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冬風に 閉ざす心の 扉鳴り 呼べば乱るる 名を避けながら

「夕顔様!」


右近が慌てた足取りで部屋に入って来る

私は筆を置き、顔を上げた


「どうしたの?」


右近は一瞬、言葉を飲み込んだよう

瞳を彷徨わせた後、口を開いた


「それが…

暁様が…お見えになりました」


身体が固まる


「え…」


声が震えた


右近は申し訳なさそうに目を伏せる


「夕顔様に、お会いになりたいそうです」


その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる


『月影の 澄む夜の空に 問ふ心

なにゆえ君を 思ひわずらふ』


『この紅葉の葉のように

君の傍にいられたら…』


『その葉が…俺の代わりに、夕顔の傍にいてくれるといい』


両手で胸を押さえた


「会えない…」


会ったら…私は…


右近はそっと私の肩に触れた


「夕顔様

暁様は…夕顔様の御心が晴れぬ事を、ご存じないのです

逃げ続けても…暁様は、きっとまた来られます」


その言葉に心臓が跳ねる


「どうして返事がないのか、何かあったのではないか…そう思われて…」


そんな事言われたって…


右近は私の手を包み込むように握った


「暁様はただ…心配しているだけなのですよ」


その言葉に、深いため息をついて、目を閉じた


それが、一番困る…


その時、几帳の向こうから

控えめな、けれどはっきりとした声が聞こえた


「夕顔

少し…話がしたい」


心臓が跳ねる


右近は私の目を見て、小さく頷いた


「夕顔様

もし、お断りするなら…今しかありません」


震える声で言う


「…会いたくない」


右近は几帳越しに伝えた


「暁様…夕顔様は、今日は…お会いできないと」


几帳の向こうからは、直ぐに返答がなかったが

やがて、低く落ち着いた声が返って来る


「何かあったのか?」


息を呑んだ


そんなこと言われても…


右近が私の顔を見た

私は首を振る


右近は困ったように暁に伝える


「お話しできないそうです」


暁の声が、少しだけ強くなった


「理由も言えないほど…俺に会うのが嫌か?」


胸がちくりと痛む


そうじゃない…

そうじゃないけど…


言いたいのに、言葉にしたら…何かが壊れてしまいそうで…

拳を強く握りしめる事しか、出来ない


「嫌じゃないけど…

会いたくないです」


右近はその言葉をそのまま伝えた


「俺は…

何か、夕顔を傷つけるようなことを…したのだろうか?」


違う…

そうじゃないけど…


ゆっくり立ち上がり、几帳の前に進んだ

深呼吸し、震える手で几帳に触れる


「暁…あなたは、悪くない

でも…もう会いたくない

私に関わらないでほしい

兎に角…出て行って」


右近から、息を呑んだような音が聞こえた

暁も、几帳の向こうで静かに固まった気配がする


「理由も言わずに「出て行け」と言われても…納得できない

何があったんだ?

どうして…そんなに怯えている?」


怯えてる…?

怯えてなんか…


暁の声が、少しだけ強くなる


「夕顔

会いたくないと言われても…理由も分からずに帰ることなどできない

俺は…夕顔を心配しているんだ」


心配…


その言葉を聞いた瞬間、何かがぷつりと切れたような、気がした


思わず几帳を上げると、冬の光の中に暁が立っている

暁は驚いたような目で私を見ていた


「なんで心配なんかするのよ…

なんで会いたくないって言ってるのに帰らないのよ

なんで出て行ってって言ってるのに、出て行かないのよ!」


吐き出した言葉は止まらず

言いながら、勝手に涙がこぼれて来た


「困るんだ…そんな事言われても…

迷惑なんだよ…そんな事されても…

あなたが来ると…私はどうすればいいか…もう、わからなくなる…!」


だから…


「だから…お願い…

これ以上…あなたの事を、好きにさせないで…」

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