前世の夢
火が、炎が、空を見上げると出ていた。
「おい!街に火が出てるぞ!!」
「門を突破された!!」
叫ぶ騎士達は皆、動揺している。
そうしている間にも、彼らを炎が包んでいく。
そんな嫌な光景を、自分は見ていて、自分の剣を強く握り締め、そして、敵を斬りつけ、大声で叫びながら指揮を執っていた。
「何をしている!?」
緊迫した中、自分に声を掛けてきたのは長い髪の女性だ。
とても凛々しい顔だが、いつもより切羽詰まった様子でこちらを見ている。
そんな彼女を見て、不覚にも俺はなんて美しいのだろう、と場違いな事を思った。
「急げッ!!敵襲だ!門に向かうぞ!!」
彼女の美しい声が、いつもよりも焦っていて、そんな声もまた美しいと思う自分が居た。
こんな事を思える自分は何て呑気な人間なのだろう、そう思った瞬間、名前を呼ばれた。
「エル!エルバート!行くぞ!!」
自分を見つめながら、門を後ろに背を向ける彼女。
そんな彼女を見つめつつ、エルバート、と言う名が自分の中に引っ掛かる。
なぜか?そう考え、俺の名前は田中浩平だからだ。
そうだ、これは夢だ。
俺は夢を見ているんだ、そう自覚した瞬間、彼女が目の前で、倒れた。
全てが、美しかった。
金色のシルクのような髪が揺れ、鮮血が彼女の腹から飛び散り、白い肌を濡らす。
そして銀の鎧を纏った細い身体が、赤い世界で崩れ落ちた。
「え、るッ!」
何もかもが美しい彼女から、自分だった名前を呼ばれ、自分は心の中が、震えた。
怒りでも、悲しみでも、喜びでもなく、ただ、ただ、彼女が名前を呼んだ事に、恐怖し、そして戦慄した。
そして、剣を刺した敵が、その彼女を見つめ、歓喜に打ちひしがれている所を、俺は、自分は、そんな事も御構い無しに、彼女へと斬り掛かった敵へ躊躇う事もせずに、剣を振り下ろした。
「える、ばーと」
「喋るな、シャルッ!すぐに、すぐに、城へ…!」
「むりだ、わかるだろ?」
確かに彼女を見ると、鎧の隙間を刺された傷口から大量の血が、流れ滴っていた。
生暖かい血が、彼女を抱きしめる自分の手を染める。死ぬのは時間だと、本当はわかっていた。
それでも諦めたくないと、自分は、俺は思った。
「大丈夫だから、シャロット!城へ!」
「なあ、けっこん、したかったな」
彼女が、自分を見つめる。
「ッ結婚するだろ」
「おまえの、こを、うみたかったな」
彼女が、自分の頬へと手を弱弱しく添える。
「バカ、何人でも産めるだろ」
「えると、いっしょにいきたかったな」
彼女を、自分は抱きしめる。
「何言ってるんだ、お前は団長だろ?生きなきゃいけないんだ」
「えるばーと、おまえのしあわせを、ねがって、る」
彼女が笑って、そして、目を閉じていく。
自分の視界がぼやけて見えない。
俺はどうすればいいんだ、と彼女に言ったのかもしれない。
この後の事など、覚えていない。
ただ、ただ、彼女が死んだのだと、そう思った。
初めての小説です。
とてもドキドキしていますが、楽しんでいただけるよう頑張ります。