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追放の 報せに沈む 香の色は 誰を救いし 誰を惑わす 3

香箱を指先で弄びながら、その匂いを確かめるでもなく、ただ感触だけを頼りに、私は思考の底へ沈んでいく


一体誰が、陰陽寮に進言したのだろう


宮廷からの出入り禁止、続いて、陰陽寮より香の封じ

右近は「宮廷からの命」としか言わなかった

けれど、宮廷そのものが一つの意志を持つわけではない

必ず、誰かの口から、誰かの意図が形になって陰陽寮へ届いたはずだ


「…御息所」


ふいに浮かんだ名を、すぐに首を振って否定した


『遠く離れても、これが最後ではございません

私と御息所様は、香で通じております

いつまでも』


あんな会話を交わし、打ち解けていた…と思う

今さら陰陽寮に「夕顔を封じよ」と進言するはず…ない

御息所は御息所なりに、心のけじめをつけたんだ


「…葵上」


それも違う、と心が告げる


『夕顔、この事頼むぞ

香と和歌、共に調えて、君に届けてくれよ』


香を染ませた栞を託され、夕霧を抱く腕に、かつての硬さはもうなかった

葵上が恐れるものは、源氏の不安と自分の孤独だったはずだ

今の葵上が、わざわざ陰陽寮を動かすほど、私を恐れているとは思えない


「紫の上が、私を封じるために陰陽寮を動かす…」


考えられない…

あの子は、香を恐れたりしない

むしろ、香を通して心を開いた子だ

今も源氏のもとで静かに暮らしている

違う、紫の上でもないはず


「藤壺…」


も、あり得ない…

今は原作通り、源氏の君との秘め事に心を砕き、私の香など、もう思い出す暇もないはず

藤壺が私の香を妖術と恐れるとは思えない


「あ…橘の君…?」


胸の奥が、わずかにざわついた


私が物語改編で生んだ人物


『藤壺様もそなた様の香に興味をお持ちのようで、お目通しを望まれております』


藤壺が香を焚かなかったことで事なきを得たが、あれは明らかに私を貶めるための仕掛けだった

橘の君は、表では優しく微笑みながら、裏では誰かを動かすことができたんだ

陰陽寮に進言することも、できなくはない

でも…あの一件以来何もなく、今更そんな事をするだろうか…?

いや…読めない

味方にも敵にもなり得る人、だ


「そうなると…朧月夜…」


『暁の心はそなたに向いているが、そなたが軽々しく応じぬなら、政に波風は立たぬ

香を焚く者として、務めを果たすのみ…

その姿勢、私も認めよう』


香を通して私を評価してはくれたが、もし私の香が波風になると判断したなら、陰陽寮に進言することも、あり得る

朧月夜は最も現実的

でも、決定的な悪意は感じない

…分からない


「後は、暁…?」


『夕顔の君

もしそなたが困ることあれば、私はいつでも力を貸そう

先日の香木も、その印

他意はなき』


暁が私を封じる理由など、どこにもないけど…


暁は、物語改編で私が生んだ人物

私の知らないところで何を考えているのか、本当は分からない


『右近より文を受け取り、参上仕った次第

夕顔の君が、鬱金の香を焚かれたと聞き及び…

これは、ただならぬ御心の訴えと見受ける』


でも…暁が私を貶めるために動いたとは…思えない


「もしかして、中将…?」


胸の奥に、ざわめきが走った


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