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勝手に改編昔話

勝手に改編昔話~桃太郎編~

作者: 島地 雷夢

 むかーし昔、あるところに心根がとても優しいおじいさんとおばあさんが住んでいました。

 ある春一番が吹き荒ぶ日、

「ばあさんや、ちょいと仕入れてくるぞ」

「はいはい。気を付けて下さいね」

 おじいさんは麻袋とチェーンソーを手に山へ狩り……もとい柴苅りに。

 おばあさんは鮮血に染まっ……ではなくケチャップをぶちまけた白生地のエプロンを洗いに川に向かいました。

 おばあさんが風に吹かれながらごしごしと一生懸命エプロンを洗っていると、川上からどんぶらこ〜どんぶらこ〜と大きな橙が

「おい、ちょっと待てナレーター」

 何ですか大きくなった桃太郎さん。ずかずかと入ってきて水を差さないで下さい。貴方の出番はまだまだ先ですよ?

「俺の出番のことよりも、この話は最初から色々とツッコミ入れる箇所が多過ぎるんだけど」

 例えばどんなところがですか?

「時代設定からしてチェーンソーは有り得ないから。そして鮮血に染まったエプロンって何だよ?」

 あっはっはっ。何を言っているんですか桃太郎さん。私はそんなことナレーションしていませんよ。

「いや言ったから確実に。そして流れてきたのが桃じゃなくで橙になってるし。これじゃ橙太郎になるよ」

 そんな馬鹿な。……証拠はあります?

