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香を焚き 煙の道に 問いを置き ふと現るる 影の気配よ 2

侍女の言葉に背筋が伸びる


「源氏様は香に深い関心をお持ちでございます

昨夜の香に、たいそう心を動かされたご様子でしたよ」


にこやかに微笑む侍女の言葉に、嬉しいような嬉しくないような…

信じがたい思いと、どこかくすぐったいような感情が胸に広がる


「そ、そうですか…」


苦笑いをしながら、軽く会釈をした


恐る恐る、香の間と呼ばれた部屋に入ると、香の残り香が空気の中にまだ漂っている

それはまるで、源氏の気配そのものが邸内に染み込んでいるよう

棚には沈香、白檀、丁子、龍脳などの香材が美しく並べられ、光が差し込むとそれぞれが淡く輝く

部屋の中央には、香炉と調香道具が置かれた机があり、まるで私の到着を待っていたかのように整えられていた

途端、緊張が走る


ふと奥に目を移すと、周りに女房達が座す中、その中心に、あの人がいた


光源氏


昨夜の男

扇に和歌を託し、香に興味を示したあの人


今は、紫の袍をまとい、静かに私を見ている

その姿はまるで、京都御所の紫宸殿に立つ装束の人形のように完璧で、周囲の空気さえ彼に従っているよう


厳格で神々しいまでの雰囲気…

確かにこの雰囲気だと、源氏に恋する女は沢山いるのかもしれないな…と、改めて思う

けど…


私は、深く息を吸い込んだ


関わりたくない

本音を言えば、昨夜限りで終わってほしかった

でも、六条の御息所がまだ生きている

だからここで失敗はできない


「昨夜の香、たいそう心を鎮めるものでした」


源氏は柔らかく言った


「ぜひ、皆の前でも焚いていただけませんか」


私は一礼し、静かに席に着いた

香を調合するために、香の材料を一つずつ取り出す

大丈夫…と自分に言い聞かせながら、匂いを確かめてゆく


白檀、沈香、丁子、龍脳…昨夜と同じ調合

線香の匂いに似せた祓いの香

穢れを祓い、心を鎮めるための香


でも

御息所に近づくためには、ここで印象を残さなければ…


心の中でそう呟きながら、ほんの少しだけ季節の気配を加えた


香を焚く

白煙が静かに立ちのぼり、几帳の向こうへとゆっくり流れていく

女房たちは目を伏せ、源氏はその香に目を閉じた


空気が変わる


言葉が消え、音が沈み、香だけが空間を満たしていく感覚

その瞬間は、やけにゆっくりと時間が進んで行くような、長い間に感じた

私は俯きながら目を伏せ、でも意識は研ぎ澄まされ、耳は洗練され

固唾を呑みながら様子を伺う


「これは…」


誰かが呟いた


「まるで、心の波が静まるような…」


その言葉に伏せていた目を上げた


香は語る

言葉よりも深く、記憶よりも鮮やかに…


私は深く頭を下げる


っよし…!

掴んだ

行けたんじゃない、これ!?


名も身分も霞むこの世界で、香だけが夕顔の…

ううん

私の存在を証す、唯一の武器だ


「雅とは申せませぬな」


え…


空気を裂くように、ひとりの声が響く

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