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ガルディアの意志  作者: Mr. Suicide
第一章 クラン抗争編
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第二話 ギルドにて

 この国には「ギルド」と呼ばれるものが三つ存在する。一つは傭兵を束ねる「盾の館」、一つは魔法使いを束ねる「杖の館」、そしてもう一つは冒険者を束ねる「剣の館」だ。ギルドは基本的にクランに対する国からの命令を伝えたり、クランから上がってきた案件を吟味する等、クラン運営の手助けをする機関である。他にも仕事の仲介や素材の買取、換金や倉庫の利用等一般の人間でも利用できるギルドホールを公開している。また冒険者同士の喧嘩の仲裁や、クラン同士の抗争が起きた際の仲裁、ギルド規約の違反者の処断等の治安維持活動も行なっている。

 ギルドには「クラン」というものが存在し、それぞれがまた別の役割をになっている。クランの主な活動は新人の育成や、ギルドからの命令をクランに所属している者たちへ伝える、クランで発足したチームの把握と報告等のクラン運営。また冒険者ギルドのクランでは、縄張りに置ける治安維持活動や国外に存在する未開の地の開拓、魔物の討伐等の荒事をギルドから受注してこなすのが主な仕事である。

 クランには「チーム」という集団が存在し、こちらはクランが管理している。チームは基本的に義兄弟や義親子等の、非常に親密な間柄の人間が作った集団である。ギルドの討伐依頼をこなす際はチーム単位で仕事に当たるのが普通であり、個人での仕事はあくまで個人として出来る範囲を行なっている。またチームを上げて新人の育成に務めているチームや、開拓専門のチーム、魔物討伐専門のチーム等、様々な特色を持ったチームが存在する。


 今回問題が起きたギルドは、冒険者ギルド「剣の館」だ。剣の館は冒険者ギルドだが、全員が全員クランに所属して武器を手にとっているわけではない、むしろそう言った人間はひとにぎりなのだ。大多数は既に国内に生活基盤のあるものや、職を失った一般人であることが多い。こういった雑務をこなす人々のことを「ハンディー」と呼び、日雇い等の即物的な労働力として国内で重宝されている。そしてクランに所属して魔物の討伐や開拓等の荒事を片付ける、本来の意味での冒険者たちはインポーターと呼ばれ様々な面で重宝されている。

冒険者クランは他のギルドのクランとは違い、少し特殊な体型で運営されている。冒険者クランは自分の縄張りを持ち、縄張りの治安維持を務めその見返りとして、いくらかの金銭や食料等を守代して貰い受けている。クランに所属しているのはおおよそで50人から100人の間だ、それ以上増やせばしのぎができなくなる、しかしこれ以上減らせば治安の維持ができない、その絶妙なバランスを各クランは取りながら運営している。 


 この剣の館の副ギルド長であるグリム・ゲルディアは暗闇の中でたゆたっていた、体の芯まで心地よい眠りの感覚が押し寄せてくる。あぁ・・・そういえばまだ今日の書類が残っていたな、まどろむ頭に浮かんだ仕事のこと、そしてそれをきっかけに少しづつ何が起こったのかがフラッシュバックしていく。起きなければ、起きて直ぐに事態の収集へとむかはなければ、それが俺が先代から託されたことだ。ゆっくりと目を開ける、写り込んだのは見慣れた医務室の天井だ。ベットが四床と机が道を挟みベットの反対側に同数あり、薬品などを収めた棚がいくつかありその棚は最早訳が分からないほどモノで溢れている。


「副長、よかった目が覚めたようですね」


 声がした方に目を向ければ、桶を抱えたセリーヌと目があった。どうやら俺の元に付いていてくれたのだろう、これは悪いことをした、彼女にも仕事があるだろうに。


「あぁセリーヌか、すまなかったな面倒をかけた」

「何を言ってるんですか、悪いのは全部あの冒険者(脳筋)です」


 相変わらずの言い草に思わず苦笑いが漏れてしまう、どうもセリーヌはあの冒険者(シャロン)のことが気に食わないようだ。普段の冷静で大人の対応をするセリ-ヌは、時折こういった子供らしい反応をすることがある。彼女の年はまだ16やそこらの少女といった風貌だ、流れるような薄いブロンドの長髪にバランスのいい鼻、目は大きく常に眠たそうな形をとっている。体つきは華奢でスレンダーな体型と言えるだろう、胸については彼女の名誉のために黙っておこう。


「まぁそういうなセリーヌ、あいつのおかげで俺も助かったのは事実なんだ・・・あぁシャロンはどうした、まだギルド(ここ)にいるのか」

「いえ、今日のところは帰っていただきました、副長がお目覚めになるまでまだかかるだろうとの治癒の剣の方が仰りまして」

「そうか・・・また明日にも呼んでおいてくれ礼がしたい、それとあの殴った奴は今どうしている」

「その冒険者なら現在ギルドの地下牢で拘束中です、暴れたので今は縄で縛られて牢屋の中で寝転がっているかと・・・あと礼の必要はないかと存じます」

「そうもいかん、何ども言うが助かったのは事実だ」


 助け方に問題があるがな、と彼は続けながら立ち上がろうとする。セリーヌは桶を机に置き彼の動きを止めるように前に出る、そして彼の肩に手を起きベットに座らせる。ふわりと女性特有の甘い香りがしてくる、協会まで走って汗もかいただろうにどうして女性はこうもいい匂いがするのだろうか、となんとも変態チックな事を考えてしまう。


