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最高の悪役を目指した結果、俺は神話の存在すら利用する--理想の悪役を追い求める物語  作者: あんこ


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第3話 悪役は一線を越える


戦闘を無事に終えた俺は、そのまま勢いを落とすことなく森を駆け回った。

相手はゴブリン、ボア、コボルトといった、いわゆる雑魚と呼ばれる魔物たちだ。


だが、雑魚であろうと魔物は魔物。

牙も爪も確かにこちらを殺しに来るし、油断すれば命を落とす。


それでも――倒せる。


短剣を握る手に迷いはなく、身体は驚くほど軽かった。

一体、また一体と魔物を斬り伏せる度に、身体の奥からじわりと熱が滲み出す。


分かる。

はっきりと、分かる。


力が、積み重なっていく。


レベルが上がるという現象を、数字ではなく実感として理解していた。

筋肉が悲鳴を上げることはない。呼吸も乱れない。

むしろ、動くほどに身体が馴染み、思考が冴えていく。


気付けばLv8に到達していた。


――楽しい。


強くなる。

それを自分の身体で実感できるというのは、こんなにも愉悦に満ちているのか。それに低レベルだからこそ伸びが良い。


もっと。

もっと倒せる。

もっと強くなれる。


……が、調子に乗りすぎるのは危険だ。


ここは俺の遊び場ではない。

バレれば確実に面倒なことになる。


というわけで、十分に狩ったところで切り上げることにした。

今はまだ、“大人しくしている悪役令息”である必要がある。


幸い、大きな怪我もなければ返り血を浴びることもなかった。

多少服が汚れた程度だが、剣の訓練をしていたと言えば誤魔化せるだろう。


俺はそう判断し、静かに屋敷へと戻った。



結果から言えば、問題なく戻ってこれた。


短剣をそのまま持ち帰ってしまったが、倉庫を頻繁に確認する者はいない。

自室に隠しておけば、まず見つかることはないだろう。


父様と二人で食卓を囲み、他愛もない会話を交わす。

領地の話、最近の天候、使用人たちの様子。


その中で、俺は何気ない風を装って一つお願いをした。


剣術の家庭教師を呼んでほしい、と。


自分でも驚くほど素直に口から出たその言葉に、父様だけでなく、給仕していたメイドや控えていた執事までもが一瞬固まった。


当然だ。

これまでのアルフレッドは、傲慢で怠惰で努力を嫌う典型的な悪役令息だったのだから。


だが、魔物を倒して強くなる感覚を知ってしまった以上、独学で満足する気はない。

剣術、武術、魔法――基礎から叩き込み、全てを糧にする。


悪役は、弱くては務まらない。


部屋へ戻り、静かに扉を閉める。


さて、と。


アルフレッド強化計画を本格的に煮詰めなければならない。

今のままでは、魔物狩り一つとっても制限が多すぎる。


父様、執事、メイド。

全員の目を掻い潜って行動しなければならない以上、効率は最悪だ。


このままでは“圧倒的な強さ”には届かない。


「……やっぱり、魔法だよな」


呟きながら、思考は自然と一つの結論へ辿り着く。


オリジナル魔法。


エーデルワイス・クロニクルの世界に存在した、特殊にして危険な魔法体系。

効果、属性、見た目――全てを自分好みにカスタマイズできる、自由度の塊。


ゲーム時代、俺はそれを使いこなしていた。


だが、ここは現実だ。

オリジナル魔法が本当に存在するのか、使えるのか、挙動はどうなるのか。


そもそも、今日の戦闘では魔法自体を使っていない。

魔力が扱えるのかどうかすら、確証はない。


「……まぁ、天才設定らしいしな」


そう、アルフレッドは天才という設定だった。

ならば使えないはずがない――たぶん。


「まずは普通の魔法からだな。行き詰まったら魔法書を読む」


そう決め、最も簡単だとされる光魔法――ライトを試す。


頭の中で、光を灯すイメージを明確に描く。

そして、短く呟いた。


「ライト」


瞬間、身体から僅かに何かが抜け落ちる感覚。

同時に、目の前に小さな光球が浮かび上がった。


なるほど。

これが魔力が消費される感覚。


そして思う。

拍子抜けするほど簡単だ。


想像して、言葉にするだけ。

それだけで世界が応える。


正直、もっと苦戦すると思っていた。

……流石は天才設定というやつか。


ともあれ、これで魔法が使えることは確定した。



次に考えるべきは、どうやって効率良く経験値を得るか、だ。


単独行動には限界がある。

ならば、使うべきは――。


「召喚魔法……か?」


だが、エーデルワイス・クロニクルには召喚魔法が存在しなかった。

オリジナル魔法ですら作れなかった分野だ。


それでも。


魔法入門書を手に取り、ページを捲る。


「この世界の魔法はイメージの世界……発想力が重要で、具体的であるほど良い。大規模なものは魔力を大量に消費する……詠唱はイメージを補助し、威力を増し、消費を抑える……」


