紅葉舞う 香にまぎれて 身を隠す 誰の視線も 煙に溶けよ 3
「やはり、夕顔の君
こんな場で再び会うとは」
ああ…
出来れば、会いたくなかった相手
源氏物語では夕顔と頭の中将は元恋人…いや、夫婦ともされる関係
とは言っても、そのようであったとされていて、はっきりと明言されているわけではない
「香を焚く姿、さながら月下の花のようだ」
頭中将は軽やかな笑みを浮かべ、甘い言葉を述べながら私に近付いて来る
「お久しゅうございます
紅葉の宴の風雅に、つい心を寄せておりました」
中将の甘い言葉から距離を取るように、引きつってしまう笑顔で言葉を返す
マズい…
こんな場面、源氏に知れたらややこしい事になるし
宮中に知られたら、また変な火種を生みかねない
ここは何としてでも、周囲に気づかれないようにしなければ…
「されど、そなたがこの宮廷で香を調えるとは、どのような縁でこの場に?」
中将の口調は軽いが、すっと目を細め、私の瞳をじっと見て来る
探るような視線、試すような言葉…
その視線と言葉に、動揺と緊張で目が逸らせなくなってしまうが、頭の中では物凄い勢いで思考が働く
穏便に、波風立てず、粛々とやり過ごす
目線を外し、煙の流れを見つめながら、静かに答えた
「宮中での務めを仰せつかり、参上したまで
私のような者に、ただ香を焚く役目が与えられたのです」
中将は、私の言葉に少し眉を動かした
その視線は鋭い
「ほう、宮中の務めか
そなたの香は、この庭の紅葉にも勝る清らかさだ
だが、そなたほどの女性が、ただの役目でこの場にいるだけとは思えぬな」
…詮索してくるなあ
「中将様のお言葉、ありがたく存じます
されど、私はただこの場に仕える身
風流を愛でるお方々のために、香を調えるのみです」
私は微笑を崩さず、香炉に手を添えながら答えた
早く、この場を穏やかに終わらせたい…
しかし彼は一歩前に出ると、声を低め、熱っぽく囁いた
「夕顔の君、そなたの香は人の心を惑わす
今宵、宴の後、月影の下でそなたと語らいたい
かつてのように、心を通わせたいのだ」
そんな事を言った中将に戸惑って、思わず顔を凝視した
どうして今そんなことを…
「中将様のお心、身に余る光栄です
されど、私は…」
「そなたの心が今、どこにあろうと、わが想いは変わらぬ
いずれ、そなたがわが傍にいる日を、必ずこの手でつかむ」
そんなふうに言われても…
私は、頭の中将が知っている、夕顔じゃない…
「私は…」
私は…
何て言えばいいの…?
そんな時、右近がそっと私に近付く
彼女は手に一枚の扇を持ち、穏やかな笑みを浮かべていた
「夕顔様、あちらの貴人より、これを夕顔様に…」
右近は小さく囁き、扇を差し出す
扇には雅やかな字で、恐らく、和歌のようなものがしたためられていた
えっ…誰…?
あちらの貴人って…
驚きつつ、几帳の向こうに視線を向ける




