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妖狐様はかく過ごせり

下手したら1ヶ月ぶりくらいの更新です。

本編をごらんになっている方には何故1ヶ月もほったらかしにしておいたのかなんとなく察しがついてしまいそうですが、なんにしても申し訳ございませんでした。


では、とある妖狐の冒険をご覧下さい。

「玉藻さーん、朝ですよー」

「うにゅう……」

 小夜の声が聞こえる。

――ピピピピピピピピピピ……!!

 そのしばらくあとにあやつの部屋から目覚まし時計の音。

「……もうこんな時間なのか……」

 朝は眠い。これは紛れもない真実である。

「なぜわらわまで起きなければならないのじゃ……」

 偉大なる妖狐、玉藻様の朝はこうして始まるのじゃ。

 

 

「玉藻さん、お皿を出してください」

「うむ。深皿でよいのか?」

「はい」

 ばか2人が机について親の帰りをまつ雛鳥のようにぼーっとしているのに対し、わらわだけが小夜の手伝いをしておる。やはり人間や死神には真似できんことなのじゃな。

「直樹さん、朝ごはんが出来ましたよ」

「ああ。頂きます」

「はい。召し上がれ」

「…………」

 ばかを見ている時の小夜は妙に嬉しそうじゃ。そんなに面白い顔には思えんのじゃが。

「玉藻、どうした」

「なんでもないぞ」

 死神も何のために学校とやらに行くのかよくわからんな。

 

 

「それでは玉藻さん、いってきます」

「行ってきます」

「行ってくる」

 うむ。行ってくるがよい。

 玄関の扉が閉まる。

 こうなったらもうあとはわらわの時間じゃ。居間に戻っててれびをつける。

『――さて、今月起こった殺人事件ですが、容疑者は新たに証拠隠滅のため部屋の指紋をふき取っていたことを供述しました――』

 てれびではいつも似たような事件が起きておる。わらわは人間どもにいつか復讐をするために、今はひたすら人間の文化を学ぶのじゃ。

 適当にちゃんねるをいじくる。

『――三鷹さん、はい、あーん』

『よせよ、照れるじゃないか』

『ははは、中野さんも三鷹も、随分見せ付けてくれるじゃないか』

『いやだわ四谷さん、そんなこと言って』

『いやー、羨ましいね』

『お前もそのうち相手が見つかるさ――』

 てれびでは男と女が同じ弁当でごはんを食べていた。どうやらそういう食べ方が羨ましいものらしい。

「今度小夜にすすめてみるかの…」

 さらにちゃんねるを変える。

『――見て下さいこの透き通っただし汁! 美味しそうですねぇーー!!』

「…………」

 次のちゃんねるでは近頃話題らしいうどん屋のりぽーとをしていた。

『ほらこの油揚げ! だし汁が染みこんでいてジューシーな味わいです!』

「…………!!」

『店長の斉藤さん。この油揚げはどのように作っているんですか?』

『はい。北海道産の大豆を使って、秘伝の作り方で手作りをしているんです』

「…………」

『なるほど! それが美味しさの秘訣なんですね! 以上、いま話題のきつねうどんでしたー!』

「……よし」

 ばかの部屋から服を引っ張り出す。

 帽子をかぶり、念のため笛も持っていくとしよう。

「……尻尾が入らんのう……」

 ……ま、なんとかなるじゃろ。

「待っておれきつねうどん! 今わらわがじっくりと味わいにいってやる!」

 

 

――ガチャ……。

「…………」

 玄関の扉をそっと開け、外に人がいないかどうか確認する。

「でさー、アイツったらそんなこと言ったのよー!」

「えー!? マジー!? 超ウケるー!」

「……っ!!」

――バタン!

 急いで扉を閉め、人間が通り過ぎるのを待つ。

 人間どもに無用な恐怖を与えるのもどうかと思うのじゃ。断じてわらわが恐れているわけではない。

「むむ……」

 もう一度、確認。

「……今度は誰もおらんな」

 帽子が変になっていないか確認して、素早く外へ出た。

「……よ、よし。今行くぞきつねうどん」

 一歩踏み出しさえすれば、あとは簡単じゃ。そのままもう一歩踏み出せばよい。

 わらわはうどん屋に向けて意気揚々と歩き出した。

 

 

