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香を焚き 理を越えゆく 煙かな 異を恐れずに 我は立ちたり 2

晴明の目が見開く


「何…!?

欺かれたのか!」


私は香炉を手に、ゆっくり近づく


「香はただの香、物の怪はただの人

そなたが妖術と呼ぶものは、そなたの心が作り上げた幻影にすぎない

異を恐れる心、それこそが妖術や物の怪の正体」


晴明の手が護符を握り、かすかに震える


「異を、妖術と…」


私は扇を静かに閉じ、右近と暁に目配せする

晴明は言葉を失い、ただ立ち尽くす


「その恐れこそ

香の煙のように、霧のように…

己の心を曇らせているのではないでしょうか?」


霧が薄れ、朝日が私たちを照らす



「っはは!

さっきの陰陽師達の顔

最高だったね」


陰陽師が去った後、暁が隣で言った


大きく口を開けて笑う姿は雅ではない

けど…

つられて私も大きく口を開けて笑った


「ははっ

ほんとだね!」


源氏物語の世界で、初めて自然に…

心から笑えたような、そんな気がした


「されど、自分達で霧を作り出す事が出来るなんて…

誠、妖術のようでしたね」


右近が隣で頷きながら言った


「熱した石に水をかけると、瞬間的に爆発的な水蒸気を発生させる事が出来る

妖術に見えるかもしれないけど、これは理論に基いた原理、化学の力」


私は妖術使いなんかじゃない


「カガク…そういうものなのですね」


「焚いた火に水蒸気を多く含ませた葦も、火はつきにくい代わりに煙が発生しやすいから、煙幕のような演出に使えるしね」


隣で暁が付け足すように言った


「そして

香は使えずとも、蜂蜜や艾や菊は熱すれば香りが立って、煙が出る」


香なき香も、匂い立つんだ


「私には…夕顔様のお考えはわかりませんが…

それが夕顔様達がなせる業なのでしょう」


私は右近の手を取る


「それも…

右近が私の事を信じて、傍にいてくれたお陰

そして、暁も…

二人共、ありがとう」


「いえ…

では着替えましょうか、夕顔様

新しいお召し物の支度をして参ります」


右近はそう言うと部屋に向かった


朝の光が庭の木々を柔らかく照らし、淡く揺れていた

暁は袖を整えながら、ふと視線を横に逸らす


「夕顔

今日のこと、宮中に広まるのは時間の問題だろう」


「そう…かもね」


暁は腕を組み、少しだけ目を細めた

その表情は、戦場を読む武将のように鋭い


「そうなると、次は…」


次は…


「陰陽寮に命じた人物が…もっと強い手を打ってくる…かな」


風に揺れる、庭の草木を見ながら言った


「恐らく」


暁の声は落ち着いているけれど

揺れる瞳は、緊張を隠しきれていないように見える


「けど…

俺は、それでも夕顔を守る

同じ、転生者として」


揺れていた瞳は、真っ直ぐに私を見た


「ありがとう、暁」


私は小さく笑うと

暁も柔らかく微笑んで、頷いた

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