「このボイスレコーダーに録音してある」

 ………………。

「これが動かぬ証拠だよナレー」

 鬼さ〜ん。大きくなった桃太郎さんを舞台裏に連行して下さ〜い。お願いしま〜す。

「おいっ!? ちょっと待て何で俺が連行されねば……痛たたた! こら鬼! 俺の手首を捻るな!」

 さようなら大きくなった桃太郎さん。……では続きを。

 川上からどんぶらこ〜どんぶらこ〜と大きなだいだ……桃が流れてきました。

「あらあら、何とも大きな桃ねぇ」

 おばあさんは桃を拾い上げ、洗い終わったエプロンで包み込み、背中に担いで家に運びました。

「おじいさんが帰ってきたら、切って一緒に食べましょうかね」

 おばあさんは大きな桃を備え付けの業務用の冷蔵庫に入れました。

「死ぬから! 小さい俺が凍死しちゃうから!」

 そして小一時間が過ぎて、

「スルー!? 俺の言葉を軽くスルー!?」

「今戻ったぞ」

 おじいさんが血まみれのチェーンソーと血が染み込んだ麻袋を携えて帰ってきました。

「あぁ、お帰りなさいおじいさん。……あの、おじいさん」

「何じゃいばあさん?」

 チェーンソーの血を拭っているおじいさんにおばあさんは川で見付けた大きな桃を拾って冷蔵庫に入れてあることを説明しました。

「そうか。……では直ぐに桃を切って食べるとするかの」

 おじいさんは冷蔵庫の扉を開けました。が、桃はありませんでした。

「ばあさんや、桃が無いぞ?」

「ありゃりゃ? ……もしかしたら冷凍庫の方に入れてしまいましたか?」

「確実に死んだぁあああああああ!」

 うるさいです桃太郎さん。……で、おばあさんは下の段にある冷凍庫の扉を開けました。

 そこには凍った大きな桃がぽつんと置かれていました。

「あぁ、ありましたよ」

 おばあさんは桃を取り出しました。

「でもこれでは包丁では切れませんね」

 確かに。凍った大きな桃は硬かったのです。とても包丁ごときでは歯が立ちません。

「では、これを使うとするかの」

 そう言っておじいさんは血を拭ったチェーンソーを作動させました。

「嫌ぁああああああああああああ! 真っ二つになるぅむぐっ」

 よくぞ桃太郎さんの口を押さえてくれました。ナイスです鬼さん。

 おじいさんはチェーンソーを桃の上から下に向けて振り下ろしました。

 すると、綺麗に真っ二つになりました。

「むぅごぅああああああああ(いぃやぁああああああああ)!」

 うるさい桃太郎。

「おじいさんや、もう少し小さくしないと食べれませんよ」

「おぉっ、そうじゃなばあさんよ。ではもう少し……おや?」

 おじいさんはチェーンソーを振り下ろそうとするのをやめました。

「どうしましたか、おじいさん?」

 おばあさんが聞きました。

「あぁ……桃の真ん中に」

 おじいさんは切り開かれた桃の、本来なら種が収まっているはずの所を指差しました。

「むむむむむぬむまみぃいいいいいい(それは俺の死体ぃいいいいいい)!」

 黙れ桃。貴様の死体ではない。

「むっ……むうむぬま(えっ……そうなのか)?」

 そうだよ。だから黙れ。……えぇ〜こほん、おじいさんは桃の真ん中に仕舞われていたある物を取り出しました。

「何ですかそれは?」

「あぁ、これは」

 おじいさんとおばあさんは取り出した物をまじまじと見ました。


 それは孤児の里親捜しの案内でした。


『これを拾って下さった人へ。 心の優しい人であったならば、どうか孤児を育てて下さいませんか? もし、育てて下さるならば、下記の電話番号までお申し出下さい』

「………むむむいむまむ、むんむうむむむめむむむ(これ書いた奴、文章書くの下手だな)」

 口塞がれたまま話さないで下さい桃太郎さん。確かに下手ではありますけどね。作者なみに。

「ふむふむ……」

「これはこれは……どうしましょうか、おじいさん?」

「……ふ〜〜む……」

 結局、おじいさんとおばあさんは案内に記載されていた電話番号に連絡を入れ、孤児を引き取ることにしました。

 引き取った孤児は生意気過ぎる程に元気のいい赤ん坊(♂)でした。

「ぶはっ……おい、(♂)表記はやめろよ」

 すみません鬼さんの拘束から抜け出した桃太郎さん。……では(桃)にしますね。

「いやそれは性別ですらねぇよ!」

 桃の中にあった案内によって出会ったので、おじいさんとおばあさんは、この赤ん坊(桃)に『桃太郎』と名付けました。

「またスルーか!?」

 桃太郎はすくすくとわんぱく坊主に育っていきました。

 十歳になると、誰にも負けない腕力を発現させて餓鬼大将になりました。周りの子供達からは『怪力怪人・ピーチマン』と呼ばれる程に恐れ戦かれて。

「その呼び名は最早イジメの域だぞ……つーか絶対恐れ戦かれてねぇよ。そして怪力って本来は金太郎じゃないか?」


 そして、おじいさんとおばあさんが桃太郎を引き取ってからまるまる十六年が経ちました。


「またスルーか……」

 桃太郎はその怪力をもって畑仕事や開拓作業に精を出していました。

 そんなある日、

 郵便屋さんがお城から、おじいさん宛ての赤紙を届けに来ました。

「赤紙って……第二次世界大戦中の日本かよ」

 そんなツッコミをしながら、桃太郎は郵便屋さんから赤紙を受け取り、おじいさんに渡しました。

「あ、この台詞はスルーしないんだ」

 おじいさんは赤紙を開き、いつもの柔和な表情を顰めてとある内容の書かれた文章を凝視しました。

「おじいさんや、一体何て書かれているんですか?」

 おばあさんは尋ねました。桃太郎も興味津々といった表情をしています。

 するとおじいさんは無言で開いた赤紙をおばあさんと桃太郎の目の前に置きました。

 書かれた文章の前半は、殿様の下らない愚痴でしたが、後半に書かれた内容はどうやらおじいさんへの依頼のようでした。


『 ――さて、長々と愚痴を書いて申し訳ない。そろそろ本題に入ろう。

実は、近頃鬼ヶ島の鬼共が城下で悪さを働いたり、城の財宝やら食料を盗んだりしてほとほと困り果てている。十日前に退治しにいった我が軍が未だ帰ってこぬのだ。恐らくは返り討ちにあったのだろう。

 そこで、貴殿に頼みがある。 鬼ヶ島の鬼共を退治してはくれぬか? 関ヶ原での戦で「戦場の殺人鬼」と謳われた貴殿にしか頼めないのだ。

 鬼共を退治した暁には、我が城で不自由のない暮らしを約束しよう

        敬具』


 おばあさんと桃太郎は畳に置かれた赤紙から今は目を閉じているおじいさんに視線を移しました。

「『戦場の殺人鬼』って……」

「懐かしい呼び名ですねぇ」

「あれ? ばあちゃんは知ってたの? じいちゃんがそう呼ばれてたこと」

「当たり前ですよ。夫の過去を知らない妻がいない訳ないですよ……で、どうしますか、おじいさん?」

 おばあさんの言葉に、おじいさんは閉じていた目を開けました。

「断るよ。『戦場の殺人鬼』と呼ばれていたのはもう六十年も前だ。流石のわしも歳を取っては昔のように動けはしないしのう」

「しかし、そうすると城下には鬼が」

「そうなんじゃよ……」

 おじいさんはうんうん唸ってまた考えます。

「……あ、そうじゃ」

 おじいさんは手をぽんと叩きました。

「桃太郎、おぬし鬼退治に行ってこい」

「却下。鬼に殺されるのなんて御免です」

 桃太郎は即答でした。

「そうかそうか行ってくれるか」

「いや却下って言ったよね?」

「流石は桃太郎、行ってくれると思ったのじゃ」

 しかしおじいさんには拒否が聞こえておらず、懐から何やら白い仮面を取り出しました。

「これはわしが六十年前に着けていた仮面でのう」

「だから行かないって」

「これを着けると狂戦士形態になるのじゃ」

「いらんっ!」

 桃太郎は立ち上がり、家を出ようと駆け出しました……が、両足をおばあさんにがしっと掴まれました。

「おぶっ!?」

 桃太郎はつんのめって顔面を畳に打ち付けました。

「……ばあちゃん、一体何を……っ!?」

「さあさ、桃太郎や、そうと決まったらまずは着替えないといけませんねぇ」

「ばあちゃん!? ばあちゃんも俺を鬼ヶ島に行かせようとするの!?」

 おばあさんは桃太郎の発言を無視して別室に引き摺っていきました。


  〜十分後〜


「似合いますよ桃太郎」

「……そりゃど〜も」

 にこやかなおばあさんとぶすっとした桃太郎が別室から出てきました。

 着替えさせられた桃太郎の格好は、桃色一色の西洋鎧に身を包まれていました。ちなみに、胸の部分には桃を象ったマークが彫ってありました。正直言うと、かなりダサい。死んでも着たくない一品です。

「言うなナレーター。俺が惨めになる。つーか実際に惨めだ」

 心中お察しします桃太郎さん。……で、結局鬼退治に行くんですか?

