一話目
私は、好きな人をただ見つめることしかできない。
どんなに恋い焦がれていても・・・。
イシャーナ国ーこの国の陛下、レオン・シルビアに仕えている私は、エリシア・リングランドという。
王宮の総合管理人という職に就いている。主に、王宮内の全ての管理を任されているが、一部は陛下によっての雑用もある。しかし、やりがいは感じており、苦ではない。
今日も、朝から陛下の元へと赴き、陛下の末の妹君、リリー様への誕生日会の贈り物について話し合っていた。
「陛下、来月にはリリー様のお誕生日会です。贈り物はいかがされますか?」
「装飾品でいいんじゃないか?」
「何になさいますか?」
「ネックレスは?リリーと同じ目の色。エメラルドグリーンで。」
「かしこまりました。」
リリー様は、来月15歳になられる。陛下は25歳であられるが、お二人は大変仲がいい。私は、兄弟がいないのでちょっとうらやましいが・・・。
「エリシア。今日は町に行って、民の様子を見に行ってくれ。あぁ。その前にイルを呼んでくれ。いなかったら、ハルを連れてきてくれ。まぁ、多分イルはエリーの所に行ってると思うが・・・。」
イルとは、この国の騎手団長だ。見た目は上背があり、屈強な出で立ちだが、中身は愛妻家で、面倒見が良く、心優しい人物だ。愛妻家すぎるのが、たまに傷だが。
2人には子供がいないので、私がこの国に来たとき2人からの愛情を一心に受け、育ててくれたと言っても過言ではない。
ハルとは、この国の騎手副団長だ。まだ19歳と若いが、どのような状況でも決して冷静さを失わず、人をまとめる力がある。黒髪で深い藍色の目で、均整のとれた体をしている。
そして、私が密かに恋している男だ。
「承知いたしました。」
私は、陛下に一礼をし、部屋を出た。
さっそく、私は、騎士たちが日々稽古に励んでいる稽古場へと向かった。稽古場に近づくにつれ、男達の怒声と、木刀の「バンッ」という音が聞こえてきた。稽古場に着いたとき、すぐにイルを探したが、やはりいなかった。
「(エリーの所だな。)」
エリーは王宮の家政婦長をしているので、騎士団長のイルと同じく忙しい身であるのだが、イルはお構いなしだ。自分の仕事を後回しにして、エリーに会いたくなったら、すぐ行動に移す。それほど、エリーを愛していると言おうか。
私は、仕方なくハルを探した。本当は会いたくないのだが・・・。
その時、一際目立つ男達が木刀でやりあっていた。一人は、第3番隊隊長ルカだ。彼は、非常に気さくで誰とでも平等に接する。少し距離が近づきすぎるのが欠点だが。たれ目で空色の瞳をしており、金髪の短髪である。
そして、もう一人はハルだ。彼らは、騎士団の中でも1、2を争う強者だ。彼らのやりあいを見ようと、周りの騎士達も手を止めて見入っている。
若干、ハルの方が押されぎみだが、ルカが脇を開けた隙を見逃さず、立場が逆転した。
「勝負あったな。」
「あー。まいった。降参だ。」
座り込んでいるルカに、ハルが左手を差しのべた。ルカがその手を取り、立ち上がる。
「お前は、すぐに脇が開く癖を直せ。」
「仕方ないだろ~!?開いちゃうもんは開いちゃうんだし。」
と、なんやかんや言い合いをしていた2人だが、ふいにルカがこちらを見た。
「あーー!!エリシアだーー!!」
と、同時にこちらに向かってルカが走ってきて、私に抱きついてきた。
「ちょっ!離せ!」
「ここに来るの久しぶりじゃん!何!?俺に会いに来たの?
」
「違うよ!ちょっ!いいから、離せ!」
私は、抵抗をしたが、ルカは更に力を込めて抱きついてくる。
その時、ルカの背後から手が伸び、ルカと私をベリッとはがした。
「ちょっとー、ハル。エリシアを堪能したいんだから、邪魔しないでよ。」
「・・・。ルカ、素振り2000本な。」
「えぇーー!俺、何も悪いことしてないじゃん!」
「いいからやれ。追加してほしいか。」
ハルは明らかにピリついている。その迫力にルカはうっとなり、すごすごと稽古に戻った。
「(ハル、疲れたのかな。)」私は、そんなことを思った。
ルカを見送ったハルが、ふいに私に目をやった。目が合うと、ドキッとし目を会わせられず俯いてしまった。
「君がここに来るとは珍しい。なにか用か?」
「あ・・・。団長に用があったけど、いないみたいだから・・・副団長に用ができた。陛下が呼んでいる。」
「・・・分かった。すぐに準備する。」
ハルは、回れ右をし、騎士舎の中に入っていった。ーー数分後、騎士舎の中から騎士服に着替えたハルが現れ、一緒に陛下の元へと向かった。
「・・・。」
「・・・。」
どちらとも無言で長い廊下を歩く。ハルは、私の2歩前を歩いている。何かを話さなければと思うが、言葉が出てこない。その広い背中を見ると、胸がギュッとなる。その胸にすがり付きたくなる。でも、ダメなんだ・・・。
陛下の部屋の前まで行くと、ハルが2回ノックをした。
「はい。どうぞー。」
中から落ち着いた男性の声が、聞こえた。
「失礼します。」
ハルがドアを開け、私を先に入るように促した。私は、それに素直に従った。
中には、机上にある書類をまとめている陛下と、ハルと容姿が似ているが、柔らかい雰囲気をまとった優しい目をした男性がこちらを見ていた。




