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香を焚き 理を越えゆく 煙かな 異を恐れずに 我は立ちたり 1

橘の君へのテストから程なくして、深夜すぎに、陰陽師達が私の香を封じに来ると、右近から伝えられた


右近は眉間に皺を寄せ、伏目がち

私はそんな右近の肩にそっと触れて、微笑む


「大丈夫よ、右近

あの日話した作戦通りに行えば、大丈夫だから」


「はい…」



その夜

静かな部屋で私と右近、そして暁が集い、再度作戦会議をする


「言われた通り、持って来たよ」


暁の手元で、月明かりを受けて蜂蜜が淡く光った


「ありがとう

じゃあ集めた石と、葦や艾や菊などを、設置個所に移動させよう

右近は侍女達と共に、鉢に火と釜に水の手配を」


「わかりました、夕顔様」



月光が、垣根に、ほんの少し残っている夕顔を仄かに照らし、夜風が葦をささやくように揺らす

家の門が静かに開くと、陰陽師達が現れた

白い狩衣が風に揺れ、霊符のような物が腰に揺れる

陰陽師達の足取りは迷いなく、家の奥へと進む


「先頭に在らせられるのが、清明様です」


横からそっと右近が耳打ちをしてくる


清明…


今まで、伝記や創作でしか見た事がなかったけど、陰陽師達の中で一際オーラを放つその姿と存在感に、喉が小さく鳴った


私は家の物陰からその様子を伺いながら扇を握り、胸の鼓動を抑える


「我ら、上よりの御命を受けて参った

夕顔よ、姿を現せ」


その言葉を合図に、私と右近は目を合わせ、右近は家の奥に消えた

私は几帳の陰から顔を出し、そっと外へと歩みを進める


目の前に立つのは陰陽寮の伝説、安倍晴明

涼しげな目つきで私を見ている


「夕顔、汝の香は妖術

その力を封ず」


晴明の声は冷たく、月光に照らされた狩衣の裾が揺れる

護符を握る手は揺るがない


私は扇をそっと開き、微笑を浮かべた

額には冷や汗が滲むのがわかる

手も震えている、油断したら扇を落としそう

けれど平常心を装い、挑発的な口調を意識して言い放つ


「私の香はただの香

されど、そなたが妖術と呼ぶなら…

私の力、その目でしかと確かめなさい!」


「晴明様、本性を表しました!

やはりあやつめは妖の業を使い、人を惑わす者にございまする!」


「ふむ

望むところ」


視線と視線がぶつかる

お互い相手を捉えて離さない

清明が微かに足を踏み込んだ瞬間、それっぽいポーズを取りながら声高に叫ぶ


「水神!水龍の術!」


その言葉を合図に、物陰で暁は釜の水を石に注ぐ

瞬間、シュッと蒸気が上がり、濃い霧が辺りを覆う

右近は静かに焚き火に湿った葦を投じる

ふわりと煙が立ち上がり、周辺を包む


私はすかさず香炉を手に取り、蜂蜜を塗った艾と菊の葉に火を灯した

煙と、甘く怪しい匂いが霧に溶け、香りが辺りに広がる


「な、清明様、この香…!」


「うむ、妖の気配…」


準備は整った


私は扇を掲げ、声を張り上げた


「妖霧術・物の怪召波ぁっ!」


叫びが空間に響き、霧が一気に広がる


霧の中、現れた物の怪

白い単衣をまとい、長い髪を振り乱してゆらゆらと漂うその怨霊は、ゆっくりと清明に近付いてゆく

刀のようなものを携えた、暗い狩衣に身を包んだ亡霊は、霧の中で不気味に揺れる


晴明の眉がわずかに動く


「物の怪か…!」


「この霧は黄泉の門、香は魂を呼び寄せる…恐れなさい、晴明!」


私は扇を優雅に振り、煙を操る


何処からか鈴の音が鳴り、チリンと清らかな音が響く

怪しい光が霧の中で不気味に明滅を繰り返す


「ハァッ…!」


と言う、獣のような低い声

カチンと金属音を響かせ刀を振る亡霊は、威圧感を放ち、霧の奥で消えるように動く


「うぅ…」


更に聞こえた呻き声

その声は、清明に手を伸ばす


晴明の瞳が鋭く光る


彼は護符を構え、低い声でぶつぶつと何やら唱え始めた


私は香炉をそっと投げ、煙をさらに濃くする


「この妖術、いかなるものだ!?」


晴明は詠唱を止めて、声を荒げた


声に焦りが滲んでいるよう

晴明の額に汗が光っていた


今だ


私は扇を大きく広げ、霧を一気に煽る

辺りの霧が散った


「物の怪?

ただの人間よ!」


右近と暁が霧から踏み出し、白い単衣と暗い狩衣のまま現れた

手には鈴や刀、鏡をそれぞれ持っている

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