35/66
朧月 香にまぎれて 影揺らぐ 嫉心と警戒 ひそかに燃ゆる
夜の御殿
燈火の下、私は几帳の陰に座して香を焚いていた
惟光が静かに進み出て、恭しく頭を垂れる
「夕顔の君に関わることにございます」
私は扇を傾け、目を細める
「申せ」
惟光は慎重に、言葉を選ぶような様子で続けた
「右大臣家の暁の君、夕顔の君に香木を贈られました
名香『夢浮橋』の欠片にございます」
しばし沈黙し、扇で口元を覆う
燈火の揺らめきをじっと見つめる
右大臣家の名香を夕顔に贈るは、思慕の証にして、政の庇護をも意味するもの
夕顔は、我が庇護の手を離れ、右大臣家へ渡りゆくやもしれぬ…
「暁が…夕顔を慕うと申すか」
惟光は深く頭を下げる
「はい
暁の君の姉上、朧月夜様もまた、夕顔の君を認めておられる様子
右大臣家に近づきすぎること、政においても危うきことかと存じます」
扇を閉じ、低く呟いた
「なるほど
暁の心を牽制するには…朧月夜を通すのも一手か」
燈火の揺らめきが几帳を照らし、影を長く伸ばす
朧月夜を通し、右大臣家の意を探り、暁の想いを制する
それが…




