死神様はかく過ごせり
これが2007年最後の更新になると思います。
番外編という立場ではありますが、こちらでも新しい魅力を出していけたらなと思っています。
読者の皆様、来年も是非ともよろしくお願いします!
では死神様のお話です。
「黄泉さん、朝ですよ」
「わかった」
朝、小夜に起こされて目覚める。といっても常に半分は意識を覚醒させているが。
「玉藻さん、朝ですよ」
「あとごふん〜」
「直樹さん、朝ですよ」
「…………」
この家の住人は朝に弱い。
――ピピピピピピピピ……!
やがて7時になり、狭山直樹の目覚ましが鳴り響く。
「……朝か……」
「……うにゅ……? もうそんな時間なのか?」
「直樹さん、玉藻さん。朝です。起きて下さい」
文句一つ言わずにこの低血圧コンビを起こす小夜はまさに理想の妻と言えよう。
「朝ごはんできてますよ」
「ああ。おはよう死神」
おはよう。早く食べろ。
「俺はお前と違ってせかせかした朝は嫌いなんだ……」
そのためなら出掛ける1時間前に起きるのか。ある意味では見上げたものだ。
「煩い。そういうお前は準備も早いくせになんでこんな時間から起きてるんだ」
「それはお前達が起きるからに決まっているだろう。生活時間を合わせるのは共同生活の基本だ」
「なんかお前に正論言われると無性に腹が立つんだが……」
そうかもしれんな。
「では、行ってきます」
「行ってくる」
「きちんと留守番してろよ」
「うむ! いってくるがよい!」
朝8時。俺達は玉藻に見送られて家を出る。
「この生活にもすっかり慣れたな」
「なんだ、藪から棒に」
小夜が来て、俺が来て、玉藻が現れ、ここ数週間の出来事とは思えないほどの変化が起きているにもかかわらず狭山直樹は見たところそれまでの生き方となんら変わりない生活をしているように思える。
「いろいろありましたねー……」
「最初に会った時は殺してやろうかと思ったな」
正直俺には人を生と死以外で分ける意義が見当たらないが、この2人の言う通り最低限の犠牲で守護するよう努力はしている。
「というか、お前に直接守られたことなんてないような気がするんだが……」
「俺が目に付く危険はあらかじめ刈り取ってあるからな」
予防というのはなくなって始めてその存在に気付く。何かに似ている気もするな。
そのような会話をしている間にも狭山直樹の周りには俺と小夜に引き寄せられた厄が集まっている。時折それらを消しながら俺達は通学路を進んでいった。
「おはよう」
「おはよー、狭山くん、三途川くん」
「うっす」
教室に入ると同級生達が口々に朝の挨拶を投げかけてくる。まさかこの俺がここまで人間と関わりを持つとは思わなかった。
「狭山、黄泉。おはよう」
「ああ、碧海。おはよう」
「おはようございます」
碧海凛がこちらに挨拶をする。この女は退魔士で相当の手練だが、普段の学校生活ではそのようなことを一切表に出さずに生活している。俺が見逃した厄が狭山直樹に降りかかるような時には、例えば不良と呼ばれる生徒が狭山直樹に危害を加えそうな時に代わって護衛をしてくれているため、あながち軽視できない。
「どうした黄泉。私の顔に何かついているのか」
「なんでもない」
「ふいー。セーフセーフ」
やがて始業ベル間際に狭山直樹の友人である桜乃響がやってきた。
「あれ。藤阪の奴まだ来てないのか?」
「ああ。最近ようやくマシになってきたと思ったらまたこれだ」
どうやら狭山直樹は毎朝自分が起きると同時に携帯メールを藤阪葵に送っているらしいが、効果のほどは薄いようだ。
「惜しいわ。あとちょっとで間に合ったのに」
「まずその基準を改めろ」
そして遅刻しても反省の素振りを一切見せない藤阪葵。これで高3まで無事に進級できているのが驚きだ。
