表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/66

秋風に 紅葉が舞いて 星見えず 香の香りも 匂い立ちぬ 1

紅葉賀の夜宴から数日が過ぎ、私は自宅の静かな部屋でようやく心を落ち着けていた

そんな時、右近が慌ただしく部屋に入ってきた


「夕顔様、贈り物が届きました」


右近の声は弾んでいて、彼女の手には小さな包みが握られている

包みを包む和紙には、紅葉の葉が一枚、丁寧に結びつけられていた

その瞬間、私の心臓が跳ねた

あの夜宴で私が返した、赤く染まった紅葉の葉の記憶がよみがえる


まさか…


「右近、これは…誰から?」


私は平静を装いつつ、右近から包みを受け取った


右近は目を輝かせ、牛車の中と同じ、まるで素敵な秘密を共有するように囁く


「夕顔様、こちらは『紅葉のお方』からの贈り物です」


「紅葉のお方」…


なんて、原作にそんな呼び名の人はいなかったはず…だけど

思い当たりそうな人物は、紅葉賀で、私が紅葉の葉を渡した貴人くらいしかいない

と言うか、十中八九そう

でも…


「右近、その『紅葉のお方』って、誰なの?

もしかして、あの夜の貴人?」


私は声を落ち着けつつ、右近をじっと見つめた

右近は少し首をかしげ、微笑む


「さあ、私も詳しくは存じません

ただ、贈り物を届けた者が、そう申しておりました

なんとも風雅なお方でございますね」


わから…ないのか


深呼吸する


「紅葉のお方」が一体誰なのかはわからなけど…

どう考えても、紅葉賀の貴人以外、考えられない

だとしたら、この贈り物は私が貴人に返したものへの返答…


「右近、この贈り物、ありがたく受け取りますが、返事は致しません」


私はきっぱりと言う

右近は少し驚いたような表情をしたが、すぐに穏やかに頷いた


「そうですか

夕顔様の慎重さ、よくわかりました」


ここで返答をしたら、贈り物の応酬になるはず

黙するは金

…で、いいよね?

金以外…今の所わからないし…取り敢えず金!


…と思ったけれど


夕餉の後

日中届けられた香の包みが視線に入り、立ち止まって凝視した


中身…なんなんだろう

和歌?手紙?それとも…


ゆっくりと包みに手を伸ばす


黙するは確かに金

けど、沈黙は時に刃…

内容によっては対策が必要になるかもしれない

一旦、中身を確認してみようかな…


そっと包みを開けた

中には紅葉の葉が数枚、丁寧に重ねられ、その下に小さな香炉用の香の包み


これ…だけ…?


香の包みに鼻を寄せると、甘く、一瞬、懐かしい香り


この…匂い…って


思わず香の包みを手に、香炉に炭を入れて、貰った香を焚く

先ほどの匂いがより強くなり、私の記憶に鮮明な情景が浮かぶ


お店の近くを通るといつも香って来た…街のパン屋

誕生日に、白い箱を開けた時の…あの甘いケーキ

まさに、その匂いに似てる


ドキドキと心臓が早くなるのを感じる

それは恋のときめきではない


その時、几帳の陰から、すっと右近が現れた


「不思議な香りがしますね

匂った事のない香りですが、なんだかいい香りです

また新たな香を調合なさったのですか?」


「え、ええ…まあ…」


右近の言葉に、動揺しながら何となく同意したけれど

視線を空虚に戻す


匂った事のない香り…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