「ああ……何かもう、何を言っても無駄だと思うから。さ、早く話を進めろ」

 そうですか。ではナレーションの続きを。

 桃太郎は肩を落としました。そして、おじいさんの後ろの空間に、黒い布が被せてあるのに気が付きました。

「じいちゃん、それ何?」

「ああ、これはのう、桃太郎への武器じゃよ。先程城から届いたのじゃ」

 おじいさんは黒い布をばさっと取り払いました。

 そこには大きな箱が三つ置いてありました。


 一つは至って普通の林檎の入ってそうな木の箱。


 もう一つは宝石で装飾されたゴージャスな宝箱。


 最後の一つは血の染み込んだ木箱(腐りかけ)。


「さぁ、桃太郎よ。三つの内のどれを選ぶのじゃ?」

「至って普通の木箱で」

 即答。

「そうかそうか、血まみれの木箱じゃな」

 おじいさんも即答。

「いや普通の木箱だから」

「血まみれのじゃな」

「普通の」

「血まみれの」

「普通のだっつってんだろじいちゃん!」

「しかし……矢張り桃太郎には血まみれの箱がいいと思うんじゃが?」

「……そろそろ平常心という名の臨界点を超えるけど?」

 血まみれの木箱にした方がいいですよ?

「お前もかナレーター……何と言われようと、俺は普通の木箱にするぞ」

「あ……」

 桃太郎はおじいさんと私の助言も聞かずに普通の木箱を選び、開け放ちました。

「ったく、何でじいちゃんとナレーターは血まみれの木箱を選ばせよう……と…す……る…………」

 桃太郎さん、そこは絶句してはいけない場面ですよ。

「……………」

 ふぅ、仕方ありませんね。……桃太郎が開けた箱の中には、


 チェーンソー(新品)とエプロン(白)が入っていました。


「いや有り得ねぇだろぉおおおおおおっ!!」

 桃太郎さん、そこは絶叫してはいけない場面ですよ。

「だってさ、普通武器っつったら剣とか刀とか……百歩譲って魔法使いの杖だろ!? RPGの基本だぞ!?」

 これはRPGではありませんから。

「確かにそうだけど……でもこのチョイスはねぇだろ!」

 だってそれは桃太郎さんがおじいさんと私の助言を無視した結果ですよ。

「冗談じゃない。この装備を着けたらまるで十三日の金曜日に出没する殺人鬼だよ。これじゃ鬼よりも先に俺が退治されちまう……」

 殺人鬼になるには仮面が足りませんよ。

「ならねぇよ!」

「ほれ桃太郎や、仮面じゃぞ」

「じいちゃん! さっきの仮面を渡さないで! ……今からでも遅くない、こうなったら他の箱を開け……って何で消えてんだよ!?」

 どうやら一つ選んだら他の箱は自動で消滅するように仕掛けが施されていたようですね。

「そんな仕掛けいらねぇよ!」

 ちなみにゴージャスな宝箱にはマスクと学ランとメリケンサックと木刀と釘バットが入っていました。

「一昔前の不良の装備で鬼が倒せるかっ!」

 そして血まみれの木箱には、

「……今思ったんだけど、その血まみれの箱にはこの装備か宝箱に入ってた装備が相応しいと思うん」

 サバイバルナイフ、ハンドガン(形状からして多分トカレフ)、アサルトライフル、ショットガン、サブマシンガン、グレネードランチャー、光子力レーザー砲、手榴弾、マスターキー、ブルーハーブ、救急スプレー、防弾チョッキが入っていました。

「何だよその素晴らし過ぎる程の装備は!? 鬼じゃなくて生物災害の起こった洋館や街に行って歩く死体や生物兵器を倒せってか!?」

 銃火器はいずれも弾数は無限です。

「チート! 最早チートだよそれ!」

 だからおじいさんと私はこちらを推奨したのですが。

「そんな装備で虐殺はゲームやってるこっちがつまんねぇっつーの!」

 桃太郎さん、これはゲームではありませんから。

「そうだけど……そのチート装備なら城の兵一人で鬼殲滅出来るだろ」

 さて、桃太郎はエプロンを西洋鎧の上に装着し(それにより、胸の桃マークが見えなくなり、若干ダサさが軽減)、チェーンソー片手に鬼退治に行くことになりました。

「またスルー!? 貴様は何回俺をスルーすればいいんだ!?」

「桃太郎や」

「あ、何ばあちゃん?」

「これを持っておいき」

 と、おばあさんが桃太郎にリュックを渡しました。

「これは?」

「この中には寝袋に交通費、それと鬼ヶ島までの地図、お弁当におじいさんの仮面を入れておきました。どうぞ持って行って下さいな」

「ありがとうばあちゃ……ちょっと待って。何か最後の方に余計な物が紛れ込んでなかった?」

「行ってらっしゃい」

「ねぇばあちゃん!? 俺の質問に応えて!」

 桃太郎がおばあさんに言い寄りました。

 その時、おばあさんはいつの間にか持っていたリモコンの赤いボタンをぽちっと押しました。

「ばあちゃ……………っ!?」

 桃太郎は床に仕掛けられたバネによって遥か彼方へと飛んでいきました(真上ではなく、若干斜め東寄りの軌道で)。



「…………ぅぁあああああああああああへぶっ!?」

 桃太郎は二分後に地面に激突しました。

「痛た……」


『桃太郎:Lv1

 HP:86/97

 MP:38/38』


「って何この表示!?」

 何って今現在の貴方のHPとMPですよ。

「これはRPGじゃないんだよな!?」

 でも、これ無いと鬼退治がしんどくなりますよ?

