気分屋様はかく過ごせり
頑張って週2でいくことにしました。
すぐに挫折するかもしれません。
今回は藤阪のお話です。
―――『ピピピピピピピピ!!』
「んん……?」
朝7時を少し過ぎた時間。枕元に置いてあるあたしの携帯電話から着信アラームが鳴り響く。
「煩いわね……」
布団に入ったまま携帯を手繰り寄せ、確認する。メールだった。
『朝だぞ。遅刻するなよ』
差出人は、あいつ。あたしでも何だかよく分からない内に結ばれた約束だけど、何のかんのいって結局毎日送ってくれている。
「……眠い」
しかし所詮は電波で送られてくる単なるディスプレイ。あたしの睡魔はあっさりとそれを撃退し、二度寝を決めこんだ。
「……いー……さよー」
コンコン。
部屋のドアをノックする音が聞こえる。
あたしはイサヨなんて名前じゃない。きっと他の誰かだろう。
「……葵ー、朝よー」
……やっぱりあたしのことらしい。それならそうと早く言って欲しかった。
「……って!」
――ガバッ!
ベッドから跳ね起きる。先程放り投げた携帯を引っ付かんで時刻を確認。
―――8時17分。
「……なんでもっと早く起こしてくれないのよー!?」
「だって葵、何度呼んでも起きないんだもの」
「起こす努力をしなさぁぁい!!」
あたしの学校は8時30分から朝のHRが始まる。といっても教師どもが教室に来るのは大体その2〜3分後だ。そしてあたしの家から学校までは走って10分。支度を最速で済ませるのに5分くらいかかるので、なんとか間に合う時間なのだ。
―――だが。
「はい、藤阪さん、遅刻です」
「なんであんたはこんな時間からいるのよ!? 他の連中見習って予鈴鳴ってから教員室出なさいよね!?」
「他の方はベテランですから。私は新参者なのでこうでもしないと追い付けないんですよ」
何を言うか。20年前から教壇の上に立っていたのは知ってるんだぞ。
「お前、俺がメール送っても結局遅刻ばっかりじゃないか」
「煩いわね! 二度寝しちゃったんだからしょうがないじゃない!」
「威張るな」
「いやー、朝から元気だねぇー」
ふらりと現れたのは響。どういう意味よ。
「いやいや、いいんじゃないの? こういうのも」
「どういう意味だ」
「別に意味なんてなくてもいいだろ」
「いや、よくないからな」
あたしの目の前で楽しそうに馬鹿な話をする2人。こうしていると随分前から知り合いだったみたいだけど、実は響はあたしとの付き合いの方が長い。あたしとは小学校から一緒。直樹とは高校になって初めて出会っている。
「おい藤阪、聞いてるのか?」
「聞いてるわよ馬鹿」
「……酷くね?」
何やら響があたしに話しかけていたみたいだけど無視。どうせろくなことではない。
「やっぱりカツ丼は最高だよな!」
あたしたち3人の昼休みは基本的に学食だ。響は毎日飽きずにカツ丼しか頼まない。体に悪いわよ。
「放っとけ。どうせ蛋白質以外の栄養素は摂取したところで活用されないだろ」
それもそうね。
「お前ら、何かひどくねぇ?」
「気のせいだ」
「気のせいよ」
「……泣いていいっすか?」
放課後。部活の時間だ。
「藤阪、部活だぞ」
直樹が呼びに来る。来るのだけど、体が動かない。だから勝手に言ってきて。
「……殴るぞ」
わかったわよ。行けばいいんでしょ。
「……貴方たちも、いい加減にして欲しいわね」
部活に来てしょっぱなから不愉快な顔に出会ってしまった。
「いつもいつも煩いわね。10分くらい遅れたからって何か重大な損失でもあるわけ? 株取引じゃあるまいし」
「そうね。その10分貴女たちがいないのを後輩が見てどう感じるかも分からない人には難し過ぎたかしら」