「まだいけません、治癒の剣の方が意識を取り戻して再度診るまでは絶対安静とのことです」

「しかしなぁ、まだ仕事が終わってねぇんだよセリーヌ、これじゃぁ日のあるに帰れなくなっちまう」

「それでもです、副長の体は一人のものじゃないんですよ、最近遅くまで仕事なさっていますし。家にもって帰ってまで仕事をなさっているでしょう、皆心配なんです」


 彼女がここまで言うのだ、逆らうと言うのもなんだか申し訳ない。思い返せば確かに最近仕事のことばかり考えることが多かった、たまにはこういうのもいいか、そう呟いて彼は今しがた起き上がったベットに寝転がる。少しの沈黙、むくむくといたずら心が芽生えてくる。


「お前は心配してくれねぇのかい、セリーヌ」

「・・・」


 意地悪すぎだっただろうか、彼女は机に置いた桶の前に立つ、そのままこちらに背を向け黙っておしぼりを搾りだした。彼は短く息を吐き出し、すまん失言だ忘れてくれと謝罪の言葉を告げる。自分の馬鹿さ加減が嫌になる、心配をしない訳がないだろう。上司が気絶した、しかも人質に取られた状態で、心配しない方がおかしいだろう。


「・・・心配しましたよ」


 彼女の口から溢れた言葉だろう、小さくか弱い声だった。すまなかったもう一度謝罪の言葉を言う、こういう雰囲気は苦手だ、何をいえばいいのか全くわからなくなる。清潔感のある医務室がなんとも言えない沈黙に包まれる、部屋は重苦しい空気で一杯になる。消毒用のアルコールや様々な薬品の匂いを感じながら、どうやってこの空気を払拭するかを考える。


「お熱いのはいいがお二人さん、そろそろ診せてもらってもええか」


 急に彼ではない男の声が響き、そちらに目をやるとコワモテに短めの銀髪をオールバックにした男が扉を背に立っている。鍛え抜かれたがたいを動きやすさを重視した布鎧で鎧で包み、右手にタリスマンをあそばせながら男が歩いてくる。


「兄貴か・・・随分と大物が出張ってきたな」

「何言ってんだグリム、手前も一応ギルドの副長じゃ、わしが出張ってこんで誰が責任取れるんじゃ」

「ちがいねぇな」


 二人は長年の友人の様に軽口を飛ばし合う、それもそのはずこの二人は従兄弟同士なのだ。冒険者ギルド副長グリム・ガルディア、そして神聖教会剣治癒の剣隊長ガルム・ガルディアは従兄弟どうしであり、また二人とも祖父に兄弟の様に育てられた義兄弟であり、良き好敵手(ライバル)であった。グリムは別途の脇まで歩くと近くにあった椅子を引き寄せ腰掛ける。


「セリーの嬢ちゃんが血相変えて飛び込んできたもんでな、こりゃ一大事とわしが出たんじゃ」


 ガルムは喋りながら彼の体を調べていく、脈を取り目をのぞき込み、幹部に軽く触り痛みがあるかを問う。触られれば痛いと彼が答え問診に移る、気分は悪くないか、どこか感覚がおかしいことはないか診察は淡々と続いた。


「まぁおそらく大丈夫じゃろ、脈も正常じゃし見たところ頭を強く打ったせいでコブはあるが、問題ない程度のもんじゃ」

「そうか・・・そういえば薬屋のオヤジはどうだった、大丈夫だったのか」


薬屋のオヤジは大丈夫だったのか、副長としてまっさきに聞くべきことが聞けなかった、俺は最近平和ボケしていたようだ。


「あぁ、薬屋のオヤジじゃったらもうピンピンしよるぞ、今さっきまで「さっさと帰せ、俺はそんなにやわじゃない、俺よりも早く副長を見てこんか馬鹿たれ!」とわしに言ってきよったわ」


 似ていないモノマネをしガッハッハと大口を上げながら笑うガルム、彼の中に安堵が広がる。そうか、無事だったか。自分でも一人の市民を守ることができた、それだけで彼は満足だった。


「オヤジの傷の方は大丈夫だったのか」

「見た目派手に血が出とったが深い傷ではなかった、なに止血と血脈促進の処置をすればすぐに目を覚ましたわ」

「そうか・・・よかった、副長としての仕事はまっとうできたわけか」

「副長はサボることはありますが、きちんと職務をまっとうしていらっしゃいます」


 いつの間にか別途のわきにセリーヌがいた、グリムの反対側に位置する場所にいるので気付かなかったようだ。しかし気になることがある、俺はサボってなどいないということだ。


