部長様はかく過ごせり
遅くなりましたが6話目です。
部長の話です。
朝。目を覚ます。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはよう」
お父様とお母様のいる食卓につく。
「いただきます」
「……静流、まだ部活は続けているのか」
「ええ。引退すべき時が来るまでは続けさせていただきます」
「……今から勉強しても遅すぎるくらいなんだぞ。いいのか」
「私の人生は私が決めます。お父様は心配なさらないで下さい」
「……静流、大丈夫なの?」
「平気です。ご心配なく」
自分のことくらい自分で決める。それにわざわざ部活を続けていても大丈夫な大学の附属校に入ったのだ。進学できないなんて事は十中八九ありえない。
――がらっ。
教室に入る。誰もこちらを見ない。
当然だ。教室という狭い空間の中でも自分の興味のない人間はもはや背景の一部に過ぎない。わざわざ道端にある石ころを気にする人間なんていない。
「やあおはよう静流君! 今日も朝から難しい顔をしているね!」
……それを進んで観察しようという変人も時にはいるけれど。
「神楽くん、用がないなら話しかけないでくれる? 貴方も雑談を楽しめるほど暇な人間ではないはずだけれど」
「もちろん! 私にかかれば雑談という貴重な時間を生徒会長などという面倒な仕事で潰すことなどありえんよ!」
……思考回路が根本的に違う人間は対処に困る。思えば私の周りはそんな人間ばかりだ。
「最近部活はどうかね!? 僕の見たところでは後輩の諸君もなかなか部活を楽しんでいるようだが!?」
「ええ、知っているわ。部員でもない人間とお喋りをしているわね。無駄だわ」
「ふむ、目的のない会話ほど人生の潤いとなる時間はないよ!! 君も少しその辺りを試してみてはどうだい!?」
冗談を言わないで。そんな無駄なことをしている暇はないの。
「残念だよ!! それでは失礼する!!」
神楽くんが立ち去ると同時に担任が入ってきた。
「ではHRを始める」
「起立、礼」
毎日同じことの繰り返し。本当に時間が進んでいるのか疑わしくなる時さえある。
だが時間は進んでいる。もう戻れないところまで。
昼は教室でパンを食べる。普段ならそのままゆっくりと食べているところだが、今日は部長会議があるのでパンを持って空き教室へ向かう。
「――では、秋の文化祭に向けた各団体の出展予定を来週月曜までにこちらへ提出して下さい」
とうとう文化祭に向けた準備が本格的になってきた。
私にとって最後の演奏会を開く場でもある。
文化祭は土日の2日間行われ、吹奏学部は2回演奏をしている。土日両日で演奏会を開いているのだ。
演奏会場はアリーナのため、招待試合を行うバスケットボール部などとスケジュールがかぶらないように注意する必要がある。
「――このような時間帯にしようと思っているのですが」
「……うん、いいんじゃないでしょうか? バスケ部の顧問たちとも相談しておきます」
「ありがとうございます」
その日の内に暫定の予定を組み立て顧問に伝える。この手のものは早ければ早いほどいい。
そして放課後。
他の部員達が待たないようにすぐさま音楽室の鍵をもらって開ける。
「ちわーっす」
「こんにちは」
「おはようございますー」
「……ええ、おはよう」
下級生達が集まりだした。それぞれ自分の楽器を取り出して練習を始める。私も練習をすることにした。
「――ほら、ここまで来たんだから観念しろ」
「――まったく、もう少し粘れると思ったのに……」
練習を始めて10分程経ち、他の部員達もあらかたそろった頃にようやくあの2人がやってきた。
「貴方たち、毎回言うようだけれど少し遅いわよ。少しは――」
「――最高学年の自覚を持ちなさい、でしょ? まったく、毎回毎回ワンパターンね」
「……それを分かっていながら遅れるのね。反省の色がないのは何を反省すればいいのか理解できていないからかしら」
「反省する必要がないから反省しないのよ。まだ来てない部員だっているでしょ」
下級生に対して示しがつかないということを何度言っても分からないようだ。
「いや、まあ、確かにそうなんだが、せめてあと5分は早く来た方がいいな」
「……あんたねぇ……」
「そうね。5分でもまだ遅いくらいだけれど」