「確かにHPとかあった方がいいけど……って他のコマンドは出んのか?」

 でますよ。スタートボタンを押して下さい。

「ねぇよスタートボタンっ!」

 仕方ありませんね。では私が手動でメニューを出しますね。

「手動って……」


『ステータス←

 道具

 地図

 セーブ

 コンフィング』


「明らかにセーブとコンフィングはいらないと思うんだけど……もうツッコミしたくないからなぁ」

 で、どれ見ますか?

「とりあえずステータスを」

はい。


『桃太郎:Lv1

 HP:86/97

 MP:38/38

 攻撃力:152

 防御力:15

 素早さ:8

 運  :1

 桃力 :352』


「運少なっ! 攻撃力高っ! ってか桃力って何!?」

 MPを消費して使う攻撃をする時に参照するパロメーターですよ。

「MPって『桃ポイント』の略だったの!?」

 ちなみに、攻撃力、防御力、素早さは装備で変動します。

「どんな装備でLv1で高攻撃力になんの?」

 それはメニューで道具を選べばわかります。


『ステータス

 道具←

 地図

 セーブ

 コンフィング』


「じゃ選んで」

 了解。


『ステータス

 道具

   アイテム

   装備←

 地図

 セーブ

 コンフィング』


「あ、後でアイテムも見るか……」


『装備

 武器:チェーンソー(攻撃力19→152)

 防具:西洋鎧(防御力11→15)(素早さ13→8)』


「チェーンソーでこんなに上がるのかっ!?」

 そりゃ殺人鬼の標準装備ですもん。上がらない方が可笑しいですよ。はっはっは。

「いや笑えねー……」

 まあいいじゃないですか桃太郎さん。こんなに攻撃力があれば最初の村の近くに出るモンスターは瞬殺出来ますよ。

「……最早これもチートか。まあこの際どうでもいいか。次にアイテムを見せてくれ」

 了解です。


『アイテム

 財布←

 キビダンゴ×99

 地図

 寝袋

 戦場の殺人鬼の仮面』


「……まずは長旅に必要不可欠な路銀を確認するか」


『所持金……152円』


「少なっ! こんな額じゃバスで遠くにも行けんわ! 次、キビダンゴ!」


『キビダンゴ:効果……不明(ただし、人間には有毒というのは判明済み)』


「どんなモノ持たせてんのばあちゃん!? こんなのお弁当じゃないよ!? ハイ次、地図!」


『地図…グルジア語なので読めません』


「ばあちゃんせめて少しは読める英語に……って見取り図があるだろ!」


『文字オンリーです』


「意味ねぇな! 次!」


『寝袋:効果……戦闘中に使用すると、自分は10ターン睡眠状態になる(その時、毎ターン体力が2ずつ回復する)』


「リンチされるわっ! しかも回復量が割に合わねぇよ! ああもうメニュー閉じろ!」

 あれ? 戦場の殺人鬼の仮面の効果は見ないんですか?

「あんなのの効果は簡単に予測出来んだろ! つーかじいちゃんがこれ着けると狂戦士形態になるって言ってたし!」

 そうですか。まあこれ以上ツッコミするのも疲れますしねぇ。……それはそうと気が立ってるところ申し訳ありませんが桃太郎さん。

「んだよ?」

 モンスターとエンカウントしました。

「はぁっ!? 俺まだ一歩も歩いてな」

 一応犬ですよ、モンスターは。

「くそっ。でも最初のバトルだからチュートリアル的な」


『ケルベロスが現れた』


「って待てぃ!!」

 さぁ頑張って戦って下さい。

「いやいやいやっ! 何で西洋の地獄の番犬がこんな辺鄙な田舎にいるんだよ!?」

 そっとしておいて下さい。

「出来るかぼべっ!?」


『ケルベロスの攻撃

 薙ぎ払い

 桃太郎に80のダメージ』


 よかったですね。HP残りましたよ。

「た、確かに一命は取り止めたけど、これ死ぬだろ俺っ!」

 諦めないで下さいよ。もしかしたら一発でやられる程HP少ないかもしれないじゃないですか。

「そんな確率の方が少ないけどな」

 だったら、あれのステータス見てみますか?

「見れるんかい」

 見れますよ。レベルとHPだけですけど。

「それでもいいからお願い」

 分かりました。


『ケルベロス:Lv52

 HP:683/683』


「無理勝てないっ!」

 そうですね。さようなら桃太郎さん。もう死ぬのは確定事項なので悪足掻きとして仮面被って見ます?

