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紅葉舞う 香にまぎれて 身を隠す 誰の視線も 煙に溶けよ 4

華やかな宴が行われている片隅

一人の貴族が佇んでいる

顔はよく見えないが、こちらをじっと見つめているよう


「ほう、夕顔の君に目を留める者が他にもいるとは

風流な贈り物だな」


中将は扇を見て、わずかに眉をひそめた


中将…


その言い方に思わず中将を見るけど、言葉に詰まり、目を伏せる


原作で中将は夕顔の事を「行方知れず」と言っていた

その意味は、夕顔が捨てたのか、捨てられたのかまで読み取る事は出来ない

だからここで下手な事は言えない


夕顔は…ただ誰かに選ばれるのを待っていた

でも今は…、ううん、私は違う

私は選ばれる存在じゃなくて、この世界で香を焚き、生きる伸びる術を身につけた

それは、誰かの傍にいる為じゃなく、自分の未来を切り開く為


私は右近から受け取った扇を閉じ、香炉のそばに置いた

足元に落ちていた、赤く染まった一枚の紅葉の葉をそっと拾い上げて、右近に手渡す


「右近

この紅葉の葉を、あの貴人へ」


右近は小さく頷き、紅葉の葉を受け取ると、静かに宴の向こうへと歩いていった


中将の想いに応える気はない

でも私の思いが口で伝わらないなら、伝えられないなら、こうするまで

貴人には申し訳ないけど、この機会、使わせて貰う

こうすれば中将は私を諦めるはず…


「ほう、そうか

面白い…

益々わが傍に置きたくなった」


え…


中将は意味深な笑みを浮かべると、管弦の音が響く中、そっと宴の奥へと去って行く


なんで…

そんな…


『言葉は交わさない

花で返すわ』


『花は沈黙の言葉

あの方は、それを読めるはず』


『言葉なき同行…それもまた、風雅』


あの時、源氏は理解したのに…

まあその理解も、私が意図した理解とは違ったんだけどさ…

だからこそ理解したんだ

花を贈る事は恋愛的な意味を持つってね


だから中将も

私が紅葉の葉を貴人に渡せば、風流を理解しているならば、察してくれると思った

諦めると


なのに…


『面白い…

益々わが傍に置きたくなった』


どうしてそうなるの…


「夕顔様」


その声にはっとして声の方向を見ると、右近がそっと私の傍らに戻り、囁く


「紅葉の葉を貴人にお渡ししました

あの方、しばらく葉を見つめておられましたが、静かにお辞儀をなさって、引き下がりました」


そうだった…


その瞬間、胸の奥がじわりと冷える


紅葉の葉を受け取った貴人にとっては、扇への返礼のように見えているんだった


『あの方、しばらく葉を見つめておられましたが、静かにお辞儀をなさって、引き下がりました』


右近の言葉が静かに胸に響く


貴人は何かを察したのだろうか

それとも、誤解したまま礼儀として引いたのだろうか


私は香炉の炭を整えながら、そっと小さい息を吐いた


風雅の世界では、言葉よりも“間”がすべてを語る

でも、私はその“間”を読み違えたのかもしれない


中将には逆効果

貴人には誤解


私はただ、香の流れを見つめるしかなかった


この世界で生きるには、もっと慎重にならなければ

風雅の沈黙は、時に刃にもなる


煙の向こうに、宴の音が遠く揺れていた

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