月影に 問ふる心の 行く先は 君を思へば 胸の明けゆく 2
「そうかな…」
「はい
香を焚かれている時や、庭先や御戸口を静かに見つめられ
ふと、深い溜息を洩らされることがございましたゆえ…
もしや暁様の事を、御胸にかけておられるのではと」
その瞬間、暁の姿が脳裏に浮かぶ
「そ、そんなこと…ないけど…」
右近は、どこか含みのある微笑を浮かべる
「そうですか
いずれ宮中の政が落ち着きましたなら、暁様もまたお屋敷や、五条のお住まいへとお運びくださりましょう」
「まあ、別に…どっちでもいいけど…」
右近から視線を外して、皿に飾ったお団子を縁側に運ぶ
白檀と、ほのかな梅の香りを調合した香の匂いが、部屋に漂う
十五夜の月が、庭を白く照らしていた
右近と並んで縁側に座り、二人で作ったお団子のようなものを几帳の前に供え、温かい湯をすすりながら、静かに月を眺める
「こんなふうに、ゆっくり月を見るなんて…前の世界では、なかったなあ」
思わず漏れた独り言に、右近が微笑む
「夕顔様は、いつも忙しくしておられたのですね」
「と言うよりは…
月を、綺麗だなって思って見る、余裕がなかったかな」
「今は…こうして、ゆっくりできますね」
右近の言葉に、胸がじんと温かくなる
そのときだった
「夕顔様、暁様がお見えです」
侍女の言葉に振り返る
暁が…?
胸が跳ねて、思わず立ち上がる
「夕顔」
月明かりの中に暁が姿を現した
「暁…」
以前より少し痩せたように見える
けれど、その目は、あの日と同じ、優しい光を宿していた
暁は深く息を吐き、ぽつりとこぼす
「…すまない
しばらく宮中の仕事が重なってて、来れなかった」
やっぱり…
「忙しかったんだね…」
暁は苦笑した
「今は…右大臣家が権力の中心に立っているから…
色々と…もう、毎日が戦場みたいで」
つられて苦笑する
「そっか」
「うん
でも…それだけじゃなくて」
暁は視線を落とした
「夕顔の噂が消えたばかりだから…
頻繁に屋敷に呼んだり、ここに来たら、また変なことを言われるかもしれないと…
それが怖かった」
それって…
暁は顔を上げる
その瞳は真っ直ぐだった
「夕顔を巻き込みたくなかった
でも…」
一歩、近づく
「会いたかった
ずっと」
その言葉に心臓が跳ねる
会い…たかった…
反芻しながら、微笑む暁の顔を見る
「そ、そう…か」
「それに、今日は十五夜だろう
中秋の名月を…夕顔と見たかったんだ」
胸が跳ねた
「私…と…」
暁は頷くと、懐から、梨と紅葉の枝を差し出す
「道すがら、よい梨が手に入ってね
それと…庭師から分けてもらった紅葉だ
君の部屋に似合うと思って」
右近がぱっと動く
「まあ…素敵でございます!
花瓶を持って参りますね
梨も切ってまいります」
右近が部屋を出ていくと、暁は私のすぐ隣に座った
なんか…妙に近い気が…
緊張するんだけど…
ゆっくりと、私もその場に座る
暁は、供えられたお団子を見つめながら指をさした
「これは?」
「あ…右近と一緒に作ったの
私のいた世界では、十五夜にお団子を供えるから」
「月見団子か
夕顔も月見をしていたんだな」
「うん、まあ」
暁は、ふっと笑った
「食べてみたい、月見団子」
「えっ…ほんとに…?
形が少し不格好なんだけど…」
なんか、恥ずかしい…
「夕顔が作ったものなら、何でも食べたいよ」
微笑みながら言う暁に、視線を逸らしながら、そっとお団子を差し出した
暁はそれを手に取り、月明かりの下でゆっくり口に運ぶ
「優しい味だ…
うん…美味い」
そう言って、笑顔で食べる暁
気恥ずかしくなって、視線を逸らした
「あ、ありがとう」
「忙しくても、来てよかった」