「あー……あれだ、確かに遅れたことは遅れたが、その分今からの練習で取り戻すんだ。な?」
直樹がかなり苦しい取り繕いをする。
「ふう……いい加減、最高学年としての自覚を持って欲しいわね」
馬鹿馬鹿しいとしか思えない捨て台詞を残して静流は自分の練習に戻っていった。
「ほんとに腹が立つわねあの女」
昔からそうなのだ。幼稚園時代に仲良く遊んでいた自分を殴りに行きたい。腐れ縁にも程がある。
「まあ、松崎も悪気があって言ってるわけじゃないだろ」
こいつは人の悪口に乗るということを知らない。誰の悪口が出てもそれをフォローするのだ。
そこが良いところでもあるのだけれど、こういうときには苛々する。
「……あんた、随分静流に甘くない?」
「……そうか? そうでもないだろ」
最初の沈黙はなんなんだ。
「ですよねー。センパイは部長相手には全くもってヘタレです」
「……辻。その甚だ不名誉な台詞を俺の鉄拳が飛ぶ前に修正しろ」
横からひょっこり満月が顔を出す。話が分かるわね。
「そうですね。部長だけじゃなくて同じクラスの碧海さんなんかにも優しーく接してますねー」
「……あんた、それだけ聞くとかなり最悪な性格に見えるわね」
「煩い。不愉快な誤解に過ぎん」
……でも確かに静流にはともかく碧海には優しい気がする。中学からの付き合いらしいし……。
「私には乱暴ですよねー。ひょっとして好きな子はいじめたくなるタイプですか?」
「なんだ? それは宣戦布告と見なしていいのか?」
……だがむしろ一番危険なのはこの後輩かもしれない。勘だが。
「やあやあ直樹氏! 今日も女性に囲まれて幸せそうだね!」
「……プレイボーイですか」
「これが幸せそうに見えるなら今すぐ眼科に行け。人を不名誉な言葉で形容するな。帰れと言いたいが市原は部員だからギリギリ堪えて神楽、お前は今すぐ立ち去れ」
「はっはっは! 直樹氏は好きな子には意地悪をするタイプなんだろう!? 僕ならいつでも大歓迎だよ!?」
「殺すぞ」
……そっち方面ってことは……ないわよね? ……たぶん。
「お姉ちゃん」
「すみれ、帰るわよ」
「はーい」
部活が終わって家に帰る。妹のすみれも一緒だ。よせと言ったのに同じ高校に来て同じ部活に入ったのが1年前。それから部活のある日は一緒に帰るようになった。
「ただいまー!」
「ただいま」
上がすみれ、下が私だ。私はそんな気持ち悪いテンションで挨拶したりはしない。
「お帰りなさい」
「お帰り」
リビングには母さんと父さんがいる。当たり前の光景だけど、家に帰っても誰もいない人だっているのだ。それを思うと邪険にすることなんて出来ない。
「葵、狭山君とはどうなの?」
「何ぃ!? やややっぱりこの前夕飯に呼んだのはそういうことだったのかぁぁぁ!?」
「お姉ちゃんねー、今日も狭山先輩と一緒に部活来てたよー」
「煩い!! 食事は黙って食べなさい!!」
……いやまあ、時にはあるけれども。
「お休みなさい」
「はい、お休みなさい」
「お休み」
11時過ぎ。お風呂に入って寝ることにする。ちなみにすみれは9時頃には眠ってしまう。お子様め。
あたしの一日はこうして過ぎていく。普通の高校生もきっとこんなもんだろう。
そう、非日常なんてありえないのだ。今日も世界は平和である。
ということで気分屋様のお話でした。
妹は藤崎すみれ。高2で辻さんと友達です。
もう一人高2でこの2人とトリオを組んでいる人がいるのですが、そのうち出てくるでしょう。
一応彼女は自分の気持ちになんとなーく気付いております。
気付いた上で今の関係を望んでいる、といったところでしょうか。
次回は聴衆役のお話になると思います。




