宮野翔太のサークル選び
少し前の作中に登場していた、宮野翔太の入学当初の物語。
入学したての彼の目の前には、サークルを勧誘する先輩達で校内はお祭り騒ぎだ。
「宮野翔太のサークル選び」
僕の名前は宮野翔太。 霊障学部の1年で、ただいま絶賛迷い中であります。
何を迷っているかって?
見てほしい。
この圧倒的な数のサークルの種類と内容に。
・「心霊スポットに付き添い隊」
・「リケ助オカルト研究部」
・「霊障24時!定点カメラ放映部」
・「夜更けのパトロール同好会」
・「怪談100人夜話部」
・「百鬼夜行連合サークル」
・「心霊写真部」
普通の大学ならテニスとか軽音とかあるんだろうけど、この大学にはそんな"普通"は存在しない。
「心霊卓球部」
まてまて。卓球と心霊は関係あるのか?
「呪怨合唱団」
呪いの合唱って普通に怖いだろ。
心霊要素がないといけない縛りでもあるのか?
しかも、全国大会出場経験ありとか。 お笑いなのか。
どれを選んでも絶対まともじゃないな。
宮野は入り口で配られた、サークル・部活案内表を見ながら内容や実績を見ていた。
どこの大学でも活動実績が学校から認められると、サークルから部活に昇格する。
部に昇格すると運営資金と部室が与えられる。
それを満たさない個人運営サークルが沢山あるのだ。
個人的な活動を含めると、大学側でもいくつ存在するか把握しきれていない。
みんな部員確保のために、必死でアピールしている。
「安心安全な活動を今年こそ目指します!」
「部員行方不明率は昨年度比30%減してます!」
いやいや、それは普通に事件だろ。
もはや、校内は文化祭のようなお祭り騒ぎだ。
「はい、そこのお兄さん! オカルト好きちゃう?
自作の機材で、一緒に幽霊探そうや!」
これはリケ助オカルト研究部だ。
面白そうな人だ。
「ちょっとちょっと。肝試しに興味ない?一緒について行ってあげるよ!そうだ!廃墟に行こう!」
京都に行こう!的なノリで言われてもなぁ。
頭にタオルまいて職人さんみたいだな。
少し歩くだけで沢山の人に声をかけられる。
これも人脈作りに繋がると思い、宮野はいろいろ話を聞いてまわっていた。
さすがに疲れた。
帰ろうかな……そう思った時だ。
ひらり。
一枚の紙が、風もないのに僕の足元へ滑ってきた。
「……ん?」
拾い上げる。
ほかのチラシと違って、飾り気は一切ない。
白い紙に黒い文字だけが並んでいた。
『あなたの怪異、祓います』
たったそれだけ。
活動内容も、部室も、連絡先も書かれていない。
あるのはその文章だけだった。
裏面にも文字が書いてある。
『本当に視える人だけ来てください』
「……なんだこれ」
新歓にしては怪しすぎるぞ。
詐欺だろ。
ま、この大学じゃ今さらか。
苦笑いしながら紙を丸めようとした。
「あなた。そのチラシが視える人ね」
突然、背後から声がした。
驚いて振り向く。
そこには黒髪を肩まで伸ばした、一人の女の子が立っている。
「地獄少女?」
「誰がよ」
ざわつきながら生徒たちが道を開けていく。
「九条先輩だ。綺麗ね」
「今年も探してるのか」
彼女は宮野の手にある紙を取り上げ、ジッと見つめる。
「やっと見つけた」
「……何がですか?」
「そのチラシの内容、普通の人には見えないの」
「……はい?」
思わず手元の紙を見直す。
そこには確かに、
『怪異相談会』と書いてある。
『本当に視える人だけ来てください』
そう書かれている。
「いや、普通に文字ありますけど」
「それが見える人と見えない人がいるの」
彼女はあっさりと言った。
「他の人には白紙にしか見えないわ」
「そんな馬鹿な」
近くを歩いていた男子学生を呼び止める。
「あの、すみません。この文字何て書いてあるか
見えますか?」
「え?」
男子学生は紙を受け取り、首を傾げた。
「……何も書いてないけど?」
「?」
「白紙じゃん。落書きでもするの?」
彼には文字が見えていない。
宮野は何度も男子学生と紙を見比べた。
「じゃあ失礼」
男子学生は去っていく。
「……マジ?」
「マジです」
彼女は苦笑した。
「視える新入生を探していたの」
「何をです?」
「その文字を視える人を」
その言葉に、妙な違和感を覚えた。
「いや、でも僕、霊感なんてないですよ」