「おいおいそれじゃ俺がサボっているようじゃないか」

「事実です、見回りと称して散歩に行くのは立派なサボタージュです」

「ウグッ・・・」


 どうにもセリーヌをいい負かすことはできそうにもない、これからはもう少し散歩に行くのも控えたほうがよさそうか。また大口を開けて笑うガルムがひどく憎らしく感じる、一発ケリでも入れてやりたい


「それで?グリムよ手前さん今回の一件どう手打ちに持っていくつもりじゃ、まさかこのまま大円団なんてお粗末な話にもってくつもりじゃぁなかろお」

「当たり前だ、あの馬鹿は御法度の一般人への暴行を行なったんだ、洗いざらい吐かせて冒険者として落とし前付けさせるつもりだ」

「ふむ・・・追放処分か・・・実質の死刑宣告かの」


 追放処分、これは非常に重い処罰だ。もともとインポーターになる人間は約三つの種類に分けられる、一つは街を守りたいという気持ちを持った者、もう一つは外にロマンを見て突き進むもの、そして食い扶持に困ったものだ。そして最も多いのがこの食い扶持に困ったものだ、つまり一般に冒険者とは、もう冒険者になる以外に道がなかったものが進む先のことなのだ。追放処分は言ってしまえばギルドの利用が不可能になるということだ、更に言えば余程のことがないと追放されないギルドを追放される、ということは実質の死刑宣告なのだ。職に就くこともできず、明日の飯にも泊まる場所にも困りながら生きていく、辛く厳しい救いのない冒険者の終着点、それが追放処分なのだ。


「前々から思っておったが、追放というのは少々重すぎるのではないかの」

「何言ってんだ兄貴、一般の人間に手を挙げるのはやっちゃいけねぇ御法度だ、そこを許しちまったら冒険者はただの無法者に成り下がっちまう、それは許されないことだそれに、先代の意志にも反するしな」

「確か「最大多数の最大幸福」じゃったか」


ガルムは難しい顔をしながら腕を組む、唸りながら考え込む様子を見て彼は苦笑いを浮かべる。確かに追放処分は重い、だからこそ御法度の一般人に対する暴力など、あまりにも酷い犯罪を犯した時にしか適用されないのだ。死刑よりもある意味むごい処罰である、ということは自分でも分かっているつもりだ。しかし、ここで引けばギルドの存続に関わる、たとえ一人が自業自得で惨たらしく死んだとしても、他のメンバーにとばっちりが行ってはもはやギルドに意味はない。


「兄貴、あんたが言いたいことはわかる、神聖教会の教えは平等の救いだ。だから兄貴が救ってやりたくなる気持ちはよくわかる、でもなここで筋を通さなきゃぁギルドは名折れだ・・・それはわかってくれ」

「分かっておる・・・分かっておるからこそやり切れんのだ、わしは今回の事件を起こした者を救うことができるだろう、しかしこれから先全員を救ってやることはできなんだ・・・わしは無力じゃなぁ」

「兄貴が気にやむことじゃねぇさ・・・っさてもう動いてもいいのか、アウトローのクラン長が来てんだろうからな、おいセリーヌギルド長は」


暗く重い空気を振り払うように、彼は話を変えセリーヌに話しかける。セリーヌはおそらくスケジュールを纏めているであろう手帳を開き報告する。


クラン長(馬鹿タヌキ)は副長が寝ていらっしゃる間にお見えになりました、ギルド長(阿保キツネ)は現在職務を放棄し二人で乳繰り合っております」

「こらセリーヌ!そんな言葉を使うなといっただろうが、あと二人のことは狐と狸じゃなくきちんと呼びなさい」

「すみません、クラン長(馬鹿)ギルド長(阿保)は現在応接室で会談と言うなのきな臭い話をしています」


そこまでクラン長、ギルド長と呼ぶのが嫌なのか、一応もう一度ちゃんと呼ぶように言っては見たものの、まるで苦虫を口いっぱいに詰め込まれたような顔をして「善処する」とのお答えを頂いた。


「それじゃぁ兄貴、俺は今から少し話し合いにいかなきゃならんから失礼すっぜ、まぁゆっくりしてってくれや」

「ん・・・おぉっそうかそうか!しっかり落とし前つけて、このようなことがないようにつとめるんじゃぞ、誘いは嬉しいがわしは帰るとしよう、仕事がたまっておるからのう、ではラムド様の御加護のあらんことを」

「ああ、ありがとう、ラムド様の御加護のあらんことを」


ガルムは祈りを捧げ、彼が祈りを捧げたことを確認するとガルムは踵を返し出口から出ていった。その時の彼の後ろ姿は、何処か憤りを感じさせるものだったが、セリーヌとグリムはそれに気づくことはな無かった。

誤字脱字等ございましたら、御一報ください。

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