「それは断固拒否する! 俺は人の尊厳を捨てないで潔く死ぬ!」

 そうですか。……ちっ、残念。

「おい。今ちって言ったろ」

 言ってません。

「絶対言ったろ! さっきの台詞はボイスレコーダーに録音してあるからなっ!」

 あ、桃太郎さん。

「何だよ?」

 ケルベロスが。

「ケルベロス?」

 あれ。

「ん?」


『ケルベロスは倒れた』


「…………なして?」

 さぁ? あ、多分あれの所為ですね。

「あれ?」

 キビダンゴがケルベロスの周りに散らばってます。多分薙ぎ払いを受けた時に落ちたんでしょうね。

「あれって化け物相手にも通用したんだ」

 みたいですね。あ、キビダンゴの情報が更新されましたよ。


『キビダンゴ:効果……魔物相手だと確率で即死の効果。この効果が発動した時、魔物は仲間になる』


「え? って事は」


『ケルベロスが仲間になりました』


「…………マジか?」

 マジですね。

「…………何か釈然としない」

 でもよかったじゃないですか。生きてますし。レベルの高い魔物が仲間になったんですからこれから先は楽ですよ。

「まぁ、そうだな」

 因みに桃太郎さんのレベルは上がってませんよ。

「それは予想してた」



 さて、ケルベロスを仲間にした桃太郎は鬼ヶ島へと向けて進んで行きます。

 道中モンスターに何回か遭遇しましたが、ケルベロスが全てを蹴散らして少ないHPの桃太郎は怪我もせず無事に進んで行きました。


『てれれれっれとれーん。ケルベロスのレベルが上がった。

 Lv56→58』


「一気にレベルが二つ上がったな」

「がう」

 まぁ、一度に二十も相手すれば当然ですよ。

「こいつが一撃で倒すから俺はバトルせずに済んでるけど、その御陰でレベルが一向に上がらないんだよな」

 別にいいじゃないですか雑魚の桃太郎さん。

「雑魚って言うな」

 まぁ、それはそれとして。

「それとすんな」

 ここでイベント発生です。

「イベント?」

 仲間勧誘イベントです。

「仲間って……次は猿か? この流れで行くと猿はハヌマーンか孫悟空が出て来そうだな」

 残念ながらその流れは無いです。

「あ、そう。漸くノーマルなのが来る流れか」

「アノ、モシ」

 後ろから桃太郎を呼ぶ声が聞こえました。

「お、猿かな?」

 桃太郎は振り返りました。


『グレイ(宇宙人)が現れた』


「猿ですら無いだとっ!? せめて種族くらいは同じにしろっ!」

 書いた人に言って下さい。あ、でも敵意は無いので安心して下さい。

「アノ、少シヨロシイデスカ?」

「あ、はい。何ですか?」

「実ハ、地図ヲ落トシテシマッタノデスガ、ココラ辺ニ落チテマセンデシタカ?」

 このグレイは宇宙旅行で地球に訪れて来たのですが、運悪く到着する寸前で地球地図を落としてしまったのです。

「地図なぁ。……お前は見掛けたか?」

「がう」

 ケルベロスは首を横に振って見ていないと意思表示します。

「俺も見ていないな」

「ソウデスカ」

 肩を落とすグレイ。

「でも、絶対このイベントで使う地図は持ってる」

「ハ?」

 桃太郎はグルジア語で書かれた地図を取り出してグレイに渡しました。

「取り敢えずこれを」

 桃太郎は地図を手渡しました。

「コ、コレハ……ッ!?」

 グレイは目を見開き、肩を震わせ表情を驚きに変えていました。

「アノ、コレハ何処デ手ニ入レマシタカ?」

「へ? あ、それはばあちゃんに貰ったやつだよ。もしかして落とした地図だったとか?」

「イエ、違イマス」

「違うのか。残念」

「デモ、ヨロシケレバコノ地図ヲ譲ッテ貰エナイデショウカ?」

「別にいいけど。どうせ解読不可能だし」

「アリガトウゴザイマスッ!」

 こうして桃太郎はグレイに地図(グルジア語表記)を渡しました。

「因みにそれには何て書いてあるんだ?」

 グルジア語を読めない馬鹿……ではなく、桃太郎はグレイに地図の内容を聞きました。

「おい、今馬鹿って言ったろ」

 グレイは地図に書かれた一節を読みます。

「久々の無視かよ……」

「汝、桃色の甲冑を身に纏いし白仮面の殺人鬼に導かれ、巨万の富を得るだろう」

 ついでに言えば流暢な日本語で。

「普通に喋れんならわざわざカタコトで言うんじゃねぇよ!」

「いや、その方が宇宙人ぽいかなと思いまして」

「そんな配慮は要らないから! 書き手も読み手も面倒臭いとしか思ってないから!」

 わざわざ代弁ありがとうございます桃太郎さん。正直私もそう思っていました。

「ならお前が注意しとけよナレーター……」

 さて、グレイは桃太郎の格好をまじまじと眺めます。

「もしや、貴方がこの地図に書かれた人なのですか?」

「それはない」

「でも、貴方は桃色の甲冑を身に纏っているじゃないですか」

「確かに纏ってるけど、仮面はないだろ。それに殺人鬼じゃないし」

「チェーンソーを担いでいるのにですか?」

「それでも殺人鬼じゃないし」

「そうですか……」

 グレイは肩を落としてしまいました。

「がう」

 その様子を見かねたケルベロスが桃太郎の持ち物から勝手に仮面(被ると狂戦士化)を取り出しました。

「ちょ待てぃケルベロス!?」

「なんだ。やはり持っているじゃないですか。貴方こそが、地図に記された殺人鬼です」

「違うから!」

「ワタシは貴方についていきます。そしてワタシに巨万の富を与えて下さい。ワタシに大金を与えて下さい」

「こいつ自分の利益しか考えてねぇ小せぇ奴だなっ!」

 こうしてグレイ(利己主義)が仲間に加わりました。

「利己主義がパーティーにいるの嫌だな!」



 桃太郎さん。

「何だよ?」

 疲れてませんか?