「最初はみんな初心者よ」
「いやいやいやいや」
慌てて手を横に振ると、彼女は一歩近づいてきた。
「失礼。自己紹介がまだでしたね」
彼女は胸に手を当てる。
「呪術学部二年、九条玲奈です」
「霊障学部1年、宮野翔太です」
「よろしく~」
「いや、よろしく~じゃなくて」
僕は紙を見せる。
「そもそもこの怪異相談会って何なんですか?」
九条の目が輝いた。
「困っている怪異を助けたり!」
「助けたり?」
「暴走した怪異を止めたり!」
「止めたり?」
「だから世界を救うのよ」
「スケールがおかしくないですか?」
「この大学では普通です」
いや絶対普通じゃない。
「だから……」
……チリン
どこかで鈴の音が鳴った。
ガヤガヤする中でひときわ響く鈴の音。
騒がしい中でこんなに聞こえる訳がない。
九条の表情が変わる。
宮野も耳を澄ましている。
「あなたにも聞こえてますか」
「ここじゃなんですから、場所を変えませんか?」
もう宮野の頭の中で整理が追いつかない。
「今日は帰ります。情報過多で頭が痛いです」
「これ、私の携帯番号」
九条は連絡先を書いた紙を宮野に手渡した。
「ご丁寧にどうも」
たくさんのチラシを片手に宮野は大学を出た。
宮野が住むアパートは大学からそう遠くはなかった。
近くのスーパーで半額の弁当を買って、宮野は夜道を歩いていく。
「……しかし、今日は災難だな」
大学での出来事が頭を離れない。
白紙にしか見えないチラシ。
九条玲奈という先輩。
「本当に視える人だけ来てくださいか」
思い返すだけで頭が痛くなる。
夕方になり、サークル勧誘広場の人はまばらだ。
九条玲奈は大学本館の屋上で、眼下を歩く宮野翔太を見下ろしていた。
隣には、スーツ姿の男が腕を組んで立っている。
半透明の身体を持つ九条の式神の竜崎だった。
「視えるだけの学生かもしれませんよ?」
「それならそれでいいわ」
九条は静かに答える。
「でも、あの鈴の音が聞こえた」
「……まさか」
「視える人は珍しくない。でも、あの音まで聞こえる人はほぼいない」
九条は視線を宮野から外さない。
「鈴の音を聴こえたら必ず数日以内に怪異が現れる」
「だから放ってはおけないのよ」
竜崎は黙って頷いた。
「なるほど。それで監視を」
「数日でいいわ」
九条は真っ直ぐ前を向いた。
「何もなければそれでいい」
「もし何かあれば?」
「私が動く」
竜崎は小さく頷く。
「御意」
竜崎は夜風に溶けるように闇に消えていった。
翌日。
講義開始十分前。
宮野は教室の一番後ろの席へ座る。
「眠い……」
教壇では教授が霊障学概論について熱弁を振るっている。
竜崎は腕を組んだまま離れて見ている。
「……普通だな」
昼休み。
宮野は学食の日替わり定食をする。
特に変わったところは見られない。
放課後。
宮野はスーパーへ寄って自宅に帰る。
二日目。
宮野は道端で転んだ子どもを起こし、散らばった荷物を拾ってやる。
迷子の一年生を校舎まで案内する。
三日目。
雨の中、濡れた野良猫へ自分の折りたたみ傘を屋根代わりに立て掛ける。
竜崎は遠くからその様子を眺め、小さく呟いた。
「……優しすぎないか」
報告を受けた九条も首を傾げる。
「異常なし?」
「柔道経験者らしいですがそれ以外は普通です」
「怪異は?」
「まったく反応しません」
九条は腕を組んだ。
「思い違いだったのかしら……」
その夜に異変は起きた。
竜崎はいつものように宮野の後をつけている。
スーパーで買った半額弁当の袋を揺らしながら、宮野は住宅街を歩いていく。
「今夜は妙に静かすぎる」
チリン
澄んだ鈴の音が夜道に響く。
竜崎の顔色が変わる。
「……来た!」
暗闇がゆっくりとうごめき始める。
宮野はその異変に気付いていない。
そして数秒後。
一本の青白い腕が、闇の中から静かに伸びてきた。
チリン。
チリン。
鈴の音が聞こえる。
宮野は足を止めた。
「……これ、この前も聞こえた……」
音はすぐ後ろ。
気配がある。
宮野は立ち止まると深呼吸をした。
目の前の暗闇の中から、ゆっくりと一本の手が伸びてくる。
青白く、異様に長い腕。
宮野の肩へ向かってそれは伸びてくる。
「腕?」
考えるより先に体が動く。
腕を取る。
一歩踏み込む。
腰を落とす。
「はっ!」
一本背負い。
ドゴォォン!!
