星の光 雲に紛れて 見えねども まことの星は 空にたたずむ 1
目を見開く
胸が跳ねた
「どういう、ことで…?」
辛うじて出た声は震えた
自分でも驚くほど、弱い声
月明かりが几帳の端を淡く照らし、暁の影が静かに揺れる
「紅葉賀の折
私は遠目で、そなたを見ていた」
『…どうして私の名を、ご存じなのですか?』
『紅葉賀の折、右近が夕顔様と呼ぶ声を、火急の騒ぎにて耳にしました』
『その時、火の煙に混じりながらも、かすかに漂う香がありました
その名と香とが重なり、今も忘れられぬのです』
暁の瞳は、夜の港のように黒く深く
鋭い視線を私に向けた
「だが…
『紅葉賀』の時点で、原典の夕顔はすでに亡い」
胸の奥が、どくん、と再び跳ねる
息を呑んだまま言葉を失う
原作を…知っている…
「それなのに、そなたはそこにいた
生きて、香を焚き、右近と共に歩いていた
だから私は思った
そなたは…この世の筋書きに属さぬ者だと」
どうして…
まさか…暁も私と同じ…?
彼の声は夜気よりも静かで、けれど逃れようのない重さを帯びる
「夕顔
そなたは本来の夕顔ではない
この世に、別の理から来た者…
そうであろう?」
問われた瞬間、胸の奥で、ひどく危うい予感が芽生えて、応えられず口籠る
この人は、筋書きを知っている
私が、本来の夕顔ではないと、確信している
そんなこと…この世界の人間に分かるはずがない
でも…
ここで正体を明かして、もし暁が、私の情報を知るための罠で、敵なら…
私は、すべてを見抜かれ、晒すことになる
それは危険だ
どちらなのか、まだ分からない…
暁は私の沈黙を責めるでもなく、ただ静かに見つめている
「暁様は、どうして…
そこまで、私のことを…?」
ようやく絞り出した声
暁は私の問いにすぐ答えず、ふと夜空へ視線を上げた
その美貌は月に照らされ、輝いている
几帳の向こう、月が淡く揺れ、庭の木々が風にそよぐ
静けさの中で、暁はそっと口を開いた
「敵にあらず 煙にまぎれし 星のごと
共に仰ぎて 夜を渡らん」
その和歌…
暁は、ゆっくりと私の方へ視線を戻す
「夕顔
この歌の意味を…そなたはもう、分かっているはずだ」
息を呑む
声が出ない
「”煙にまぎれし星”とは…
この世の筋書きに属さぬ者
原典の外から来た者のことだ」
胸の奥が震える
「そして”共に夜を渡らん”とは…
同じ闇を知る者が、互いを見つけるということ」
月明かりがその美貌を照らす
「星にまぎれ、夜を渡る者
そなたの歌は…この世の者には詠めぬ歌だった
あれは、原典の筋書きの外に立つ者の歌だ」
身体が石のように固まり、視線を逸らすことが出来ない
「だから私は気づいた
そなたは…私と同じだと」
胸が強く脈打った
そ、それって…
彼の瞳が、まっすぐに私を捉える
「俺も君と同じ、転生者だ」




