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最高の悪役を目指した結果、俺は神話の存在すら利用する--理想の悪役を追い求める物語  作者: あんこ


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第2話 悪役はまず動く

――やっぱり、どう考えてもそうだ。


俺は転生している。

しかも異世界。

しかも、悪役令息アルフレッド・アドラー。


屋敷の自室で一人になり、窓から差し込む午後の光をぼんやりと眺めながら、その事実を何度も反芻していた。

光を受けて淡く輝く床。

壁に飾られた、実戦用というより儀礼用に近い装飾剣。

子供部屋にしては、やけに広すぎる空間。


どれもが作り物ではない。

現実だ。


指をぎゅっと握り、ゆっくりと開く。

もう一度、力を込める。

関節の動きは軽く、骨も細い。

子供の身体特有の頼りなさと、それでも確かに存在する体温。


「……夢じゃないな」


誰に聞かせるでもなく呟いた瞬間、胸の奥がじわりと熱を帯びた。


怖さは、ない。

これから待ち受ける未来を思えば、普通は恐怖や不安が先に来るはずだ。

だが、少なくとも今の俺には、それがほとんどなかった。


あるのは――高揚感だ。


異世界転生。

悪役転生。

しかも、噛ませ犬確定ルート。


主人公に負け、黒幕に利用され、最後は情けなく切り捨てられる未来。

本来なら、絶望以外の何物でもない。


だが。


「最高じゃないか!」


気付けば、口元が自然と緩んでいた。


主人公でもない。

モブでもない。

物語を“かき乱す側”。


しかも、この世界の悪役は揃いも揃って、流儀すら知らない三流揃いだ。

小物で、短慮で、己の役割すら理解していない。


なら、やることは一つしかない。


――俺が本当の悪というものを、分からせてやる。


悪役という役割を。

この世界そのものを。


「まずは…動こう」


そう決めた途端、考えるより先に身体が立ち上がっていた。

迷いはない。


屋敷の構造は、頭で整理するまでもなく分かる。

ゲームのマップ知識ではない。

アルフレッド・アドラーとして、この屋敷で六年間生きてきた記憶だ。


どこに何があり、

どの時間帯に人の気配が薄くなるのか。

どこを通れば、使用人と鉢合わせしにくいのか。


すべて、自然と理解できる。


向かう先は決まっている。


倉庫だ。



倉庫は屋敷の裏手、敷地の端にひっそりと建っている。

使用頻度の低い物品をまとめて保管している場所で、普段は誰かが常駐しているわけでもない。


「侯爵家ってのも悪くないな」


思わず小声で呟きながら、扉を押し開ける。


中に広がっていたのは、いかにも“倉庫”らしい光景だった。

古びた鎧。

使われなくなった農具。

サイズの合わなくなった武具や、予備として置かれた装備品。


整然としているようで、どこか雑多だ。


練兵場から武器を持ち出す案も、頭をよぎらなかったわけではない。

だが、あそこは管理が厳しい。

もし紛失に気付かれれば、誰かが責任を取らされる可能性が高い。


俺は“悪役”になりたいが、無差別に迷惑をかけたいわけじゃない。

それは三流のやることだ。


棚を一つ一つ確認しながら、奥へ進む。

埃の積もった箱をどかし、布を被せられた棚を開ける。


そこで、目当てのものを見つけた。


「……短剣か、いいな」


手に取ると、意外なほどしっくり来た。

重すぎず、軽すぎない。

刃はきちんと研がれているが、長く使われていないのは一目で分かる。


子供の身体でも、無理なく扱えそうだ。

これなら、いける。


「よし」


それだけで、胸が少し躍った。


武器を手に入れただけで、こんなにも楽しい。

やはり俺は、この世界向きらしい。



次は、屋敷の外だ。


正門から出るのは論外。

門番がいるし、記録も残る。


アルフレッドの記憶を頼りに、庭の隅へ向かう。

手入れが行き届いていない場所。

かつて木登りをして、父に叱られたことのある場所だ。


「ここだな」


低い塀に手をかけ、身軽に越える。

子供の身体は軽い。


――成功。


敷地の外に立ち、振り返る。

夕方の光を受けて、屋敷は静かに佇んでいた。


胸の奥で、さらに高揚感が膨らむ。


向かう先は、近くの森。

この辺りは弱い魔物しか出ない。


ゴブリン。

ボア。


ゲーム時代に、嫌というほど相手をした連中だ。



森に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


湿った土の匂い。

葉擦れの音。

遠くで感じる、獣の気配。


自然と足取りが慎重になる。

慎重に進んでいくと、すぐに見つけた。


ゴブリンが三体。


「まずは、お前たちだ」


短剣を構え、深く息を吸う。


油断はしない。

知識があっても、今は六歳の身体だ。


一気に距離を詰める。


奇襲。


最初の一体の首を、横薙ぎに落とした。


――ぐちゃり、と嫌な感触。


「……思ったより、気にならないな」


内心でそう呟く。


ゴブリンを倒しても、想像していたほど動揺はない。

現実味はあるが、恐怖はなかった。


「GYAGYA!?」


残り二体が声を上げる前に踏み込み、もう一体。

最後の一体は怯えた動きを見せたが――容赦なく斬り伏せた。


静寂。


「……こんなものか」


息を整え、短剣を下ろす。


転生して、最初の戦闘。

拍子抜けするほど、あっさりだった。



【Lvがアップしました。】


そう頭の中に響いたかと思えば、身体の奥から力が湧く感覚が広がる。


――来た。


「やっぱり、そういう仕様か」


意識を向けると、ステータスウィンドウが開いた。



名前:アルフレッド・アドラー

Lv:3


HP:52

MP:48


ATK:22

DEF:21

INT:23

MND:22

DEX:21

AGI:23


-魔法適性-

〈全〉

オリジナル魔法


-スキル-

〈万能〉〈剣術〉〈魔力操作〉



「悪くないな…」


全体的に偏りがない。

天才設定に相応しい、扱いやすい万能型だ。


魔法適性〈全〉も予想通り。

そして――オリジナル魔法。


「オリジナル魔法に適正があるのか、それは想像してなかったな」


これは元々、ゲーム時代に主人公が使っていたものだ。

自分で構成を組み替えられる魔法。


決してチートではない。

だが、使い方次第で化ける。かもしれない。


それが、今の俺にも使える。


胸の奥が、さらに熱くなる。


「……順調みたいだな」


まずは楽しむ。

この世界を、徹底的に。


その先に、理想の悪役がある。


短剣を握り直し、俺は森の奥へと足を踏み出した。



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