気分屋様はかく出会えり
どうもこんにちは。ガラスの靴です。
あの出会いから3年後。
再び主人公にお人好しフラグが。
という訳で藤阪さんとの出会い、お楽しみ下さい。
「ここね………」
中学3年の2月初め、あたしはとある高校の試験会場へやってきていた。
この高校を選んだのに深い理由はない。ただ大学への推薦があるエスカレータ式の学校なら多少楽が出来ると思ったからだ。
その分競争倍率はだいぶ高いようだけど、人間やってできない事はない。落ちたら落ちたで他の高校へ行けばいいのだ。
「よ、藤阪」
「響、あんたもここ受けるの?」
いつの間にかあたしの隣に響が並んでいた。中学で知り合ってからはよく行動を共にしている。
「そりゃあこの町一番の進学校だしな。受けといて損はないだろ」
確かにね。あたしも大体同じ理由よ。
「えーと……受付はあそこみたいね。行きましょ」
「おう。……うー、さぶ……」
受付で受験票を見せると、本人確認を済ませた後に受験する教室が書いてある札を渡された。
「お、ここでお別れか」
そうみたいね。
「それじゃ、お互い頑張ろうぜ!」
あたしが落ちてあんたが受かったら殺しに行くから。
――カツ、カツ。
雪でも降りそうな曇り空が窓から覗く廊下にあたしの足音だけが響く。
「……少し早く来すぎたかしら。あたしらしくもない」
本来行列とか待機とかそういうのが大嫌いなのだ。このままだと教室で何分も待つ羽目になりそうね。
「……受験票見せた後でも外に出れるのかしら」
ひとまず自分の受ける教室くらい見ておこう。
そう思って札に書かれているのと同じ教室のドアを開ける。
――ガラッ!
「…………」
教室にはコートを着た男が1人座っているだけで、他には誰もいなかった。
「こりゃあ本格的に早すぎたわね……」
「…………」
その男はこちらをちらっと一瞥すると再び持っている参考書に目線を戻した。淡白な奴ね。
「今の時間は……げ、まだ1時間以上あるじゃない」
もう駄目だ。どこかで時間を潰そう。おそらく響も今頃暇を持て余しているころだろう。
流石に試験直前の詰め込みをしている人の目の前で電話をするのは躊躇われたので廊下に出て電話することにした。
「試験会場では携帯電話は禁止だぞ」
「は?」
ドアを開けながら携帯を取り出したあたしにその男が注意する。相変わらず目線は参考書に注がれたままだ。
「見つかったら面倒だろ。下手したら受験資格が消えるぞ」
「別にあんたに注意されるいわれはないわよ。見つかったらその時はその時でなんとかするわ」
「そうかい。なら別に止めはせん」
なんだか不愉快な男だ。何というか、雰囲気が。
「あんたこそ、こんな早くから来て、カンニングの準備でもするつもり?」
「そんな馬鹿なことやってる暇があったら勉強してる」
「あ、そ。それじゃあ頑張って」
「だから廊下で電話をするなと言うに」
再び教室を出ようとするあたしをまたしてもその男が引き止める。しつこいっての。
「あのね、まだ試験開始まで1時間以上あるのよ? そんな時に電話しようがなにしようが影響ないと思わない?」
「向こうは思うからそう注意してるんだろ。ここで電話してもいいから廊下に出るのはやめろ」
これは意外だ。参考書しか見ていないが、別に本気で最後の抵抗をしているわけではないらしい。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
響の携帯に電話を掛ける。
――プルルルルル。
『――おかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所にあるか、電源が切られています。お掛け直し下さい――』
……あの馬鹿。こんなときだけ真面目ぶって電源を切っていやがる。
「はぁ〜……」
「出なかったのか」
それ以前の問題よ。もういいわ。さっさと自分の席について一眠りでもしよう。
「……まだ何か用でもあるのか」
「……ここがあたしの席なのよ」
受験票の席番号はなんとそいつのすぐ後ろだった。偶然にしては出来すぎね。
「……そうだ。あんた、のど渇いてない?」
「かなり嫌な予感がするからはっきり言っておくが、一度中に入ったら学校の外には出れんぞ」
「まあまあ。なんとかなるって。それじゃあ、行きましょうか」
「待て、俺は外に行くなんて一言も言ってない」
ちっ、つまらん男だ。
「しょうがないわね。じゃあ下のテラスでいいわよ。自販機くらいあるでしょ。
「最初からそこでいいだろ……」
「つべこべ言わない。とっとと行く!」
「だから何で俺までついていかなきゃならんのだ」
と言いつつも諦めたような表情を浮かべて席を立つ。意外と人付き合い良いのね。
「はあー、身も心も温まるわー……」
「100円のコーヒーくらいでよくそんなに満足そうな笑みを浮かべられるな……」
何よ、あんたこそ番茶なんて爺婆みたいなもん飲んでるじゃない。
「人の嗜好にけちをつけるな。これでも充分温まる」
ほれみろ。自分だって温まってるじゃない。
「む……」
なんとなく勝った気分になってその男を見ていると、ポケットに英単語張が入っているのに気付いた。
「なに? あんたまだそんな悪あがきを続ける気?」
「それは全国の受験生に失礼だろ……。今ここで見た単語が試験に出る可能性だってあるじゃないか」
そんなもんに賭けるくらいなら鉛筆転がす練習でもしてなさい。
「そっちの方が訳分からん。全く……」
と言いながらもそれを開く気配がない。あたしがいるからだろうか?
