星の光 雲に紛れて 見えねども まことの星は 空にたたずむ 2
転…生者…
「な、なんで…
なんで、紅葉賀の時に気付いたのに…気付いたなら、私にはっきりと言ってくれなかったの?」
あんなまどろっこしい、香の贈り物や和歌の応酬、香木までして…
「宮廷とはそういうところだ」
その言葉に、はっとして暁を見た
そう…だった…
『夕顔様の焚く香が妖術と…宮廷で噂になっております』
『陰陽寮より、香の封じを命じられました』
宮廷は、香も、言葉も、視線も、すべてが駆け引きで、策略であり、政治であり、武器であり、罠…
「夕顔が転生者であると宮廷の人間に知られれば…「異物」として排除しようとするだろうし、俺もそうだろう
俺は、この世界に、前の時代の記憶を持って「暁」として生まれた、原典には存在しない者だから」
暁は目を伏せ、ゆっくりと息を吐いた後、私を見た
どこか寂しげな暁の微笑み
胸がきゅっと痛む
「でも、宮廷がどうであろうと、俺は君の味方だ
君の香は、人を惑わすものじゃない
人を癒し、導く香だ
俺はそう思っているから、君を守って来た」
『理由など、要りませぬ
ただ、そなたを守りたいと思う心があるのみ』
『夕顔の君
もしそなたが困ることあれば、私はいつでも力を貸そう
先日の香木も、その印
他意はなき』
「暁…」
小さく呟く
「君に、扇を渡した時から…」
暁は微笑んだ
えっ、扇…
『夕顔様、あちらの貴人より、これを夕顔様に…』
『右近、この和歌、どういう意味?』
『夕顔様、この和歌はこう申しております
『月影に 香の煙の 立ちのぼる
そなたの姿 心惑わす』
この歌は、夕顔様が香を焚く姿を、月光に浮かぶ煙にたとえて、その美しさに心を惹かれたと詠んだもの』
その時、几帳の隅から声が聞こえた
「やはり、夕顔様は…
そして暁様も、私が知る世のお方ではないのですね」
振り向くと、俯いていた右近が顔を上げた
その顔は薄白く、漆黒の瞳は真っ直ぐに私を捉えている
「私は今まで誠心誠意、夕顔様に尽くして参りました
けど…
香った事のない香の調合や、”ケセラセラ”という言葉、”うどん”と言う食べ物の事、言葉の選び方…、どれも、私の常識では測れぬものです」
私は言葉を失った
右近は私の正体に気づいていたのだ
「されど…
香を通じて、御息所様の御心を救い、紫の上様を励まし、葵上様の御心を開いた
そのすべてを、私はこの目で見てきました」
私は右近を見た
「私は…
夕顔様がどのような方であろうと、変わらずお傍におります
香を封じられようと、夕顔様の香は私の心に在りますから」
その言葉に胸が熱くなるのを感じた
右近は何も問わず、ただ私を信じてくれている…
「ありがとう、右近
私は香でしか語れない
けれど、右近がいてくれるなら…私は、まだここにいられる」
右近は深く頭を下げる
私は、香包を胸に抱きしめた
私は、香を焚く者
この世界に生きる者として…香が使えずとも、香で語り、香で導く
となれば、やはり…
「陰陽寮に進言した者が誰なのか、それをまず、突き止めなければ…」




