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燃ゆる火に 怯えし夜の 夢のあと 残るはひとつ 愛を乞ふ声 5

後日、六条の御息所の邸に香を届けに向かった

それと一緒に、新たに作った香袋を改めて彼女に手渡す

六条の御息所は香袋を受け取り、そっと目を閉じる


「この匂い…

以前、夕顔がくださった香袋とはまた違って

懐かしい気持ちになるものですね」


そう言って、香袋を両手で包み込むように抱きしめた


「この刺繍は…何かの模様?」


彼女の衣に使われていた金色に近い糸で、香袋に刺繍した言葉


「『あなたの”今”が、誰かの光になりますように』そう記されています」


六条の御息所は香袋から目を離し、私と目が合った

驚いたようなその表情は、ゆるゆると綻び、やがて微笑みに変わる


「そうですか」



牛車に揺られながら、六条の御息所の邸を後にする


このままいけば、六条の御息所は、もう夕顔を殺すことはないだろう

きっと心穏やかに過ごすことができる

これから先、葵の上を呪い殺すという悲劇も…


そこまで考えた時、はっと気づいた

それは、今まで生き抜くことに必死で、忘れていたこと

いや…気づいていたのに、見ないふりをしていただけなのかもしれない


秋の少し肌寒い風が、帷の隙間から私の身体を撫でていく


夕顔が死なない未来を築いたなら

これから葵の上が死なない未来が来るのなら


「源氏物語」の世界は、原作とは違う未来になるのではないか


夕顔が死ななければ、物の怪の存在はない

葵の上が死ななければ、紫の上が正妻になることもない

紫の上が正妻にならなければ、女三宮との婚姻も、紫の上の死も…

そして、源氏が唯一欠けていた「人を愛する」ということに、気付くこともない


それはつまり

「源氏物語」の根幹を揺るがすこと


いや…

もう、世界は揺らぎ始めているのかもしれない

私はすでに、その渦中にいるのかも…


私の行動が、選択が

源氏物語では名を見た事がない、橘の君と言う女の存在を生み

源氏物語の世界を歪ませ、変えているのだとしたら…


夕闇に立つ自宅の前

垣根には、夕顔の花が風に揺れ

静かに咲いていた

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