「……よし、じゃああたしが試験に出る単語を予想してあげようじゃない」
「……は?」
だから、その単語帳から試験に出そうな単語をピックアップしてやろうと言うのだ。
「そんなことしてもらうくらいならいっそ最初から全部やって欲しいんだが」
「ごちゃごちゃ言わない! ほら、貸しなさい!」
男の単語帳には一つ一つの単語にチェックと小さくメモがしてあった。かなり勉強しているようだ。
「英語なんて一言語の分際で優遇されすぎだと思わない?」
「ロシア語を覚えろと言われるよりはマシだと思うがな」
ペラペラと単語帳をめくりながら適当な会話を交わす。むむ、影響のonなんて初めて聞いたぞ。
「よし、それじゃああたしの言った単語がひとつ試験に出るたびに100円貰うわよ!」
「おい、それって多く言えば言うほどこっちが不利じゃないか」
「まずは……persuade!」
「……人を説得して〜させる」
「それじゃあ、available!」
「利用できる」
「次は――」
――キーンコーンカーンコーン。
「なんだ、予鈴鳴るんじゃない」
「呑気なこと言ってる場合か!? あと5分で試験始まるんだぞ!!」
「あんただって割とのんびり答えてたじゃない」
「お前が時間把握してると思ったんだよ! いいから急げ!」
そのまま単語の問題を出していたらいつの間にか1時間経っていたようで、2人で慌てて教室へ飛び込んだ。
「……おや、間に合ったみたいですね。始まってしまっては手遅れなんですから、気を付けて下さい」
煩いわね。さっさと問題配りなさいよ。
「それでは問題を配ります。受験者の方は問題冊子の表紙に書かれている注意事項をよく読んで――」
「それで、自信はどうよ?」
「まあまあね。受かってれば受かってるでしょ。響、あんたは?」
「オレもそんなところだ。ほら、見に行こうぜ」
試験の2日後、あたしは合格発表を見るために再びあの高校へ訪れていた。
「えーと、318……318……」
掲示板の周りには落とした飴に群がる蟻のように人が押し寄せていた。動きにくいったらありゃしない。
「だぁー! また見失っちゃったじゃない! あるのかないのかはっきりしないよ!」
「318ならあったぞ」
「はい?」
横から不意に声がしたので首をぐるんと回転させると、そこにはあの男がいた。
「なによ、嘘だったら承知しないわよ」
「試験にお前の言った単語が出まくったせめてものお礼だ。ここで嘘を言っても後で電車のホームから突き落とされるだけだしな」
それはそうだ。お礼は試験の後にファーストフードを奢らせたので終わったと思っていたんだけど。
「えーと、あ、ほんとだ。318番あった」
「お前、少しは人の言葉も信じろよ……」
あたしは自分の目で見たものしか信じないの。
「そうかい。大した自信だ」
「それで、あんたは受かったの?」
「ああ。お前のおかげかもな」
見ると、確かにあたしの番号の1つ前も同じ掲示板に書いてある。よかったじゃない。
「なんか軽いな……。合格者はあっちで入学手続きの書類を受け取るんだぞ」
それじゃあたしの分もよろしく。
「本人以外じゃ無理に決まってるだろ。大人しく自分で行け」
面倒くさいわね。
「おーい! 藤阪ー! 受かってたかー!?」
受かってたわよ。そんな大声で訊いて落ちてたらどうするつもりだったんだ。
「お? そっちの男は? 中学にそんな奴いたか?」
「ああ、こいつは――」
そういえば、まだ名前も訊いていなかった。
「あんた、名前なんていうの?」
「今さらだな……。狭山だ」
名字なんて後だっていいのよ。下の名前を聞いてるの。
「……狭山直樹」
「そう。あたしは藤阪葵。よろしくね、直樹」
「……で、その狭山ってのは、なんなんだ?」
「ああ。よろしく」
「オーイ……」
こうして、あたしの高校生活の第一歩が始まった。
高校受験の場があんな感じでいいのかよくは分かりませんが、まあいいんじゃないでしょうか。
というわけで藤阪さんとの出会いでした。
桜乃の扱いがおかしいのは気のせいです。
次回は後輩様との出会いです。