「よし、それじゃあ気をつけるか。ほら藤阪、行くぞ」
「……もう……」
狭山くんは葵……藤坂さんと違って多少なりとも反省はしているようだ。そうでなくては困る。
「ぶちょー」
「あら、辻さん、なにかしら」
「舞さんが何やら伝えたいことがあるらしいので行ってあげて下さいー」
「……用があるなら自分で来ればいいと思うのだけれど……」
まあ辻さんがわざわざ私を呼びに来たのだからそうしなければならない事情でもあるのだろう。
市原さんは他の多くの部員とは違い狭山くんのように空き教室で練習している。一緒に練習する人はいないのかしら。少し心配になる。
「市原さん、どうしたのかしら?」
「部長、実は折り入ってご相談があるのですが……」
ひどく真剣な顔で切り出される。何の相談だろう。
「桜乃さんの弟さんの事はなんと呼べばいいのでしょう」
「……え?」
「普段神楽さんと同じ学年で狭山さんのご友人の方をさして桜乃さんとお呼びしているのですが、その桜乃さんの弟さんはなんと呼べばいいのでしょうか」
……それを私に相談してどうしろというのだろう。
「と、とりあえず、2人が同じ場所にいないときは桜乃さんでいいのではないかしら? 2人が一緒にいるときだけお兄さんや弟さんをつければいいと思うわ」
「そうですか。ありがとうございます。参考になりました」
……なんだったのだろう。
「やあやあ諸君! 元気にやっているかね!?」
「邪魔するぞ」
「わざわざ断んなくても平気だって! お、部長、遊びに来たぜ!」
部員でもない人間が3人まとめて来た。正直邪魔だ。
「用がないのなら帰って欲しいのだけれど」
「随分邪険に扱われたものだね!! いいじゃないか、君達の素晴らしい演奏を堪能したいのだよ!!」
「それなら演奏会本番に来てくれないかしら」
「それでは面白くないだろう。本番にいたる努力の過程にこそ誇れるものがある」
「……ならせめて部員としてそこに参加して欲しいわね」
「当事者じゃ逆に見れないものもあるってことさ。なあ!?」
「そうだね!!」
「そうだな」
……頭が痛くなってきた。団結するとここまで扱いづらい連中だったとは。
「……もういいわ。狭山くんならあっちで練習してるわよ」
「ありがとう!! では僕達はそちらへ行こう!! 後輩諸君、練習頑張ってくれたまえ!!」
――はーい。
「……神楽くんの言うことには随分気持ちよく従うのね」
「それはまあ生徒会長ですからー」
生徒会長であることと言うことを聞くことには何か関係があるのかしら。
「なんとなく聞いた方が自分のためにもなる気がしませんかー?」
「そうね。辻さんは少し素直すぎるかもしれないけれど」
「やだなぁー、私は全然素直じゃないですよー?」
「あら、意外ね」
「ふっふっふ、私の本性を見くびってますねー」
全くもって裏があるようには見えない。純真そのものだ。
「――そこのフレーズ、フルートはあまり主張しないようにしてくれ。2回目はホルンを聴かせたい」
「わかったわ。藤坂さん、ここからここの間は今よりもう少し小さくしていいわ」
「はい、わかりました」
指揮者の時の狭山くんは普段とはまた違う凛々しさがある。普段からこの調子ならもう少し後輩にも尊敬されそうなのだが。
「いやーしかしあの狭山はなんかキモイなー」
「自分に惚れている、といったところか」
「はっはっは! 水仙にならないよう気をつけねばな!!」
「……うるさいわ!! いらんこと言うなら帰れ!!」
……普段とのギャップのせいで全く尊敬の対象として見られていないのが残念だ。
「それじゃあ今日はこれで解散。気を付けて帰ってね」
――はーい。
こうして今日も一日が過ぎていく。
「ただいま帰りました」
「ああ、お帰り」
「お帰りなさい」
家に帰れば両親といくつか会話をしてあとは自室で勉強をする。
部活に真剣になるためには努力を怠ってはいけない。
こうして時は過ぎていく。
本当に進んでいるのか疑わしくなるほど変わらないまま。
だが気付けば戻れないところまで変わってしまうほどはっきりと。
若干ピリピリしてますね。なんででしょう。
更新の時間が遅かったのはちょっとした事情があったからです。
詳しくは本編をご覧ください。
とまあ本編の宣伝も済ませたところで次回は神様のお話です。




