表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

強欲な軍勢、「一括洗浄されるべき汚れ」


王都から派遣された「石鹸回収騎士団」と、一攫千金を狙うならず者の混成部隊、総勢三千。

彼らは今、かつて「絶望の門」と呼ばれた【深淵の魔窟】の入り口を包囲していた。


「ルシアンよ、聞こえるか! 陛下の寛大なるお達しだ! その『聖なる石鹸』の製法と在庫をすべて差し出せば、貴様の不敬罪を許し、再び王宮の掃除夫として雇ってやろう!」


拡声の魔道具で叫ぶのは、成金趣味の金ピカの鎧に身を包んだ、第一騎士団長。その背後には、略奪の機をうかがう下卑た笑いの男たちが武器を構えている。


彼らの足元は、数日間の行軍で泥にまみれ、鎧からは手入れ不足の油臭さが漂っていた。


――


その頃、ダンジョンの監視ルーム。


「……ルシアンさん、来ちゃったよ! 本物の軍隊だよ! さすがに三千人を相手に掃除は無理じゃない!?」


ニーナがガタガタと震えながらモニターを指差す。しかし、ルシアンは優雅にモーニングティーを啜り、レンズの曇りを丁寧に拭き取っていた。


「ニーナ、貴方は『ゴミの量』を見て怯えるのですか? 百個の塵も、三千個の塵も、一箇所に集めてしまえば『一袋のゴミ』に過ぎません」


「考え方がもう、人間を人間として見てない……!」


ルシアンは静かに立ち上がると、白手袋の指をパチンと鳴らした。


「グラちゃん。……少し、外の空気を『換気』してきなさい。……ただし、あまり激しく焼いてはいけませんよ。すすが出ると、後片付けが面倒ですから」


『(グ、グルゥゥゥ……承知いたしましたぁぁ!)』


白銀色に磨き上げられた巨大な掃除機――元・黒竜が、歓喜の咆哮を上げて地上へと飛び出した。


――


「な、なんだ!? 洞窟から銀色の光が――」


騎士団長が絶句した瞬間、空から降り注いだのは炎ではなかった。

それは、グラオザームの肺活量によって生み出された、超広範囲の『吸引旋風サイクロン・バキューム


「うわあああ! 体が、体が吸い込まれるぅぅ!」

「泥が! 鎧が脱げる! 助けてくれぇ!」


三千の軍勢は、抵抗する間もなく一箇所に吸い寄せられ、巨大なピット(ゴミ集積場)へと放り込まれた。そこは、ルシアンが事前に『空間定義』しておいた、巨大な「自動洗浄ピット」である。


「――『自動洗浄オート・ウォッシュ』、開始」


ルシアンの声が、魔法放送でピット内に響き渡る。

次の瞬間、天井から降り注いだのは、高濃度のスライム抽出洗浄液と、超高圧の浄化水。


「ひ、ひぎぃぃ! 目が、目が洗われる! 心の汚れまで洗われていくぅぅ!」

「助けてくれ! 拙者の誇り(自慢の髭)が、一瞬でツルツルに剃り上げられたぁぁ!」


騎士たちは、ルシアンの権能によって「強制的な丸洗い」に処された。

泥、油、錆、そして「奪ってやろう」という汚い野心までもが、特製石鹸の泡によって徹底的に中和されていく。


――


数時間後。


ダンジョンの入り口には、「完全に真っ白に燃え尽きた三千人の全裸の男たち」が、等間隔で綺麗に並べられていた。

彼らの肌は赤ん坊のようにツヤツヤで、髪はキューティクルが輝き、瞳からは一切の覇気が消え失せ、ただただ空の青さを見つめている。


「……ふむ。ようやく、『人として並べておける程度』には綺麗になりましたね」


ルシアンはピットから出てきた騎士団長だったものの額をトングで小突き、冷淡に言い放った。


「貴方方を『可燃ゴミ』として焼却しなかったのは、私の慈悲ではありません。……丸洗いした後の貴方方の皮膚が、良い『石鹸の乾燥具合』を測る検体として、再利用価値があったからです」


「……も、もう……不潔には……戻りたくない……」


騎士団長は、自らのピカピカに輝く指先を見つめながら、ポツリと涙を流した。


「ニーナ。この『磨きすぎた廃人ゴミ』たちを、王都の門前まで一括配送(ポイ捨て)しなさい。……陛下へのメッセージは、『これ以上の不法投棄は、罰金として王都全土の強制洗髪ヘッドスパを執行する』で良いでしょう」


「……ルシアンさん。……たぶん、あの人たち、もう二度と武器持てないよ。……だって、鏡に映る自分が綺麗すぎて、自分を汚すのが怖くなってるもん……」


深淵の底から放たれた、史上最強の「平和クリーン兵器」。

武力による解決を試みた王国は、その「清潔さという暴力」の前に、戦う意志さえも綺麗さっぱり洗い流されてしまうのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