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信じた世界の、その先へ  作者: 琴乃
第一章 夢と現実
2/3

転校生は美少女

 ああ、今日も胸糞悪い夢を見た。


 そう思って俺は溜息を吐きながら、目元に流れる涙を拭う。


 俺の名前はエルバート、なんて名前ではなく田中浩平だ。

昔から前世の夢を見ては、魘されたりする。実際、幸せな夢も見る事はあるけれど、大半がシャロットという女性を看取る夢だった。


 初めは訳がわからなくて、幼い頃はよく母親に泣きつき、訳の分からない事を言っては困らせていたそうだ。


「浩平ー?早く起きなさい!」

「わかってるって!」


 階段から聞こえてくる母の声に返事をしながら、少し欠伸が漏れた。

洗面所へ行き、顔を洗い、歯を磨き、母と父に挨拶をして、部屋へ戻り、制服に袖を通し、髪をセットする。


「おはよ、兄ちゃん」

「おー寝癖すごいぞ」

「うん、知ってるー」


 階段を下りながら寝ぼけ眼を擦り、ボサボサの髪をしたショートパンツにTシャツ姿の妹、綾に挨拶をされ、いつも通りの会話をする。


「もう、綾は早く起きないんだから!浩平より先に起こしたのに!」

「ほらほら、小言は後でいいから、食事にしよう」


 少し怒った母と、そんな母を宥めて食事に着きたい父。

綾も椅子に座り、これで全員が揃った。

にこにこと笑いながら、それじゃあ頂きます、と母が言うと、俺たち三人も頂きます、と続いた。


 母の朝食は家庭の味という感じで、極普通のありふれた和食だし、

父もいつも通りテレビの占いを気にして見ているし、

綾はお腹が空いているのか、勢いよく食べていた。


 本当に女かよ、と内心呆れてしまうのもいつもの事だった。


「おい、腹壊すぞ」

「そしたら休めるからいいー」

「バカ言わないで」

「そうだぞ、学校には行きなさい」


 小言を言われるとは思っていなかったのか、バツの悪そうな顔をして嘘に決まってるじゃん、と言う綾。

そんな妹に父も母も本心じゃないのか、なんて言って笑っている。


 本当に普通だと思う。家庭の仲は良い方だろうけれど、どれもこれも平凡だ。


「兄ちゃんそういえば彼女とどうなの?」

「普通」

「何それつまんなーい」


 そう言いながら味噌汁を飲む綾に、お前はフラれたんだろ、と声を掛けると咽せ出した。


 父がそうなのか?と冷静に話し掛け、母が聞いてないわよと茶々を入れ出す。

ちょっと兄ちゃん!?と慌てる綾を無視して、御馳走様と言って席を立ち、食器を漬けに行く。


「何時に出るの?」

「どーせ彼女と行くからすぐでしょー」

「綾、行儀が悪いぞ、箸で浩平を指すな」


 後ろで煩い家族に8時に出る、と言って歯を磨きに行き、そのままリビングに置いておいた鞄を手に取った。

 リビングの扉を開き家族を見ながらいってきますと告げると、いってらっしゃい、と三つの声が揃って俺を送り出した。








「おはよう」


 玄関を出ると俺に声に掛けてきたのは、三原杏子みはらきょうこだった。

今時の子らしい茶髪で髪形はショートボムだとかで、切った時に可愛い?と聞いてきたのが懐かしい。

 そしてその髪型は明るい彼女によく似合っていた。


「おはよ、待った?」

「ううん!丁度来たとこだよ」

「そうか」


 当たり障りの無い会話をしながら、彼女である杏子と通学路を歩く。


「今日は3ヶ月記念日だねー、って覚えてた?」


 彼女とは、高校一年の時にクラスが一緒だった。

席がたまたま近かった事や元々人懐っこい彼女の性格もあってか仲良くなり、

そしてバレンタインに告白され、付き合いだした事をぼんやりと思い出す。


「覚えてるよ」

「ならよかった!ふふー学校早くいこっ」