「……どうすればいいのじゃ……」

 なんとなく歩いていくと、人がたくさんいる場所へ着いた。それは別に構わぬ。問題なのは、

「うどん屋はどこにあるのじゃ……」

 そう、どこにいけばきつねうどんを食べられるのかまったくわからないのじゃ。

「うぅ……」

 さっきからじろじろと人間どもに見られている気がする。どこか変だっただろうか。

「ねえキミ、撮影か何か?」

「ん? なんじゃお主は」

 途方に暮れていると、変な男が話しかけてきた。まさかこやつが知っているのか。

「……あ、あっはっは、随分変な話し方だね。キャラ作りかな?」

「…………?」

 さっきからこの男が何を言っているのかさっぱりわからない。何の話をしているのじゃ。

「それでね、ボクはその先のお店のスカウトをやってるんだけど、キミかわいいよね。よかったらウチで働いてみない?」

「……いやじゃ」

 このわらわが働くなどと、冗談もいいところじゃ。

「まあまあそんなこと言わずに。ね、やってみない?」

「は、離せ!」

「ほら、こんなダサい帽子なんか取っちゃって――」

 止める前に、帽子が取られてしまった。周りの人間どもに、耳が見られる。

「――みみ?」

「……なにをするかこの無礼者めぇぇ!!」

「ええぇぇぇ!?」

 笛で男を全力で殴りつけ、その場から離れる。目立ってしまった。このままではわらわが妖狐であることがばれてしまう。

 

 

「……ハァ……ハァ……」

 気付けば小さな家の中に逃げ込んでいた。ばかの家よりも小汚いの。

「……なんだ? 客か?」

「のおぉぉぉ!? なんなのじゃお主は!?」

 突然奥からおやじが現れた。ここはおやじのすみかだったのか。

「なんでぇ、客じゃねえのかい。ま、せっかく来たんだ。座んな」

「…………?」

 椅子の1つに腰掛けると、おやじは家の奥に行ってなにかを始めた。直後、良い香りが漂ってくる。

「……この香りは……!」

「……今朝、俺の馬鹿息子がテレビに出てな。……まったく得意気に『秘伝の』なんて言っちまって。ずいぶん嬉しそうにしゃべってやがったな。ほれ、食え」

 目の前に出されたのはまさしくあのきつねうどんであった。

「……食べても良いのか?」

「いいっつってんだろ。だまって食え」

「……う、うむ」

 油揚げを、一口。

「……う、うまいのじゃーーー!!」

「……そりゃ良かった。今度は馬鹿息子の店で食ってやんな。少しは喜ぶだろうよ」

 夢中で食べ続け、気付いたときには器は空になっていた。

「あ……」

 今まで忘れていた。確かものを食べるのには『お金』がいるはずじゃ。わらわの手元にはまったくない。

「……あ、あの……」

「……なあに、お代は結構。葉っぱ出されたんじゃたまらねえからな」

「……?」

「……なんだ、ありゃ迷信だったのか。まあいいさ。とっとと帰んな」

「え、えーと……ごちそう、さまでした」

「……おう」

 

 

「玉藻ーーー!!」

「痛いわーーー!! いきなり何をするんじゃーーー!?」

「いきなりもなにもあるかーーー!! なんで俺の部屋に衣服がこんなに散乱してるんだよ!!」

「そ、それは……」

「ま、まあまあ直樹さん。玉藻さんもきっとわざとやったわけじゃ……」

「……まったく……」

 怒りっぽいやつめ。かるしうむが足りないからそうなるのじゃ。

「そうそう玉藻さん。今日学校の近くにうどん屋さんがオープンしたんですよ」

「そうなのか?」

「巷で大人気のチェーン店らしくてな。社長はとあるうどん屋の息子だったが、売り上げの悪い父親の店に愛想を尽くして家を飛び出していったらしい」

 ふむ。

「そういや、なんて言ってたっけ。学校前の店の店長がチェーンの社長だっけか。ふざけた会社だ」

「なにかあるのだろうな。秘伝の油揚げ、あれも社長の父親の店の作り方らしい」

「それで、ていくあうと? で、買ってきたんです! はい!」

「なに! た、食べていいのか?」

「もちろんです! いま準備しますからね」

 小夜たちが買ってきたきつねうどんの香りは、不思議とあの店のきつねうどんに似ていた。


お店の油揚げって仕入れてるんでしょうか?

どうも、ガラスの靴です。

死神といい妖狐といい、ただ一日をリポートしてるだけじゃ半分いかないこの退屈軍団。


次回はお嬢様のわりと暇な一日をお送りします。

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