 それなら、僕を追い出すか警告するくらいしそうなのに、どうして何もしなかったのだろう。いや、そもそもあれが警告だったのか――?



 疑問を感じる彼に、Mr.ホークはさらりと告げる。



『勘だ』

「……へ?」

『そもそも、我が口をきいただけで尻尾を巻いて逃げだすような臆病者が、このギルドで悪事を企てられるとでも?』

「おいおい、臆病者は言い過ぎだろ。ったく、ご隠居さんはこうですからね~」

『ご隠居と言うでないギルドマスター! そしてまた肩の上に乗せるでない! バランスがとりにくいではないか――――おい、聞いておるのか!?』



 ぎゃーぎゃーと叫ぶMr.ホークを肩に乗せて、ギルドマスターは彼の方へと向き直った。

 その姿は様になっているとはいえないが――どこか、彼の人柄を感じさせるような姿だった。



「……レブナント云々は、今は気にしなくていい。お前がそうだからって、障壁にはならないだろう?」



 彼が目を丸くするのを気にも留めず――そのまま、マスターは微笑んで告げた。

 大丈夫だ、と。


「それなら、入隊テストは……そうだな、カクタスが今さっき受けたいって言ってたあの――そう、警備の任務、あれでどうだ? それならカクタスも居るし、大丈夫だろ。準備する時間もある訳だし。

 その任務を無事終わらせられたら、ギルドメンバー入隊を許可してやるよ」

「え、あっ、はい!」

「後――あぁ、そういえば説明してなかったな。ギルドメンバーになるには、テスト代わりの依頼を受けるのが一般的なんだ。

 依頼の受け方はもう教わって――って、あ、やべ、今日までの活動資料まだまとめてなかった! 

 すまん! 他に何かあったら、そこの二人に聞いてくれ! 行くぞご隠居!」

『だからご隠居と言うでないと――』

「は、はい! ありがとうございます!」



 マスターは慌てたように先ほど出てきた部屋へと戻っていく――と、何かを思いついたようにぴたり、と足を止めた。

 まだ何かあったのかだろうかと思う彼に、マスターは口を開く。



「最後に一つ。

 Good luck! 少年」



 マスターは後ろ向きで手を振って、慌ただしく部屋へと消えて行った。――勿論、鷹の石像は肩にのせたままで。

 残された彼は――言葉の意味が分からずに呆然とする。



「……かっこつけたな、マスター」



 カクタスが呆れたような声で言う。

 再び疑問符のマーチが始まった彼の頭に、ぽん、と優しくアゼリアの手が置かれた。



「『頑張れ』だそうだ。――マスターらしい気もするな」

「マスターらしいって……あぁ、まぁそうだな」



 アゼリアの言葉にカクタスが同意する。

 一生懸命マスターの言葉を思い返す彼を見て、カクタスはまた口を開いた。



「……よし。それじゃあ、まずは準備だな。魔術の事とかももう少し教えといた方がいいだろ。後、結界の事とか」

「結界……ですか?」

「まぁ、ここで説明するのも何だし……場所を変えるか」



 そう言って、アゼリアは歩きだす。後の二人もアゼリアについて行き……ふと、彼は足を止めて、マスターの部屋の方を振り返った。



 ――誰も居なくなったロビーを金色に染めて、黄昏の光が揺らぐ。




「? どうしたー?」

「あ、いや何でもないです! すぐに行きます!」




今回は台詞で切ってみましたが、強引だったでしょうか……。

読み辛い点はご容赦下さい……。


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