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聴衆役はかく過ごせり

今回は聴衆役のお話です。

要するに桜乃のお話です。

 オッス、オラ響!

 今日は俺のヴェールに覆われた私生活をほんの少しだけ見せてやるぜ!

 朝になると、綺麗な姉さんが優しく俺を起こしに――

「――起きろっつってんだよクソガキがぁ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!」

 ――来るといいな、ほんと。

 

 

「うぅ……脇腹が痛い……」

「軟弱な野郎だな。軽く蹴っただけじゃねえか」

 嘘つけ。殺気こもってただろ。

 この若くしてドメスティックバイオレンスの親玉みたいなのは俺の姉貴、桜乃琴音(さくらのことね)という。何が琴音だ、名前の響きと性格のギャップが詐欺レベルに達している癖に。

「――フゴァ!?」

「テメェ、今ムカつく考えしてただろ」

「なんで考えただけで踵落とし喰らわなくちゃいけないんだよ!!」

「あーあーごちゃごちゃうるせーなー」

「真面目に聞けよオイ!!」

「無駄だっての」

「あん?」

 横で黙々と朝食をとっていた拓斗(たくと)が達観とも諦めともとれる溜息をついた。

「ん〜? 何が無駄だって? 言ってみ?」

 姉貴が拓斗の両頬を引っ張りながら尋ねる。おーおー、伸びる伸びる。

「ひゃひゃひゃ、ひぇ〜ひゃんひひょんひゃひょひょひっひぇひょひゅひゃひゃっひゅ〜ひょ!!」

 そこまで言い切ったのは立派だが弟よ、何を言っているのかわからんぞ。

「日本語話せ」

「あひゃぁぁぁぁ!!!」

 案の定姉貴は引っ張っていた頬をそのまま両サイドに伸ばしきった。指で掴めなくなって頬は解放されるのだが、その瞬間の激痛は経験者にしか分からない。

「さて、クソガキ2人のメシも終わったし、千歌(ちか)を起こしにいくか」

「まて姉貴」

「あぁん?」

「まだレンジで温めた冷凍ご飯と梅干ししか出てないんだけど」

「それで全部だ。千歌ー! 朝だぞー!」

 行っちまいやがったあのクソ姉貴。白飯と梅干しなんて健康的にも程があるだろ。

「兄さん、だから姉さんにそんなこといったって無駄だっつーの」

 諦めるなマイブラザー。この不平等社会を覆せるのはお前の手にかかっているんだぞ。

「拓斗お兄ちゃん、響お兄ちゃん、おはよー!」

 ああ、おはよう。

 俺の家族は他の家と比べてもこの少子化の時代にしては子供が多いらしい。上から姉貴、オレ、拓斗、そして千歌だ。

「今日も可愛いなぁ千歌は。頼むからそのままのお前でいてくれよ」

「……? はーい!」

 拓斗、妹を愛でるのは結構だが本音が後半にだだ漏れしてるぞ。

「……それは誰を想定して言ってんだ?」

「げぇ!? ね、姉さん!!」

「さあ千歌、今朝ごはんを用意するからな。しっかり食べるんだぞ?」

 そう言いながら炊飯器から炊きたてのご飯をよそい、目玉焼き、焼き鮭、味噌汁を千歌の前に並べる。……もはや何も言うまい。

「……拓斗お兄ちゃんと響お兄ちゃんはいいのー?」

「ああ、あいつらはもう食べ終わったんだ。食いしん坊だからな」

「そうなんだー!」

 言うに事欠いてこの女は。

「おはよーう」

 やがてお袋が現れる。

「おう、おはよ」

「おはようお母さん!!」

「「…………」」

 ツカツカツカ。

――バッコーーーン!!

「「あだー! 何すんだよ!?」」

「朝の挨拶も出来ない奴に文句言われたくないわね」

 それを言うならいきなりスリッパで息子2人を殴りつける奴に正論言われたくないわ。

「おっと、もうこんな時間。コラーーー!! アンタ寝坊なんかで遅刻したら二度と寝れないように軒下に吊すわよーーー!!」

「ヒイィィィィィ!!」

 寝室から悲鳴。

 ……まあ、なんだ。要するにアレがオレの両親だ。この女尊男卑のコミュニティを作り出した元凶とも言える。どちらも音大をトップレベルで卒業したとは思えない。

 オレと拓斗はこの不平等社会を打破すべく日夜努力しているのだが、お袋と姉貴という最初にして最大の関門を未だ突破できず、結果消極的改善としてせめて千歌を今の性格のまま育て上げようという五ヵ年計画に走っている。分かってくれ。

「ところでテメェら、学校はいいのか?」

「え」

 時計を見る。

 ……8時20分。

「「……しまったぁぁぁぁ!!」」

 

 

