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短編ホラー

カマキリが死んでいる

作者: 壱原 一
掲載日:2026/05/09

朝遅く近所を散歩する。


川辺でカマキリが死んでいる。


灰色の小石と砂利の合間に曇った死眼しまなこで鎌を垂れ尻から頭まで浸かってせせらぎにちろちろ揺れている。


緑の表と黄緑の裏が水を吸って少しふやけている。


ごわごわ硬そうな質感の中はすかすかと弛み凹んでいて、茹でて剥いたとうもろこしの皮に似ている様に感じられる。


れはハリガネムシの幼虫に寄生され育った成虫を水へ放つため川へ行くよう仕向けられ放ち終えて死んでいるカマキリだ。


カマキリが水へ着いたと覚ると成虫は腹からずる(・・)と出る。黒っぽい糸状の体を水に委ねて産卵し幼虫がカマキリの食すユスリカなぞに寄生する。


それを食べたカマキリがまたこうなる。


知らず足を止め眺めていてふと我に返り足を引く。


引きしな小石と砂利が擦れ死んでいるカマキリが裏返る。黄緑スカスカふやふやの弛んだ腹の1点からにゅる(・・・)と白っぽい糸が出る。


ハリガネムシのアルビノだ。


俄然かがんで被り付きで見ると先にこぶめいた球が付いている。


瘤の付け根と糸の終端の2箇所、左と右の側面から、触覚めいたひげ状の線が1対ずつしなやかに伸びている。


此れはハリガネムシでは無いが同様に1m程の長さ。


出切って川の流れに乗り、川幅の半ば辺りで瘤を突き出して伸び上がる。


終端の対の髭の先を残し、垂れた釣り糸の如く宙へ立つ。


すっと細筆で描いた感じに歪み無くすんなり宙へ立って、せせらぎに震え、風に揺れて、恐らく魚に食い付かれくん(・・)と川の中へ戻って行った。


*


見届けて注意が散じると、休日にのんびり起き出して、飯を食わず散歩しているので、流石に腹が減ったようでしくしく切ないきしみが湧く。


死んでいるカマキリが裏返る川辺から立ち上がり反転し、何を食べようか思案しながら軋む腹をさすり家へ向かう。


手早く出来る物が良い。


さっと茶漬けはどうだろう。


昨日釣って食べたイワナの刺身が冷凍庫に残っている。



終.

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