地面が揺れた。
砂ぼこりが舞う。
静寂。
数秒後。
「いってぇぇぇぇ!!」
土煙の中からスーツ姿の男が転げ出た。
「ちょっと待てぇ!!普通いきなり投げるか!?」
「……しゃべった」
宮野は目を丸くする。
「怪異ってしゃべるのか?」
「気になるとこはそこかよ!」
男は腰を押さえながら立ち上がる。
「イタタタタ」
ボロボロのスーツ。
乱れたネクタイ。
だが、その体は半透明だった。
足先は地面から数センチ浮いている様に見える。
「……幽霊?」
「違うわ!式神みたいなものだ」
「よくわからんな。なぜ俺をつけていた」
「九条様の命令でお前を監視してたんだ」
「九条って誰だ?」
男は大きくため息をついた。
「前に会ってるだろ!しかし本当に見えているとは。式神の私を投げるなんて聞いたことがないぞ」
その瞬間、後ろから別の気配が迫る。
ズルッ
男の背中から黒い腕が一本、生えた。
続いて二本目。
三本。
そして十本。
闇そのものが形になって、無数の腕が男の体へ絡みつく。
「マズい!」
男の表情が変わる。
「宮野くん!逃げろ!」
黒い腕は男を闇へ引きずり込もうとしている。
しかし宮野は迷わず黒い腕を取りにいく。
ゾワッ。
「……こいつ、冷たっ!」
氷より冷たい。
生き物とは思えない感触。
黒い腕がギギギ……と宮野へ向きを変えた。
暗闇の奥にぼんやりと全体のフォルムが見えてきた。
相手の体さえ捉えられれば勝機はある。
「生者がァァァァァ……」
低い声が夜道に響く。
「ワタシに触れるなァァァァ!!」
黒い腕が一斉に襲いかかる。
宮野はその腕をギリギリでかわし半歩踏み込む。
腕を引く。
足をかける。
同時に体を押し出す。
竜崎が思わず叫んだ。
「体落としか!」
ズドォォォォン!!
怪異の巨体が地面へ叩きつけられる。
アスファルトに蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
「ギャアアアア」
悲鳴にも似た叫び声が響きわたる。
黒い霧が夜空へ舞い上がった。
怪異は苦しげに叫び、その姿を保てなくなっていく。
「バカな……何者だお前は………」
そして言葉虚しく消えていく。
静寂が戻った。
竜崎は呆然とつぶやく。
「まさか……怪異を投げたのか?」
竜崎は口を開けたまま固まっている。
「……なんなんだ君は」
宮野は自分の手を見る。
「自分でもよく分からないです」
少し離れた街灯の上。
長い黒髪を夜風になびかせ、九条玲奈は戦いの一部始終を見ていた。
「……ここまでとは」
その瞳には驚きと確信が入り混じっていた。
「怪異を素手で掴み、しかも投げたというのか」
九条の口元は明らかに笑っていた。
「これではどちらが怪異か分からぬな」
その日を境に、宮野翔太の日常は終わった。
そして彼はまだ知らない。
自分が創立以来の"異常な存在"であり、 観測される側になったことを。
2話へ続く
最後まで読んで頂きありがとうございました、
今後も2話、3話と続けていきたいと思います。




