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魔王、美容の深淵に溺れて「おかわり」を要求す


隣国・バルザード魔王国。

かつて「血と鉄の国」と呼ばれたその場所は、今や「石鹸とローションの聖地」へと変貌を遂げていた。


ルシアンに磨き上げられて帰還した一万の精鋭たちは、戦斧を捨てて「軽石」を持ち、魔術で火を放つ代わりに「ナノスチーム」を生成し始めた。国民たちは、魔王のピカピカの肌(スタンプ付き)を見て、恐怖ではなく「……あのお肌になりたい」という憧れを抱くようになったのだ。


だが、最も重症なのは、魔王バルザード本人だった。


「……おのれ……。この、毛穴の一つ一つが呼吸をしているかのような全能感……。我が玉座のクッションが、不潔で座ってられんわ!!」


魔王は、自らの城の「わずかな埃」に耐えきれず、再び軍勢……ではなく、「空の特大ボトル」を背負った精鋭たちを率いて、再び【深淵の魔窟】へと全速力で進軍した。


***


「――来たよ、ルシアンさん! また魔王軍だよ! 今度は武器じゃなくて……あれ、何? 巨大なボトルを持ってるんだけど!」


ニーナがモニターを見て絶叫する。

ルシアンは、ティーカップの縁を丁寧に拭きながら、冷ややかな一瞥をくれた。


「……。懲りない方ですね。……前回、あれほど『不法投棄』として処理したはずですが。……ニーナ、グラちゃん。……本日、私は『大掃除』の予定はありません。……追い返しなさい」


「いや、魔王様、入り口のマットの前で正座して待ってるよ!? しかも、前回よりもさらに身なりを整えて、『入館許可』を求めてる!」


***


ダンジョンの入り口。

魔王バルザードは、自慢の漆黒の鎧を「これでもか」というほど磨き上げ(自力)、泥一つ付けていない靴で、震えながら立っていた。


「ル、ルシアン殿! 侵略ではない! 今日は……今日は、『定期メンテナンス』の予約に来たのだ!」


扉が開き、トングを持った死神ルシアンが姿を現した。


「……予約? 私のスケジュールには、貴方のような『歩く皮脂汚れ』を入れる余白はありません。……お引き取りを。……その、背負っている不気味なボトルも不快です」


「待ってくれ! これは、貴公の石鹸……あの『白い石鹸』を分けてもらうための容器だ! 国中の女たちが、あの石鹸なしでは暴動を起こすと叫んでおるのだ! 頼む、この通りだ! 略奪ではない、正当な対価(金貨の山)を払う!」


ルシアンは、差し出された金貨を一瞥し、鼻で笑った。


「金貨? ……そんな、不特定多数の不潔な手が触れた『雑菌の塊』など、私の管理区域には持ち込ませません。……どうしても石鹸が欲しいのであれば」


ルシアンは指を鳴らし、背後のスケルトン・ウェイターに合図を送った。

『……畏……マリ……マシ……タ。……魔王……サマ……。……コチラ……ノ……「高濃度塩素プール」デ……金貨……一枚……ズツ……消毒……シテ……カラ……御入館……下サイ』


「い、一枚ずつだと!? 数万枚あるのだぞ!」


「嫌なら、その脂ぎった顔面のまま、永遠に自分の不潔な城に引きこもる事ですね」


***


数時間後。

一枚一枚、丁寧に消毒された金貨を納品し、ようやく「入館許可」を得た魔王たちは、再びルシアンの「地獄のスパ」へと案内された。


「――『特別集中:角栓引っこ抜きコース』、開始」


「ぎぃゃああああ! 鼻の頭が! 鼻の頭の汚れがぁぁ! ……あぁ、でも……抜ける……! 悪の根源(汚れ)が、根こそぎ抜けていくぅぅ!!」


魔王は、ルシアンの超精密トングによる「毛穴掃除」の前に、再び廃人となった。

魂まで真っ白にブリーチされ、ルシアン特製の乳液で全身をコーティングされた彼は、もはや魔王としての威厳など微塵もない。


「……。ふむ。……これで一ヶ月は、『可燃ゴミ』として処理せずに済む程度にはなりましたね。……さあ、石鹸を詰めたら、さっさと帰りなさい。……廊下を汚さないように、つま先立ちで歩くのですよ」


「……は、はい……。……ありがとうございます、ルシアン師匠……」


魔王バルザードは、石鹸の詰まったボトルを愛おしそうに抱え、ピカピカに輝く素肌で、ステップを踏むように国へと帰っていった。


***


「……ルシアンさん。……あの人、絶対また来るよね」


ニーナが呆れ顔で呟くと、ルシアンは新しい手袋をはめ直し、満足げに微笑んだ。


「……構いませんよ。……世界中の『汚れ』が自らここへ来て、私の洗剤に跪くのであれば。……それが、この世界を最も効率的に『整理整頓』する方法ですから」


深淵の魔窟。

そこは今や、各国の首脳が「美肌」と「安らぎ」を求めて巡礼に訪れる、世界で最も清潔で、最も恐ろしい、究極の美容聖域となっていた。


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