「そりゃ疲れるよ」

「がうがう!」

「こら駄犬! あれはワタシの獲物です! ワタシがレベルアップする為の踏み台なんです!」

「目の前で醜いモンスター退治をされるとな」

 そうですか。まぁ頑張って下さい。

「まるで他人事のように」

 他人事ですから。あ、一応お三方のレベルでも表示しておきますかね。


『桃太郎:Lv1

 ケルベロス:Lv68

 グレイ:Lv45  』


 断トツで雑魚ですね桃太郎さん。

「雑魚って言うな。仕方無いだろ、こいつらが片っ端から敵やっつけんだから」

 因みにケルベロスは主人に怪我をさせないように率先してモンスターを倒しにかかっています。

「そうか。お前は主人思いなのな」

「がう」

 そしてグレイは自分のレベルアップと倒した際に得られる金銭を独占したいが為に率先して殺っています。

「お前はぶれねぇな」

「恐縮です」

「いや、誉めてねぇからな?」

 まぁ取り敢えず桃太郎さん。

「取り敢えず何だよナレーター?」

 最後の仲間勧誘イベントです。

「……あ、そう……」

 どうしました桃太郎さん? 元気のないリアクションですね。

「期待してないからな。だってさ、犬はまぁいいよ。犬がモデルの化け物だし。でもグレイはねぇだろ。猿じゃないし。俺としては次仲間になるのは雉じゃなくて翼の生えた何かだと思ってるから期待なんて持ちようがないんだよ」

 因みに翼の生えた何かってどんな想像してます?

「●ーズ」

 なして究極生命体と化した柱に埋まっていた男を……。

「グレイを越える奇抜性となるとそんくらいしか思い付かなかった」

 そうですか。でも安心して下さい。仲間になるのは鳥です。birdです。決してchickenではありません。保証します。

「何故に英語を使う? しかも無駄に発音いいし」

 気にしないで下さいよ。

「あぁ、そーするわ」

 もう順応しましたね。

「お前らの御蔭でな」

 あ、最後の仲間が転がって来ましたよ。

「はいはい。……ってちょっと待て。今、転がってって言ったか?」

 言いましたよ。

「目の前登り坂だからそっから来るんだろうけど、飛んで来ないのか?」

 来ませんね。

「……飛べない鳥類じゃないよな?」

 飛びますよ。

「って事は」


『巨大な卵が転がって来た!』


「やっぱり卵かよっ! しかも巨大ってどんくらいデカいんだ!?」

 ケルベロスより少し小さいくらいですかね〜。

「全長5メーター!? んなデカい卵地球上にねぇよ!」

 どうでもいいんですけど。

「どうでもよくねぇ!」

 あれなんとかしないと直撃しますよ?

「げっ、そうだよな!」


『残り1メーター』


「無理無理これ回避不可のぶどぅあっ!?」

 桃太郎は轢かれてしまいました。


『〜game over〜』


「になってたまるかっ!」

 おや、生きていましたか。

「あぁ。グレイが間に入って超能力的な何かで卵の進行方向を変えたからな」

「貴方が死んでは巨万の富に近付けなくなりますからね」

「利己主義的な行動理由だけどな」

 そうですか。よかったですね桃太郎さん。生き長らえて。

「そうだな」

 でも代わりにケルベロスが。

「ゑ」


『ケルベロス:Lv68

 HP:75/1129』


「がう……」

 直撃を受けたようですよ。

「ケルベロス〜〜!! お前避けろよっ!」

「がうがう……」

 避けたら卵が崖から転落して割れたかもしれないからこれから生まれてくる新たな命の為に身を呈して落下を阻止したそうです。

「優しい! この子凄ぇ優しいよ!」

「この卵で目玉焼きを作って食べると何かしらのパラメーターが上がりそうですね」

「てめぇこの卵食いやがったらパーティーから外すからな! 物理的に!」

「すみません。二度と申しませんのでパーティーから外さないで下さい」

 グレイが土下座してますね。余程パーティーから外れたくないと見ました。

「巨万の富の為だろ。……にしても、この卵どうすっかな」

 一応パーティーに加入させて運ぶしかないんじゃないかと思いますよ。

「やっぱりか。この卵の中の奴が仲間になるイベントなら運ばないとな。でもどうやって?」

 ケルベロスに頼んで運んで貰いましょう。

「そうだな。悪いけど、お前が運んでくれないか?」

「がう」

 でもその前にケルベロスの体力を回復しないと行けませんよ。

「あ、そうだった。だけど俺回復アイテムは寝袋しかないんだけど」

 グレイが何か持ってると思いますけど。

「おい、何か回復アイテム出せ」

「ありますけど出しません。これはワタシの物です。何で駄犬ごときに使わな」

「よし、協調性のない奴はパーティーから抜けろ」

「こちらが回復薬(大)です。いやだな冗談ですよ。イッツァスペースジョークです。だからパーティーから抜けろとかチェーンソーを構えないで下さいよ」

 扱い慣れてきましたね。

「字面だけだと分かんないけど、こいつらとは二週間共に過ごしてるからな。……ほら、これ飲め」

「がう」


『ケルベロスのHPが全快した』


「よし、これで大丈夫。じゃあ卵を頼む」

「がう!」

 桃太郎はケルベロスの背中に卵をくくりつけてました。

「……所でさ」

 何ですか桃太郎さん?