 嬉しがる彼女を横目に見て俺はそんなメールが1ヶ月目も、2ヶ月目も来るんだから覚えるだろう、という言葉は飲み込んでおいた。

そして二人で歩きながら、また他愛の無い会話をして学校へと向かう。


 これが俺の日常だ。



 学校へ着くと、杏子とはすぐ別れる。

なんといってもクラスが別れてしまったのだから仕方無い。


 丁度この時間に来る生徒も多く、玄関で靴を履き替えながらクラスメイトに冷やかされつつ、杏子の教室の前まで来ると彼女はこちらを見上げた。


「早いなーもう着いちゃった」

「どうせ放課後には一緒に帰るだろ?」

「そうだけど!」


 少し拗ねたように言う彼女の頭を叩き、文句を言うな、と言うと更に拗ねた顔をする。


 どうしてそこまで俺の事が好きなのかわからないが、本人曰く稲妻が走ったのだそうだ。

 恋なんてわからない、いや、本当は前世の俺だったら知っていたのだろうけど。

まあ今はわからないんだよな、と思いつつ杏子にまたな、と声を掛け自分の教室へと向かった。





「よう、おはよう」

「おう、おはよ」


 教室に入り机に鞄を置くと、友達の高倉信也が挨拶をしてきた。

いつも通りの黒い短髪にくしゃっと崩れたシャツと上手く結べていないネクタイに苦笑する。


「今日も三原と登校か、仲良いよなお前ら」

「そうか?カップルなんてそんなもんだろ」

「嫌味か?」

「違う、お前もモテるんだから作ればいいだろ?」

「面倒だろう?」

「お前の方が嫌味だ」


 そんなバカなやり取りをしながら、そういえばさ、と高倉が言い出した。

変な顔で言うものだから、鬱陶しくて殴ってしまう。


「いて!殴る事ないだろう!?」

「煩いって、なに?」


 そう尋ねると、高倉はまたニヤニヤした顔で俺を見るとクラスを見て何か気づかないか?と言い出した。

 その言葉にクラスを眺めてみると、クラスメイトのほとんどが、どこか浮足立っていた。


「何かあるのか?自習とか?」

「それは確かに嬉しいな、って違う!転校生が来るらしい!」

「そうか」

「あっ酷いぞ!ちょっとは興味持て!なんでも美人だそうだ!」


 煩い高倉にほら、HR始まるから、と席へと戻すと同時にチャイムが鳴り担任が入ってくる。

クラスメイトはまだかまだかと視線をドアに向けていた。


「おー、席に着いてるな。んじゃ、始めるぞ」

「きりーつ」


 やる気のない日直当番の声にイスから音を出しながら、礼、と言われ頭を下げる。

そして着席という言葉と同時に座ると、担任が待ってろ、と言ってドアへと向かって開けた。


「ほれ、もういいぞ、入れ」

「はい」



 凛とした声が響いた。


 一瞬で、クラスが沈黙する。


 それ程までに彼女は美しかった。

漆黒の長い髪に、白すぎる肌、けれど唇は熟れた林檎のように真っ赤で、それでいて背筋は真っ直ぐに伸びていて、歩く姿はとても優雅だった。



 まるで絵から飛び出たような美少女がそこには居て、クラスメイトが彼女に飲み込まれているのは明らかだった。


 そして彼女は担任の隣に立つと、意志の強そうな目でクラスを見渡し、

一通り見渡したかと思えば俺の顔を見てニヤッと不適に、彼女は、笑った。


「相川皐月、お前らのクラスメイトになる。えー家庭の事情でこんな時期の転校になったそうだ。お前ら、仲良くしろよ。んじゃ、相川、挨拶」


 担任がよく聞くような、セオリーな言葉を並べた後、彼女にパスを渡した。


「相川皐月だ。以後、宜しく頼む。仲良くしてくれ」


 そう言って、ふわりと笑う彼女はなんとも美しい美少女だった。

しかし、同時に転校生はなんとも男らしい口調だった。


 何故だか今朝の夢の、愛しかった彼女とダブってしまったのは気のせい、だと思いたい。


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