「やあやあ直樹氏! 今日は久しぶりにこの時間帯に来てみたよ!」
「無駄な試みだったな。市原連れてとっとと自分の教室に帰れ」
神は何を考えているのか、人間と共に暮らす最高神など聞いたことがない。人間と共生するのはせいぜい九十九神のような下級神だ。
「うん!? 黄泉君、なにやら難しそうな顔をしているね!? あまり若いうちから悩んでいても人生いい事がないよ!!」
俺は既に200年以上存在しているのだが、それもこの神に言わせればまだまだ年端もいかないということだろう。
「おい三途川。オレは吹奏楽部見に行くけど、お前はどうすんだ?」
「いや、帰らせてもらおう」
「そうか。それじゃまた明日な」
「ああ。また明日」
部活には神がよく訪れるため、よっぽどのことがない限り狭山直樹に危険なことは起きないはずだ。それでも箒の直撃を受けそうなったりトラックに轢かれたりしているが、それ位は小夜を憑けている以上諦めてもらおう。微々たる物だ。
遠くから「どこが微々だ」と魂の叫びが聞こえてきた気がするが、気のせいだと割り切って家へ帰る。
「……む……」
家へ向かって歩いていると、前方に不審な霊魂が見えた。
「死んでから1週間は経過しているようだな……。今ならまだ存在の消滅は免れるか」
そこにいたのは厄に喰らい尽くされそうになっている魂。おそらく先週辺りに報道された飛び降り自殺者のものだろう。暫く探していたのだが、ただでさえ自殺者は魂が脆い上に中々見つからなかったのでもう喰われたと思っていた。
「随分と強固な魂だ。未練の残った被害者でも1週間経てばこれ以上に消耗しているものだが……」
未練の残った者だけが幽霊となるわけではないが、この世への執着が強ければ強いほど魂も強固なものになるのは確かだ。生への渇望にせよ、殺人者への恨みにせよ。
「もしかしたら自殺ではないのかもしれないな……」
死神は魂を確実に冥府へ送り届けるのが本来の仕事だ。執着の強い魂を安全にこの世から切り離すため、魂の情報を読み取る術を持っている。もっとも小夜のように幽霊として舞い戻った者に対しては使えないが。
霊魂の情報を切り拓く。
「…………」
――マンションの一室。
――訪れた知人。
――ベランダ。
――植木鉢を振りかざすその男。
「……なるほどな」
流石に鮮明なイメージは浮かばなかったが、いくつか断片的な映像は頭に入ってきた。その事件は確か屋上からの飛び降りと報道されていたはずだ。
「……その未練、確かに受け取った」
『――容疑者は被害者をベランダから突き落としたのち、屋上に被害者の所有物を置いて自殺に見せかけたとされ――』
「あ、これ、この前近くであった飛び降り事件の話じゃないですか?」
「そうだな。自殺に見せかけた他殺か。そんなものが成功するのはミステリー小説の中くらいだ」
「みすてりー小説なら絶対に失敗するのではないか?」
「……もののたとえだ。あまり気にするな」
『――ベランダの植木鉢からは被害者のものと思われる血痕と容疑者の指紋が残っており、警察では衝動的な犯行として――』
「こわいですね……」
「幽霊が怖がってどうする」
「ゆ、幽霊だってこわいものはこわいんです!」
「そうかい。で、殺人のプロ。お前としてはどうなんだ」
人を殺し屋のように言うな。
「そうだな……」
『――なお、警察ではこの情報を届けた目撃者の確認を――』
「魂は見ている、と言ったところか」
次回から「死神探偵ヨミ」が始まります。
嘘です。
半分くらいでネタが尽きたので適当にぶらぶらさせてたら探偵の真似事始めましたよこの死神。
最後本人は格好いいこと言ったと思ってますが主人公達には訳が分からないという顔をされます。
では本編より一足早く失礼します。
よいお年を〜。