「これって何て鳥の卵?」

 最後の仲間も加わり、一行は鬼ヶ島を目指し旅を再開しました。

「だからスルーすんなっつうの!」



 さて、いよいよ鬼ヶ島に辿り着いた桃太郎一行は門の前で立ち止まっています。

「ここまでの道程は話さないんだな」

 特筆すべき箇所が見当たりませんでしたので。

「まぁ、確かにな」

 せいぜい話すとしたら豪華客船で鬼ヶ島へと向かった事でしょう。

「船があれしかなかったんだから仕方無いだろ」

 因みに船代は城主につけときました。

「152円しかないからな」

 で、これからどうします?

「どうするも何も、まずはこの門を開けないと始まらないだろ」

 でもこれ、鋼鉄性で雷門くらいの大きさですよ。

「なんとかなるだろ。本来ならここは猿が門の鍵を開ける手筈だからな。おいグレイ」

「何ですか?」

「ここ開けろ」

「何でワタシが」

「この先に巨万の富が」

「開けさせていただきます」

 グレイはホルダーからマグナムを取りだし構えながら門に近付きました。

「光線銃じゃないんだ」

「あれ扱うのに免許がいるんですよ」

「地求人にとっては微妙な豆知識だな」

 グレイは門の端へと向かいました。

「あ、それで門の鍵壊さないんだ」

「こんなんで壊れるとは思いませんから」

 そしてグレイは端にあったスイッチを躊躇いもなく押しました。

「あ、おいそんな警戒もなく押すな!」

『はい、どちら様でしょうか?』

「しかもインターフォン!」

「ちわ〜っす、ミカワ屋で〜す」

「ここは●ザエさん家か!? グレイはそれで騙せると思ってんのか!?」

『あ、どうも。何時もご苦労様です』

「あっさり騙された!? ここの鬼達常連客だったのか!?」

 解錠の音が鳴り響き、門が独りでに開きました。

「さぁ、では乗り込むとしましょう」

「がう!」

「あぁ……早く終わらせて帰りたい」

 一行は進んで行きました。

「でも、実際俺らだけで鬼を倒せるのかね?」

 大丈夫じゃないですかね。レベル的に。


『桃太郎:Lv1

 ケルベロス:Lv82

 グレイ:Lv69

 ???の卵:Lv27』


「ちょっと待って。俺って卵よりもレベル低いの?」

 卵は一度ケルベロスを瀕死の状態にしましたからね。それが影響してるんだと思います。

「あ、そういう事か」

 納得した所で桃太郎さん。

「鬼とエンカウントしたってか?」

 よく分かりましたね。

「ナレーターとも長い付き合いだからな」


『鬼×999が現れた』


「いや多過ぎだろっ!」

 因みに全員レベル80越えです。

「百パーセント俺らの負けだろ!」


『更に城の兵士×200が現れた』


「あれっ!? 城の兵士生きてる!?」

 生きてますね。レベルは全員40前後ですね。

「城の兵士が帰ってこない理由ってもしかして裏切り!?」

 そうかもしれませんね。力量差で負け確定と分かって寝返ったのでしょう。

「この状態での戦闘は明らかにリンチにされるぞ俺達っ!」

 御愁傷様です。……もう負け覚悟で白い仮面を被って狂戦士になりません?

「絶っっっっっ対に被らないっ!!」

 ちっ。

「だから舌打ちすんな!」

「あの……」

「何だよ!?」

「助けてくれませんか?」

「お前ら鬼よりも絶体絶命の俺達の方が助けて貰いたいわっ!」

 あの、桃太郎さん。

「あ゛?」

 鬼達は助けて貰いたい様子ですよ。

「……ゑ」

 桃太郎は鬼×999と城の兵士×200が土下座して頼み込んでいるのに気が付きました。

「What's happen?」

 桃太郎さん。ここは日本ですよ。

「分かってるよ。動揺しただけだよ。……で何でレベル1の俺に助け求めてんの?」

 そうですよね。デコピン一発でやられる雑魚の桃太郎さんにどうして助けを求めているんでしょうね?

「そろそろチェーンソー起動させて振り回すぞ?」

 鬼さん。早く説明して下さい。桃太郎さんが暴れる前に。

「実は、城主を倒して欲しいのです」

「は? 城主ってこの兵士達の主?」

「あんなの俺らの主じゃねぇ!!」

 城の兵士達は反論します。

「自分の利益の為だけに国を栄えさせて、税収用の国土を広げる為だけに無差別に山や村を壊して、搾りきっても無理矢理税金を搾取したり、ブラック企業以上に人使い荒くて、金銭感覚麻痺ってて、少しでも気に入らなければ切って捨てるあんな我が儘身勝手傍若無人野郎が主なんて願い下げじゃあ!!」

「……凄い言われようだな」

 桃太郎さんはこの国に住んでるのに城主の事何も知らないんですね。

「辺鄙な田舎の育ちだからな。都とかの情報に疎いんだよ」

 成程。

「つか、俺よりも鬼達に頼めよ。レベルが俺の80倍以上あるんだから」

「頼んだよ! そして城下であいつの息のかかった場所に進撃して貰ったよ!」

「城下の騒ぎの原因はお前ら城の兵士かよ。」

「そして城の財宝やら食料やらは税金搾取で苦しんでる近隣住区の人に等配分したよ!」

「義賊か」

「鬼討伐命令が出されたから全滅したようにしてあの城からバックレてきた次第だ! 分かったかっ!?」

「はい。何かすみません」

 何で怒られたんでしょうね?

