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白旗は、純白に洗い上げられた「雑巾」でした


王宮の謁見の間。

アルフォンス三世は、震える手で玉座の肘掛けを握りしめていた。

石鹸奪還のために派遣された三千の軍勢。その「結果」を報告する使者が、今、扉の前に立っている。


「……入れ。して、ルシアンの首は……いや、せめて石鹸の製法は奪えたのか?」


扉が開き、入ってきたのは第一騎士団長だった男――だった。


「……陛下。お初にお目にかかります。……いえ、お久しぶりです、でしょうか。……あまりに世界が……輝いて見えるもので……」


「……だ、誰だ、貴様は!?」


王が絶句するのも無理はなかった。

かつて泥臭い威圧感を放っていた武骨な団長は、今や「発光しているのではないか」と思うほど肌がツルツルに磨き上げられ、髪は天使の輪が三重に重なるほどキューティクルが輝いている。

さらに、あろうことか彼はフルプレートの鎧ではなく、ルシアンから支給された「純白のバスローブ」を纏い、足元は高級スリッパだった。


「報告いたします。……敵は、存在しませんでした」


「なんだと……!? 三千の兵が全滅したというのか!?」


「いいえ。……『ただ、非常に快適でした』」


団長は、うっとりとした表情で自分の指先を見つめた。


「陛下。泥にまみれ、油に汚れ、汗を流して戦うことが『勇気』だと思っていた拙者は、愚かでした。……ルシアン殿の『高圧洗浄』を受けた瞬間、悟ったのです。……戦いとは、精神の不潔が生み出す『シミ』に過ぎないと。……拙者、もう剣は持てません。……自分の手が汚れるのが、耐え難いのです」


背後の騎士たちも、揃って「……はい、快適でした」「……お肌、モチモチです」と虚空を見つめ、恍惚の表情で頷いている。


彼らは敗北したのではない。「洗浄クレンジング」され、戦士としての野心そのものを洗い流されてしまったのだ。


――



「……だ、だめだ。あやつは、物理的な武力では倒せん。……人の『戦意』そのものを中和しおった……!」


アルフォンス三世は、玉座に深く沈み込んだ。

今や王宮内も限界だ。侍女たちはルシアンの石鹸を求めて暴動寸前。大臣たちはカビの生えた書類を読みすぎて全員咳き込んでいる。


「……白旗を上げろ。……私が、私自らが出向く。……ルシアンに、土下座をしてでも戻ってきてもらうのだ……!」


「陛下!? 王自ら深淵に降りるなど、前代未聞です!」


「黙れ! このままでは、この国は不潔で滅びる! 私は……私は、あの団長のような『輝く素肌』を、一度でいいから手に入れてみたいのだぁぁ!!」


結局、王の本音はそこだった。


――


数日後。ダンジョンの入り口。


豪華絢爛な馬車から降り立ったアルフォンス三世が見たのは、門柱に掲げられた**「真っ白な布」**だった。


「……ほう。白旗ですか。……にしては、少々『繊維の奥の汚れ』が目立ちますね」


門の向こうから、トングを手にしたルシアンが、ニーナとグラちゃん(黒竜)を従えて現れた。

王は、かつて自分が追放した執事の前に膝をつき、必死に訴えた。


「ルシアン! すまなかった! 貴公を追放したのは、私の不徳の致すところだ! 頼む、王宮に戻ってくれ! 給料は十倍、いや、王国の全家事権限を貴公に譲る!」


「……お断りします」


ルシアンは眼鏡を冷たく光らせ、一歩も引かなかった。


「陛下。……貴方のその、脂ぎった顔面。……そして、その土下座で汚した私の入り口の大理石。……今の貴方は、私にとって『戻ってほしい相手』ではなく、『一刻も早く消毒すべき、巨大な病原体』にしか見えません」


「なっ……! ならば、どうすれば許してくれるのだ!?」


「……。ニーナ、用意しなさい」


ルシアンが指を鳴らす。

瞬間、王の背後に、巨大な『自動洗浄ドラム(国王専用・デラックス版)』がせり上がってきた。


「許しが欲しいのであれば、まずその不潔な権力と、蓄積した皮脂をすべて洗い流しなさい。……陛下。貴方は今日から、国王ではありません。……『洗濯物』です」


「……せんたく、もの……?」


「はい。……グラちゃん、吸い込みなさい。……全自動コース、『頑固な汚れ(政治的腐敗)』モード、開始です」


『(グ、グルゥゥゥゥ!!)』


王の悲鳴が、ラベンダーの香る深淵へと吸い込まれていった。

こうして、王国の頂点に立つ男は、一人の執事の手によって「人生最大の洗濯」を受けることになったのである。


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