二話目
「久しぶりだね。ハル、エリシア。」
「兄さん、帰っていたのか。」
先に発言をしたのは、ハルの兄、アレクだ。この国の宰相である。彼は、最近まで隣国との和平交渉するため1ヶ月ほど、留守であった。宰相という役割だけではなく、陛下の秘書の仕事もしている。
「昨日の夜、帰ってきたんだよ。疲れた。」
「だから、今日はゆっくり休めといっているだろう。」
「帰ったら、すぐに報告しろと言ったのは誰ですか?陛下。」
うっと、陛下が口をつまらせる。
陛下とアレクは、同い年であり、幼い頃から一緒にいたせいか幼馴染みのような関係を思わせる。
「まぁ、一通り報告はしたのでこれで下がらせて頂きます。」
「ああ、ご苦労だったな。」
アレクが、陛下に一礼をし、扉の側にいる私達の元へ歩いてきた。アレクはハルの頭をくしゃっと撫でた後、私の頭を優しく撫でて「後で俺の部屋においで。」と微笑みながら言った。ハルに聞こえていたらしく、ぐりんっと首を回しアレクを睨んだ。それに、気づいているのかいないのか、アレクは口に笑みを含んだまま、部屋から出ていった。ハルは、睨んでいた相手がいなくなって、なぜか私を睨んできた。
「(な、何で!?)」私は、ぎょっとして俯いてしまった。
「ハル、こちらに来てくれ。」陛下が、ハルを呼んだ。
「(助かった。)」私は、ほっとした。
「来月、リリーの誕生日だろう。盛大な誕生日会にするつもりだから、騎士団に護衛をしっかりと頼む。後、騎士団の宣誓をお前にしてもらうことにした。」
「え。団長ではないのですか?」
「イルも今年はハルに任すと言っていた。」
「・・・。承知いたしました。」
「頼んだぞ。」
「はい。」
ハルは、陛下に一礼をし、扉へ歩いてきた。私も一礼をし、部屋を出た。ハルは、宣誓を任すと言われてから、緊張が走った表情をしていたが、今は元に戻っている。
「これから、どうするんだ?」ハルが唐突に私に尋ねた。
「とりあえず、宰相のところへ行こうと思う。」
それを聞いてハルの耳が、ぴくっと動いた。
「俺も行こう。」
「えっ!?」
「俺も行く。」
ハルは、すたすたと歩き始めた。置いてかれる勢いで歩き始めたハルに、私は驚く間もなく急いで後を追った。
アレクの部屋の前まで行き、ハルがドアを2回ノックをすると、中から「入っておいで~。」と声がした。
ハルは、何も言わず扉を開けた。私は、ぎょっとした。
「ん?何だ、ハルも来たの?」
中には、シャワーを浴びたのか、タオルを腰に巻いただけのアレクの姿があった。宰相という、デスクワークなので運動はしていないのかと思ったら、騎士並みに体が出来上がっている。色気がすごい・・・。私は、赤面し視線をさ迷わせた。
「俺が来たらまずいのか?」ハルは、低い声で尋ねた。
「何言ってんの?ハル。大歓迎だよ。」にこにこしてアレクが答えた。
「エリシア。そんなとこにいないで、こっちにおいで。」
「ふ、服を着てください!」
「あはは。真っ赤だよ。エリシアはかわいいな~。」
私は、更に顔を赤くした。「っツ。」
すると、ハルが私の前に立ってアレクから隠した。
「兄さん・・・。」ハルの声が低くなった。
「はいはい。分かったって。」アレクは肩をすくめて、部屋の奥にある寝室に行った。
しばらくすると、白いシャツと黒いパンツ姿のアレクが現れた。さっきは、正装をしていたのでこんなラフな格好をしていると、ドキッとする。なにせ、ハルとアレクの容姿は似ているのだ。
「お待たせ~。あ!紅茶もらおうか。」
「あ。いえ、お構い無く。それで・・・、用事は何だったのですか?」
「ん~。まあまあ、後でね。」アレクはいたずらっ子のような笑みを見せた。
部屋の中心にある3人掛けのソファーが、2脚と1人掛けのイスが2脚あった。なぜか、3人掛けのソファーに左、ハル。真ん中、私。右、アレクといった席順になる。
「あ、あの狭くないですか?」
「ん?全然大丈夫だよ~。」
3人掛けと言っても、4人座れるほどの幅はある。しかし、なぜこの定位置なのか。私は、両方に挟まれ落ち着かなくなった。メイドさんが、持ってきてくれた紅茶を一口飲む。
「1ヶ月しか、会ってなかったのにますます綺麗になったね。エリシア。」
ぶっと私は、紅茶を吐き出しむせた。
「な、ゴホッ。突然、何ですか!?ゴホッ。」
「ん?俺は思ったことを言っただけだよ。」
アレクが、私の頬に手を伸ばす。すると、ハルが横からアレクの手を弾いた。
「いった~。何すんの。ハル。」
「悪い。勝手に手が動いた。」
「手が勝手に動くわけないだろう?」
「動いたんだ。」
両方、退かないこの空気に私は、たまりかねて立ち上がった。
「宰相、用事とは何ですか?私、この後町に降りに行かなければならないんです。」
「町?ああ。陛下の命令か・・・。俺も行こうかな!」
「えっ!?何をおっしゃっているんですか?帰ってきたばかりなんですから、ゆっくり体を休めてください!」
「大丈夫大丈夫~。今日は暇だからさ。」
「でも・・・。」私は、困ったなと思った。
「兄さんが行く必要ないよ。俺が行く。」
「えっ!?」アレクと私の声が重なった。
「俺と行くのは嫌か?エリシア。」
「そ、そんなことはないけど・・・。」2人ともどうしたのだろうと思った。
「じゃあ、行くぞ。」ハルが、私の腕をつかみ強引にアレクの部屋から連れ出した。
アレクは、ぽかんとしたままこちらを見ていた。挨拶をする間もなく、逃げるように出た。
しばらくそのまま歩いていたが、やがてハルが私の腕を放した。
「・・・。すまない。」ハルが突然謝った。
「え。う、うん。」私は、歯切れ悪く答えた。
「強引に連れ出して・・・。腕痛くなかった?」
「大丈夫・・・。」
それから、沈黙が続いてしまったが、
「あ、あの。私の仕事だから1人で大丈夫。副団長も稽古場に戻っていいよ。」
「もう夕方だから、稽古ももうすぐ終わるだろう。団長も戻っているだろうし、平気だ。」
ハルと2人きりになるなんて、緊張で仕事にならない。どうやって、言い訳しようか考えていたところ、
「それとも・・・俺じゃ頼りにならないか?」ハルが眉を下げて、弱々しく言う。
「そ、そんなことない!」私は叫んだ。ハルほど頼りになる人は私の中では、たった1人だけだ。
ハルは、眉を下げたまま笑った。私は、ドキッとしその笑顔に見惚れてしまった。あまりに見つめすぎたためか、ハルが訝しげにしたので、はっとなり俯いてしまった。
「じゃあ、着替えて王宮の門に集合でいいか?」
「うん。」私はうなずいた。
それから、一旦別れて準備してから王宮の門へと向かった。
高鳴る胸の音を響かせながら。