「俺が聞きたいわ。というか、城まで行ったんなら城主倒してこいよ」

「それが、我々鬼では城主を倒せないのです」

 鬼は苦々しくつげます。

「城主は特別な結界を自身に施しているのです」

「結界?」

「自分よりも強い相手からの干渉を一切受けない結界です」

「うわ、若干のチート仕様」

「なので我々鬼はおろか、兵士達も城主に攻撃を与える事が出来ないのです」

「レベル差があるが故に、か」

 こんな不条理ってあるんですね。

「だな。因みに城主のレベルは?」

「雑魚一歩出前の2」

「この場で攻撃を与えられるのが俺だけ!?」

 成程、だから桃太郎さんは終盤でも雑魚のままだったんですね。

「雑魚言うな」

「レベル1で高い攻撃力を持っているのは貴方だけなんです。なのでお願いします。城主を倒して下さい」

「いや、んな事言われてもな。俺単体じゃあ即ゲームオーバーだぞ?」

「いえ、貴方はあれをお持ちではないですか」

「あれ?」

「『戦場の殺人鬼の仮面』を」

「嫌だ絶対嫌だ何と言われようと嫌だ勝手に取り出して無理矢理被せようとすんなゴラァ!」

「これがあればHPが尽きても999ターンは動けます」

「その情報聞いて余計に被りたくなくなったわ!」

「あいつをどうにかしないとお前の村も何時かは税金搾取過多で滅ぶぞ!」

「それは嫌だ。だが断る!」

 あの、桃太郎さん。

「何!? 今取り込み中なんだけど!?」

 卵が孵化しました。

「このタイミングで!?」


『シャンタク鳥が生まれた』


「いや確かに鳥ってついてるけどさぁぁああああああああ!」

 不満ですか? 必死で仮面を被らないように頑張ってる桃太郎さん。

「クトゥルフ神話ってお前なぁぁああ!」

 シャンタク鳥に乗れば城まで一っ飛びですよ。

「確かにそうだけどな!」

「そこの灰色の人!」

「何ですか?」

「この人に仮面を被せるのを手伝ってくれ!」

「はっ。どうしてワタシがやらなければ」

「礼はたっぷりと出すから!」

「例えば?」

「城に残ってるもの全てやる」

「お任せなさい」

「こら、てめぇ! 超能力的な力使うな!」

「黙りなさい。貴方とは縁切れです。巨万の富はもう目の前にあるのですから」

「こいつ、城の一兵の言葉を本気で信じてやがる!」

 もう諦めちゃいなよ桃太郎さん。

「お前らは鬼かっ!?」

「鬼は我々です」

「知ってるよ! こうなったら、助けてくれケルベロス!」

「がう!」

 ケルベロスは桃太郎の助けを求める叫びに反応して鬼の群れに突っ込んでいきます。撥ね飛ばされる鬼達の間をグレイが潜り抜けてきました。

「こら駄犬。邪魔をしないで下さい」

「がう!」

「それが貴方の主人の為になるのです」

「がう?」

「考えてもみなさい。今この段階で城主を倒さなければ主人の村も何時かは荒廃してしまうのです。貴方はそんな状況を芳しく思いますか?」

「がうがう」

 ケルベロスは首を横に振ります。

「ならばここは邪魔をしないのが筋でしょう。邪魔をしなければ城主は無事に打ち倒されて村が荒廃する事もありません。分かったのなら邪魔をしないで下さい。いいですね」

「がうっ」

 ケルベロスは首肯し、暴れるのをやめました。

「いや、やめないでびぶっ!?」

 ついに桃太郎は仮面を被されてしまいました。

「よし、狂う前にそこの馬面の鳥に乗っけて城まで連れてけ!」

 桃太郎はシャンタク鳥に乗せられ、一秒で城の城主の下へと行かせられました。

「な、何奴じゃ!? はっ! その仮面は!」

「ヴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 桃太郎はチェーンソーで城主を滅多切りにしました。



 こうして、国に平和が訪れました。

 鬼と兵士は復興の為に尽力し、グレイは財宝など金目のものを手に入れて故郷の惑星に帰り、シャンタク鳥とケルベロスは桃太郎と一緒に村へと戻り、村の観光源として役に立ちました。

 村に戻った桃太郎はのんびりと余暇を過ごしていくのでした。

「……おい、ナレーター」

 何ですか桃太郎さん?

「一応この物語は終わったんだよな?」

 はい。終わりましたね。

「そうか。終わったか」

 はい。……あれ? 何処かへ出掛けるんですか? チェーンソーなんか持って?

「こんな変な話に変えやがった作者をブチ殺しにな」

 そうですか。返り討ちに遭わないように気を付けていってらっしゃい。

「あぁ。作者殺したら次はナレーターを殺るけどな」

 それは勘弁して下さい。



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