入門書らしく、基礎的なことしか書かれていない。

発動速度や複数同時展開について触れていないのは残念だが――。


「……いけるな、これ」


少なくとも、この理論が正しいなら、この世界では召喚魔法は成立する。


問題は、何を呼ぶか、だ。


「カリスマ性のある悪役が使う召喚……高い知能、戦闘力、自己判断能力、命令理解、できれば会話も可能……」


条件を並べていくと、一つの存在が脳裏に浮かんだ。


「……いや、これ大丈夫か?」


だが、条件は完璧だ。

知能が高く、戦闘力も高く、コミュニケーションも取れる。


何より――得体の知れなさが、悪役として最高だ。


妄想が止まらない。

想像が膨らむ。


「……よし」


覚悟を決める。


「オリジナル魔法、やってみるか。まずは……1体」


深呼吸し、言葉を紡ぐ。


「……語り部(ストーリーテラー)︰[クトゥルフ神話]ミ=ゴ召喚」



俺がそう呟いた瞬間、部屋の空気が変質した。


まず、音が消えた。

壁の軋み、遠くの風、屋敷のどこかで鳴っていたはずの微かな生活音。そのすべてが、誰かに掴み取られたように霧散する。


次に、匂いだ。

鉄と、薬品と、土と、そして説明できない「何か」が混ざり合った、現実に存在してはいけない臭気が鼻腔を刺す。


床が、沈んだ。


いや、違う。

沈んだように見えただけだ。実際には、床という概念そのものが一時的に意味を失っている。


視界が歪む。

輪郭が定まらない。焦点を合わせようとすると、逆に視線が弾かれる。


最初に現れたのは「形」ではなく「存在感」だった。


そこに“いる”という確信だけが、説明抜きで脳に叩き込まれる。


やがて、ようやく視覚が追いつく。


楕円形の頭部。

だが、それは頭と呼ぶにはあまりにも不確かで、表面を覆うピンク色の触手が蠢くたびに、形状が微妙に変化しているように錯覚する。


角のように突き出た器官は、硬質であるはずなのに、見る角度によっては柔らかく歪んで見えた。


甲殻類を思わせる胴体。

節の一つ一つが生物的な合理性を持っているはずなのに、どこか「設計思想」が人類の理解を拒絶している。


四肢の先には鉤爪。

掴むためではなく、裂くためだけに存在するような形状。


背中には翼。

蝙蝠に似ているが、羽ばたいていないのに、周囲の空気が微かに震えている。


――理解した瞬間、背筋が粟立つ。


これは「召喚された存在」ではない。

「こちら側に合わせて、無理矢理現れている存在」だ。


探索者の皆様、SAN値チェックのお時間です。

成功で1D3、失敗で1D6。振らなくても、減る人は減ります。


俺は?

俺は減らない。


なぜなら、知っているからだ。

理解しているからだ。

これは恐怖ではなく、設定通りの登場演出にすぎない。


思考に、直接声が響く。


「……(召喚に応じ、参上しました。ご命令を、マスター)」


音ではない。

言語でもない。

それでも意味だけが、寸分の狂いなく伝わってくる。


……うん。


いいな、最高だ。


内心でそう評価しつつ、表情は崩さない。

悪役たるもの、初対面の配下に感動を悟られるわけにはいかない。


「……ゴホン」


軽く咳払いをして、命令を下す。


「近くの森で魔物を倒してきてほしい。倒した素材は基本的に自由だ。ただし、人間や亜人は攻撃するな。できるだけ目立たず行動してくれ。盗賊に関しては遠慮は要らん、処分しろ。」


一瞬の間。

ミ=ゴは、命令の内容だけでなく、その裏にある意図まで読み取ったようだった。


「……(了解しました、マスター)」


違和感がない。

意思疎通に齟齬がない。


……優秀すぎない?


「異変や強敵が出た場合は報告を。あと、仲間も増やす予定だから、上手くやってくれ」


「……(お任せください)」


こうして、俺はさらに二体のミ=ゴを召喚し、同様の命令を与えた。


異世界転生一日目。

アルフレッドは、誰にも知られぬまま、人知の外側へと足を踏み出した。

____________


TIPS

・オリジナル魔法


オリジナル魔法は本来、限られた者しか扱えない特殊魔法。

ゲーム時代、オンラインPVPにおいて猛威を振るい、見た目と属性が一致しない、精神的嫌がらせ特化(魔法の見た目を虫に変化させたりetc…)など、数多の魔法が生み出された。

その結果、PVP使用は禁止された。


語り部(ストーリーテラー):[クトゥルフ神話]ミ=ゴ


アルフレッドが生み出したオリジナル魔法。

一度召喚すれば維持コスト不要で、戦闘・索敵・命令理解に優れる。

コスパ最強。


____________


本作を読んでいただいた皆様ありがとうございます。

これから毎日投稿で20時に投稿予定です。

これからも読みたいよ、面白かったよと思って頂けたなら☆や♡、作品のフォローを是非よろしくお願いします。

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