「おい拓斗!! お前オレの代わりに3−DのHR出ろ!!」

「はぁ!? なんでだよ!?」

「なんでってお前、代返してもらうために決まってるだろ!!」

「ふざけんな! 僕が遅刻になるだろ!」

 互いに全力疾走しながら怒鳴り合う。取り敢えず学校に着けばあとは寝てればいいので体力配分は問題ない。

「ヤバいよ兄さん! あと3分!!」

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

「ま、間に合った……」

「お前、馬鹿だな」

「馬鹿ね」

 ギリギリ教室に滑り込み、机で息を整えていると狭山と葵の呆れたような声が耳に届いた。お前らもあの家で生活してみろ。

 

 

「おーい、朝だぞ」

「……はっ」

 顔を上げると狭山の顔が目の前に。

「もう昼休みなんだけど」

「お前、学校に何しに来てんの?」

 煩い。寝にきてんだ。悪いか。

「悪いわね」

 と藤阪。お前だって授業中は寝てんじゃん。

「休み時間は起きてるわよ。あんたみたいに無駄に過ごしてるわけじゃないの」

「いや、お前ら、根本的に間違ってるからさ」

 分かってるわこの優等生。

「ん? なんだ?」

 学食に行こうとすると狭山が何かに反応したように足を止めた。

「あん? なに?」

「あ、いや……」

 視線の先には……碧海の姿。馬鹿。

「…………」

 あああああ見ろ。藤阪が目に見えて不機嫌に。さっさと気付けこの鈍感男。

「悪い、ちょっと先行っててくれ」

 あの超絶馬鹿はあろうことか碧海の元へ駆け出しやがった。

「……そうね。先に行きましょう」

 あの、葵さん、すんげぇ怖いんだけど。

「何のことかしら?」

 笑顔で迫るな。トラウマものだぞ。

 狭山は碧海に何かを渡そうとしているようだ。碧海が拒否しようとするもそのまま押し付ける。お、帰ってきた。

「お帰り。どうだった」

 藤阪、藤阪、まだ怒りのオーラ出てるから。

「あ、ああ。財布を忘れたみたいだったから、昼食くらいちゃんと食えって金を………」

「ふーん……」

「……ど、どうしたんだよ……?」

「別に」

「…………?」

 絶対こいつは藤阪の不機嫌の理由に気付いてない。これに気付いているならとっくにくっついてる。

 

 

「んめぇーーー!!」

 食べるのはもちろんカツ丼。やはりこのカツ丼は美味い。

「こんなもんばっかでよく体もつな……」

「ほら、あれよ、脳味噌筋肉?」

「オレのカツ丼を馬鹿にするなぁー!」

 

 

 授業が終わり、部活の時間。

「桜乃、お前も来るのか?」

「おうし、じっくり聴いてやろう」

「だとよ、藤阪。行くぞ」

「嫌」

「おい」

 

 

「辻ちゃん上手くなったねぇー。もう狭山超えてるんじゃない?」

「いやいや、センパイはこんなもんじゃないですよ」

「あいつももう少し自信持って吹けばいいのに、勿体無いよなぁー」

「私は今のセンパイの音の方が好きですよー。なんだか優しい感じがして」

「そういうもんかねぇ……?」

「はい。そういうもんなんです」

 辻ちゃんは今日も元気だ。狭山のいる前では絶対こんなこと言わないんだよな。狙ってやってるのか?

「桜乃くん、部活は遊びにくるところではないんだけど」

 今日も鬼部長のお出ましだ。姑コンテストなんてものがあったら最年少で殿堂入りを果たしそうだ。部活は遊びに来るところだろう。

「兄さんも部活に入ればいいのに」

 拓斗がティンパニを調律しながらぼやく。馬鹿、こういうのは外から見た方が面白いんだよ。

 

 

「さあ直樹氏! 僕のために思う存分演奏してくれたまえ!」

「気持ち悪いわ!」

「神楽さん、もう少しです。頑張って下さい」

「たきつけんな!!」

 帰る途中で神楽を見かけた。今日も意味のわからないことを言っているようだ。そういえばあの従者みたいな女の子はこの前正式に部活に入ったらしい。

 他の奴らより一足先に客席へ。これでいい。主役は狭山に譲るさ。精々面白い劇を見せてくれ。

「ただいまー」

「何こんな半端な時間に帰ってきてやがんだ俺様と千歌のティータイムを返せクソガキィィィ!!」

「ンギャアァァァァァァァ!!」

 オレの日常はこうして過ぎていく。

 ……泣いていいか?


というわけで聴衆役の一日でした。

毎日更新でないと全くアクセス数が伸びない所にこの作品のポテンシャルの低さを感じますね。


桜乃は実はかなり書きにくいキャラクターです。馬鹿の中に隠れた聡明さ、とでも言うのでしょうか、それを表現するのにはまだまだ力不足なようです。


彼の兄弟姉妹は本編でもその内出てくると思います。ちなみに弟の拓斗は辻やすみれと同じ学年です。


次回は恐らく退魔士様のお話です。

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